文化と芸術: 2011年12月アーカイブ

映画監督の森田芳光さんが昨日亡くなりました。それほど森田監督の映画を観たわけではないのですが、ちょっと気になる監督でした。商業映画デビュー作「の・ようなもの」はとても印象に残っています。


の・.jpg公開は1981年とありますが、私が観たのはたぶん翌82年。大学入学のため上京した年です。細かいストーリーは覚えていませんが、落語家の風采のあがらない弟子(志ん魚/しんとと)が主人公(伊藤克信)で、多少恋愛話も絡むのですがなんという出来事もなく、淡々と日常が過ぎ去っていくという話だったと思います。

 

ただ、今でもよく覚えているシーンは、つきあい始めた彼女の家で両親に会って披露した落語が下手だとバカにされ、落胆しながら下町を一晩かけて歩くシーンです。栃木弁で何やら語りながら、合間合間に「・・・・しんとと、しんとと・・・」と自分で合いの手を入れて歩くのです。そして、あたりが明るくなるにつれて、その語りが力強くなっていったように記憶しています。本当になんていうこともないシーンなのですが、それが妙に印象深く、頭の中から「しんとと、しんとと」というフレーズがいつまでも抜けませんでした。

 

今思えば、はじめて東京に出てきた漠然とした不安、自信の無さ、の・ようなものが、志ん魚とダブって共鳴したのかもしれません。でも、映画を観た時は、全くそんなことは思いませんでした。

 

一晩歩き通し朝方到着した家の前で、はにかんだ表情の彼女が待っていたと記憶しています。だからと言って何も起きません。でも、なんだかそんなシーンにもほっとした。少しの希望が見えたからかもしれません。

 

それまで私にとっての映画とは、ドラマチックなものだったと思います。しかし、この映画は全然ドラマチックではない。でも、心に引っかかる。そんな、映画のあり方を学ばせてくれた映画だったように、今は思います。

 

 

私にとっての森田芳光は、「の・ようなもの」の監督であり、大学入学時のなんともいえない不安と期待とゆるーく流れる時間を映像に残してくれた監督であり、映画の可能性を広げてくれた監督なのでした。

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