文化と芸術: 2012年9月アーカイブ

3年に一度、新潟県の越後妻有地方で開催される「大地の芸術祭」

大地2012.jpg

今年も開催されています。翌週末で終了という切羽つまったタイミングでしたが、先の土日で辛うじて行くことができました。2006年、2009年に続いて三回目の参加です。

 

今回は一泊しか時間が取れなかったため、観た作品は少なめです。そんな中で、もっとも刺激を受けた作品は、クワクボリョウタの Lost#6という作品です。十日町の越後妻有現代美術館(キナーレ)内に設置されています。真っ暗に仕切られた10畳くらいの箱型スペースの中で、鉄道模型らしきものが周回軌道を走ります。先頭にライトがついており、ほんのり周囲を照らします。線路の横には、さまざまなモノが置かれています。古い時代に使われていた機織りの道具など。電車のライトがそれらを照らし、壁には大きな影が映る。電車はゆっくり移動しているので、壁に写る影の形もゆっくり変化していきます。

 

電車や置かれた道具は10cm程度の大きさですが、光の拡散によって、壁に写る影は数十倍の大きさになります。それが、四方の壁をゆっくり移動していきます。写った影は、生活や人間の営み、自然や時間など様々なものを象徴しているようです。不思議なことに、ゆっくり時間をかけて移動することにより、壁に写る何もかもが美しく感じます。普段、時間に追われて見落としていた「美」を再発見したような心地よさを感じました。

 

電車は線路を一周すると、突然バックしはじめます。しかも、速度をずっと上げて駆け抜けていくように。軌道は同じですから、壁に写る光景も同じです。ただ向きが逆になっただけで。しかし、高速で移動する影からは、先ほど感じたような美しさも心地よさも感じることはできません。あるのは、ただ慌ただしさだけです。

 

私たちの生活を象徴しているように思えました。本来は美しく心地よい生き方ができるはずなのに、何らかの理由で速度をあげて駆け抜けていく。それによって得るものもあるでしょうが、失っているものもあるはず。得るものは目に見えるが、失っているものは見えない。そう、比較しようがない。だからすぐ見える得るものをさらに追い求めていく。それがほとんどの人の生き方になっているのではないでしょうか。

 

どこかで立ち止まって、本来そこにある美しく心地いいものを見つめる必要がある気がします。ただ、それは日常ではなかなかできないこと、意識しなければできないことです。そこに導いてくれるものがアートなのだと思います。

 

この作品から、私はそんなことを感じました。それが作家の意図かどうかはわかりません。でも、アート作品とは作家の意図にこだわらず、観る人が勝手に想像して自分なりに意味づけすればいいものです。この作品は私の想像力をおおいに刺激し、普段余り使わない部分の心と感情を揺さぶったのです。

 

(アート作品から感じたことを文章で表現するのは難しいと、あらためて実感)

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