文化と芸術: 2017年10月アーカイブ

一昨日は大雨の総選挙投票日。見るに堪えられない日本の政治状況と大雨が相まって憂鬱な一日になりそうでしたが、幸いそうならずにすみました。

 

ベネズエラ発の音楽運動である「エルシステマ」のフェスティバルにいったからです。エルシステマのモットーは、「奏で、歌い、そして困難を乗り越えろ」。10/22のガラコンサートでは、相馬子どもコーラス、ベネズエラのヴォーカル・アンサンブルグループである「ララ・ソモス」、そして井上道義指揮フェローオーケストラの三部構成でした。

 

相馬子どもコーラスの子供たちの歌は、ラッキイ池田による振付も効果的で驚くほどの完成度。また東京ホワイトハンドコーラスとも共演。東京ホワイトハンドコーラスは6月に結成したばかりで、今回初お披露目。ホワイトハンドコーラスとは、ベネズエラで22年前に誕生した聴覚障害者や自閉症などの困難を抱えた子供の参加を重視した合唱団です。白い手袋をしたパフォーマンス(手歌)を行うことからそう呼ばれています。耳が聞こえない子供だって合唱を楽しみたいはず、そういうことから始まったのだと思います。

 

今回は10数人の子供を中心とした公演でした。相馬子どもコーラスの歌に合わせて白い手袋をつけた手で、歌を表現します。(手の動き/サインマイムは子供たちも一緒になって考えたそうです。)耳が聞こえないため、耳の聞こえる指揮者が歌に合わせて白手袋でパフォーマンスし、それを子供たちが見て同期するように動かすわけです。ベネズエラからホワイトハンドコーラスの指揮者がわざわざ来て指揮しました。中には落ち着きがなく、なかなか合わせられない男の子もおり、後ろで演技する(多分)お母さんが手を焼いていましたが、なんとかやり遂げました。そういう子であっても仲間と一緒にコーラスに参加できることの価値はとても大きいと思います。人間は仲間と協働することに喜びを感じる動物であり、協働するための最も重要な能力は言葉を聞いて発声することです。しかし、生まれながらうまく発声できない子供には、協働することがなかなかできません。ましてや、みんなで音楽に合わせて歌うことなど不可能だと思われていたでしょう。でも、それを「乗り越える」ことを、エルシステマは可能にしたのです。素晴らしいことです。本当に子どもたちは楽しそうでした。

 

第二部のララ・ソモスは、視覚障害者と聴覚障害者それぞれ6人くらいからなる大人の楽団です。聴覚障害者はホワイトハンドコーラスのメンバーでもあります。視覚障害者の歌う歌に合わせてホワイトハンドが動きで歌詞を表現する。視覚障害者と聴覚障害者の双方に指揮者がいます。コーラス(歌)の指揮者は普通の指揮をしますが、視覚障害者の歌手にはそれが見えません。歌い手たちは軽く手をつないでおり、その中の一人は多分目が見えるのでしょう、指揮に合わせて両手のひらを軽く動かしサインを送っていました。それが歌いはじめの合図なのでしょう。歌いはじめれば、後は耳が聞こえるので全く問題ない。目が見えないことで、聴覚が研ぎ澄まされるのでしょう。素晴らしハーモニーでした。この日のために準備してきたであろう「上を向いて歩こう」は絶品でした。

 

ホワイトハンドの指揮者は、コーラスの音に合わせて白手袋での指揮をします。彼ら彼女らの表現力も素晴らしい。歌詞の意味は分かりませんでしたが、手と腕で世界を表現していました。やはり耳が聞こえないことで、健常者以上の表現力が身に付くのかもしれません。視覚障害者と聴覚障害者のコーラス団なんて想像もできませんでしたが、潜在能力を活かしあうことで高いレベルの芸術表現ができることを実証。ハンディキャップを新たな能力を発揮するための機会にしうるのです。

 

第三部では、ベルリンフィル、コントラバス奏者のエディクソン・ルイスも共演。彼は17歳でベルリンフィルのオーディションの合格したエルシステマのOBです。最後は、相馬子どもコーラス、東京ホワイトハンドコーラス、ララ・ソモス、フェローオーケストラの全出演者で、ベネズエラの第二の国歌と言われている歌を大合唱。エディクソン・ルイスも相馬の子供たちのバックを楽しそうに務めていました。

 

パラリンピックの浸透により、日本でも徐々にハンディキャップを「活かす」という考えが広がってきていますが、音楽のフィールドでそれを実現しつつあるエルシステマ・ジャパンの活動をこれからも応援していきたいと思います。

 

今晩は選挙一色のTVを観たくないなと思いながら、東京芸術劇場を後にしました。

このアーカイブについて

このページには、2017年10月以降に書かれたブログ記事のうち文化と芸術カテゴリに属しているものが含まれています。

前のアーカイブは文化と芸術: 2017年9月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

月別 アーカイブ

ウェブページ

Powered by Movable Type 4.1