2014年7月アーカイブ

ある企業の幹部研修で、メンバー各自が抱える組織に関する課題を挙げてもらいました。

いろいろあったのですが、多くの方が挙げたのが「後継者が育たない」と「高齢化が進み硬直化している」のふたつでした。

 

●後継者が育たない

最近は、サクセッションプランを作成する企業が増えました。なぜでしょうか?ひとつには危機管理。企業があらゆるリスクに敏感になったからでしょう。もうひとつは、暗黙の了解による後継者が浮かび上がらなくなったからではないでしょうか。

 

以前の日本企業では、事前に後継者を指名して計画的に育成する仕組みを持つ企業などありませんでした。それでも、特に不都合なく、なんとなく衆目の一致する部下が後継者になっていったのです。なぜそれが機能したのか。

 

終身雇用を前提とし、長期的に育成していくことが当たり前だったので、誰が後継者としてふさわしいかを評価する時間が長かったことが大きい。また、定期的にローテーションするので、評価者も増えていく。つまり、多くの人がじっくり観察するため、かなり適切な評価が行われ、自然と「次はあいつだな」という見方が醸成されていたのだと思います。

 

従って、上司もその部下にチャレンジングな課題を与えたり、ときには自分の役割を担わせたりして、育成を図っていくことができた。だから、暗黙の後継者育成が機能したのでしょう。

 

ところが、最近はそうもいきません。目をかけた部下が、突然辞めてしまう。ローテーションしようにも、短期的業績に縛られている上司は、部下を離さない。さらには、上司は優秀な部下には今稼いでもらわないと困るので、チャレンジングな課題を与えたり、自分が持つ責任を担わせるような「遊び」をする余裕がない。逆に短期成果を出すために、仕事の範囲をきちんと定義してそれに集中できる環境を整えてあげようとするから、成長機会も失われる。

 

すべてが短期志向になったがゆえ、長期的に組織を強くする後継者育成ができない。それにもかかわらず、本社は危機感管理の観点から、サクセッション・プラン作成を迫り、かつその実行計画までも提出を求める。自分しか指名できるだけの情報を持たない状況で後継者を指名する上司の責任は重い。プレッシャーに苛まれた上司は、ますますデスクワークに追われ、育成する余裕がなくなっていく。こんな悪循環が発生しているようです。

 

●高齢化が進み硬直化している

高齢化は多くの大企業で問題としてあがってきます。日本の人口構成上、ある程度は已むをえないでしょう。ただし、高齢化自体が問題なのではありません(年功の場合人件費は問題ですが)。高齢化によって、社員がリスクを取らなくなったり、変化に対して鈍感になり、組織の柔軟性が失われイノベーションができなくなることが問題なのです。高齢化はその要因の一つに過ぎません。

 

組織がサイロ化し、部門をまたがる異動が難しくなったことも、組織の硬直化を促しています。組織の壁を崩すのは結局ヒトしかありません。これは、カンパニー制がもてはやされ、より下のレイヤーに権限移譲をし意思決定を速めようという一種のブームにより、部分最適が促されたことの弊害もあると思います。全体最適によるヒトの最適配置は難しくなったのです。

 

異動には、4つの観点からの検討が必要だと思います。

1)個人のキャリアマネジメント

ヒトが成長するには、出来るだけ多くのチャレンジ経験を積ませることが必要です。異動しないと、慣れ、マンネリにより成長が妨げられるリスクがあります(異動させないことのリスク)

2)顧客との接点

営業職など外部との接点が重要な職種では、異動させることにより生産性が一時的に極端に低下します。また、一から関係を作りなおす時間がかかるため、関係深化を図ることができず成果も頭打ちになってしまいます。(異動させることのリスク)

3)ノウハウの属人化

一人がずっと同じ業務を続けることで専門性が高まりますが、属人化しブラックボックスになるリスクがあります。さらには、不正が発生する素地を作ることにもなります。(異動させないことのリスク)

4)専門性の追求

頻繁に異動することで専門性を高めることができなくなるリスクがあります。組織に専門性をどれだけ保有するかで競争が左右される業界の場合は致命的にならないとも限りません。(異動させることのリスク)

 

以上のように、4つはトレードオフの関係にあり、すべてのリスクを排除することはできません。結局は、より好ましい水準でバランスを取っていくことがマネジメントの仕事になります。もちろんどうバランスを取るべきかは、経営環境や自社資源にもよるので、正解はありません。

 

異動は一つの例であり、もっと多くのトレードオフが経営にはあります。複雑な複数のレバーを駆使して、組織を操縦することは、限りなくアートの世界に近い。ただ、ひとつ言えるのは、レバーを駆使する際の、設定すべき遠くのゴールは、「不確実性の下での持続的成長」です。それを常に頭に叩き込んで操縦するしかないのだと思います。

ワールドカップ・ブラジル大会も、いよいよ14日の決勝(ドイツVSアルゼンチン戦)を残すだけとなりました。昨日のアルゼンチンVSオランダ戦は、PK戦でオランダが破れたわけですが、私はオランダのキーパーに注目していました。

 

というのも、オランダは準々決勝のコスタリカ戦で、オランダのファンハール監督は延長後半終了間際にゴールキーパーを正GKのシレッセンからPK戦に強いとされるクルルに代えましたことが頭に残っていたからです。

ファンハール監督は.jpg

3人しかできない選手交代の最後の一枚を、このためにとっておいたのです。結果は、監督の読みどおりクルルが2選手のPKを止め、オランダが勝利しました。ズバリ的中の監督采配と感嘆しました。

 

しかし、一方でGKの晴れ舞台であるPK戦で交代させられたシレッセンは、ベンチ前のペットボトルを蹴り上げ怒りを露わにしたそうです。また、代わったクルルは、ボールを定位置におこうとするコスタリカのキッカーに、何やら一生懸命話しかけているのが見えました。最初は、元同じクラブチームにいたか何かの旧知の相手選手に、健闘を誓うべく声をかけているのかと思ったのですが、全選手に声をかけているのでそうではなさそう。どうやら、野村元監督が捕手時代に得意としたささやき戦法だったようです。キッカーも極度の緊張状態のはず。意図的に集中力を乱させることはフェアではありません。クルルは後日インタビューで「反則はしていない」と弁明していましたが、ちょっといやーな印象でした。

 

コスタリカの最後のPKを止め勝利を決めた瞬間、真っ先にクルルに駆け寄ったのは交代させられたシレッセンでした。歓喜して抱き合う二人をみた瞬間、個人の感情はともかくチームの勝利を喜ぶ姿に、もし日本人選手だったらどうだろうと一瞬考えてしまいまいました。

 

そして、昨日の準決勝。くしくもオランダは、前試合と同じく拮抗した試合展開で延長戦へ。予想通りファンハール監督は後半終了まで三枚目の交代カードを切りません。PK戦に備えているのでしょう。この時点でPK戦が楽しみになりました。

 

ところが、延長前半の96分、チームの大黒柱FWファンペルシー交代に三枚目のカードを切ったのです。意外でした。きっと、ファンペルシーが相当疲れていたのでしょう。監督としても不本意な交代だったのではないでしょうか。これでクルルの出番はなくなりました。そうして予想通りPK戦突入。


シレッセンには、期するものがあったに違いありません。自分の実力を見せつけ、前の試合で交代させた監督を見返してやるんだと。ましてや、先行オランダの一番手は失敗。いやがおうにも気合が入ります。シレッセンが平常心でいることは、とても難しかったでしょう。結果は全4人にゴールを決められて敗退決定。その直後クルルがどうシレッセンに接したのかは、残念ながら観ることができませんでした。

 

振り返ってみるに、コスタリカ戦でのGK交代は、果たして正しい意思決定だったのでしょうか?確率では交代することが正しかったのでしょう。そしてその確率通りの結果となった。しかし、正GKであるシレッセンは誇りを傷つけられた。延長前半で、ファンペルシーの交代を決めるとき、ファンハール監督はシレッセンの名誉挽回の奮起に期待をしたのかもしれません。あるいは、シレッセンに名誉回復の機会を与えようと思ったのかも。いずれにしろ、怪我をしたわけでもないファンペルシーを交代させる判断は、非常に難しかったに違いありません。

もし、ファンペルシーを交代させず、PK線はクルルが守ったとしたらどうなっていたか・・・・。

 

選手の精神状態は非常に微妙なもの。それを読み切り、采配をふるう監督とは過酷な仕事です。最後は人間をどれだけ洞察できるかにかかっているのだと思います。

B00L50PC48ユニ・チャーム 共振の経営
高原豪久
日本経済新聞出版社 2014-06-23

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ユニ・チャーム高原豪久社長の著書「共振の経営」を読みました。日本企業がグローバルで勝ち残っていくためのヒントに満ち溢れた、とても良い本です。何より、高原さんの実体験に基づいて獲得した経験知を中心に書かれているのが素晴らしいです。借りてきた欧米由来の経営論にこだわるのではなく、自らの言葉で語っています。

 

いろいろ参考になる点が多いのですが、一番なるほどと思ったのは、SAPS経営に関することです。SAPS経営とは、わかりやすくいえば、課やチーム単位での週間スケジュールを対象としたPDCA活動のことです。他の会社でも、営業部門などでは毎週のスケジュールを上司と部下で摺合せする行動管理をすることは多いでしょう。一般にスケジュール管理は、上司が部下がいい加減な行動を取っていないかをチェックし、取り締まる目的で行います。「先週の訪問件数は少ない。今週は2割増しで訪問せよ」といった感じです。


しかし当社では、そもそも目的が異なるようです。上司が部下を管理する手段ではなく、社員が経験からの学びを最大化するための手段なのです。まったく似て非なるもの。経験を振り返るためには比較対象となる「計画」が必要なので、それを毎週設定するのです。予算のブレークダウンであるノルマとしての計画ではなく、学ぶためのツールとしての計画。これが成り立つためには、経験から学ぶことを支援する上司や同僚の存在が欠かせません。そのために、相互に助け合い信頼しあう組織文化の醸成や、リーダーは部下育成こそが最大の仕事といった価値観の浸透が徹底されています。さらに、これらの前提として、「人間は誰しも秘めた能力を有しており、これに大きな差はない」という人間観があります。

 

時間管理やPDCAを性悪説に基づく「部下管理(統制)」の手段ではなく、能力を秘めた社員の「学習」手段として適用したのは、セブン・イレブン・ジャパンが本家で行われていた店員の不正防止手段としての単品管理を、仮説検証やマーケティングの手段として適用したのと似ています。セブンも店員のモラールや能力に対する信頼があったからこそ、こうしたことができたでのしょう。

こういった、助け合い学びあう組織は、実は日本企業が強みとしてずっと保持し続けてきたものではないでしょうか。それがいつのまにか、性悪説に基づいた管理志向の経営が主流になってしまった。その過程で、アメリカで主流となっているマネジメント手法を有り難がって輸入した、経営学者やコンサル、そして何よりも導入した経営者の責任は重いと言えるでしょう。

 

しかし本書を読んで、日本企業が巨大グローバル企業と伍して戦っていくには、あらためて自分たちの強みを再認識してそれを前面に押し出していくしかないと思いました。当社のアジアでの成功はその裏付けになります。現在佳境のブラジルワールドカップでは、日本代表はそれを目指したのでしょうが、まだ世界には及びませんでした。でも方向性は間違っていないと思います。まだ力が足りなかっただけです。

 

一方、なでしこジャパンは2011年のワールドカップで、その方向性の正しさを証明しました。その後、世界の強豪国の多くが、なでしこの戦い方を取り入れようと研究したそうです。近い将来、経営の世界でも同じことが起こらないと誰が言えるでしょうか。セブンやユニ・チャーム、それに良品計画などが、世界にとっては新しい「日本的経営」のモデルとして、研究される姿が見えるような気がします。

 

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