文化と芸術: 2010年8月アーカイブ

昨日の日経夕刊に、美術作家の束芋さん(1975年生まれ)のインタビュー記事がありました。彼女の作品は、一見おどろおどろしいですが、ハッとさせられる刺激に満ちているので好きです。見たくない真実を突き付けられる、そんな心の揺さぶりを与えてくれるのです。

束芋.jpg 

このインタビューで、世代論に関してこう言っています。

 

団塊の世代は自分の専門に誇りを持ち、その道を究めようとする。個性あふれる一人ひとりは、いわば太巻きの具。各人が、米や干瓢、キュウリとして役割に徹し、ノリのような優秀なまとめ役に率いられれば、集団としてとてつもない力を見せる。

 

これに対して、断面の世代(注:ほぼ団塊ジュニア世代)は太巻きの切断面そのもの。全部が揃うが、いかにもぺらぺらな存在だ。しかし、ぺらぺらだからこそ、それらを集め直せば、面白い太巻きができるかもしれないし、そこから新たな世界が見えてくるかもしれない。

 

 

私自身はどちらの世代にも属していませんが、非常にシャープに現実を切っているなあと感じました。これは彼女自身が親子関係などの中で感じてきた違和感から来ているそうです。

 

アーティストの素晴らしいところは、実は誰もが感じているけど実態がよく分らないもの(たとえば違和感)を、言語ではなく目に見える作品で表現し、伝えることができることです。それに、私たち一般人は、ドキッとさせられ、考えさせられるのです。

 

 

たまたま昨日書いたブログの「ゼネラリスト」も太巻きの海苔のことかもしれません。バブル前は、束芋さんのいう具を巻くことの長けたノリが求められていた。しかし、それ自身では味がないノリばかりになると、美味しい太巻きは作れない。そこで、具(スペシャリスト)の重要性が強調された。しかし、それも限界が見えてきた。そして、現在は、太巻きの様々なぺらぺらな断面を合わせて巻き合わせて、以前とは異なる新しい太巻きを作り上げることが求められるようになってきた。

 

ちょっと、こじ付けっぽいですが、そんな空想も膨らみます。だから、現代美術は面白い。

 

今、大阪の国立国際美術館で 「束芋 断面の世代展」が開かれているそうです。行ってみたいですね。

東京は住むにはきつい所(特に夏は)ですが、芸術作品やその創作者に出合える機会が、圧倒的に他の地域より多いことは確かです。今日も改めてそのことを実感しました。

 

午前中、映画 「朱鷺島」を観てきました。この作品は、観世流能楽師津村禮次郎さんが、佐渡で創作能「トキ」を公演するまでの、朱鷺.jpgいわばメイキング映画です。佐渡の小学生からトキに関する詩を集め、津村さん自身が能の歌詞を書きます。そして、囃子方や地謡、ワキ方らと共同で完成していくのです。

 

さらに、佐渡をベースに世界で活躍する太鼓集団「鼓童」の藤本吉利さんや踊りの「花結」の方々ともコラボします。創作能といえども、能の公演に他のジャンルのアーチストが交ることは、異例です。

 

驚くのは、全員揃って稽古するのは、公演当日の1回だけだということです。能関係者同士であれば、普段から共演しているので、いくら新作といえども一回で合わせることはそう難しいことではないのかもしれません。しかし、今回は異ジャンルの(別の次元に入りこんだ感じだったと花結のメンバーは言っていました)アーチストも一緒なのです。

 

しかも、その1回のリハーサルの中で、中身がどんどん変わっていくのです。ある意味、ものすごい組織能力です。ある分野において卓越した技能を持つ者同士は、きっと共通の波動のようなものを持ち、それが共鳴しあうことでコミュニケーションが図られ、さらに進化していくのかもしれません。大鼓の大倉正之助さんと鼓童の藤本さんが並んで、叩きながら相談している風景は、ちょっと感動的でもありました。

 

もう一つ驚くのは、津村師のプロデュース力でありリーダーシップです。能の世界ではシテ方がいわばプロデューサーの役割を担います。この新作能においてもそうです。津村師は、決して強いリーダーシップは採りません。みんなと一緒に、わーわー言いながら創り上げていくスタイルです。能の世界は、家元制度に代表されるように、シテ方の宗家をトップにしたピラミッド構造なのかと、勝手に想像していましたが、全くそうではありませんでした。年齢も役割も性別も関係なく、同じレベルで意見を出し合っていました。その雰囲気をうまく作っているのが津村師なのです。シテ方という役割でリードしているのではなく、(もちろん実力があるのは当然ですが、何しろ人間国宝ですから)人間性でリードしているように見えました。人柄が素晴らしいのです。後で、作家の篠田節子さんも指摘していましたが、極めて日本人に合った理想的なリーダーシップスタイルだと、私も感じました。あえて言えば、「対話型リーダー」でしょうか。ちょうど、経営者教育にダイアログの考えを取り入れられないかと考えていたところだったので、非常に参考になりました。

 

 

さて、映画終了後、津村師と篠田節子、そして撮影兼監督の三宅流さんの三人が舞台に上がり、トークショーがそのまま行われたのです。何という贅沢なことでしょう!!だから東京暮らしは止められません。

 

そして終わりごろ、質疑応答に入りました。でも、誰も手を挙げません。私も、時々逆に質問を受ける立場になり、手が上がらず困る、というかガッカリすることがあります。なので、つい右手を挙げてしまいました。

 

「トキの詩を書いた小学生たちも、きっと舞台を観たと思いますが、どのような反応だったのでしょうか?そこも映してもらえると良かったのですが。」

 

と、余計なひと言まで発してしまいました。すると、津村師が答えました。

 

「三宅さんは一人で撮影もしていたので、なかなか手が回らなかったと思いますが、・・・」

 

回答自体は省略しますが、私のやや失礼な質問に対して、まず三宅監督を気遣う発言から始められたのです。すごい!と思いました。これが日本人にあったリーダーの姿だと思いました。

 

トークショー終了後、三人はまだロビーにいらして、観客と言葉を交わされました。私も津村師にご挨拶だけと思い、「先ほどは失礼しました」と申し上げました。すると師は、素晴らしく明るい表情で、「何かやってらっしゃるの?」と言われるので、「はい、矢来(観世家)で喜正先生に習っています」と申し上げると、さらに素晴しい笑顔で返してくださいました。きっとこの笑顔だけでも、人はこの方のために一肌脱ごうと思うのでしょう。

 

最後に、主観を徹底的に配した三宅監督の手腕も確かなものを感じました。子供のコメントは、やはりなくて良かったですね。

 

 

今日は朝から、素晴らしい時間を過ごすことができました。

 

 

ところで、今月29日(日)小金井公園での「小金井薪能」で、この「トキ」が上演されます。うーん、観に行きたいのですが・・・・。

誰でも、記憶に残る映画やドラマなどの映像作品があると思います。私の場合、まず挙げたいのが、小学校低学年の頃にTVで観た映画「冒険者たち [DVD]
ジョゼ・ジョヴァンニ
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です。ネズミが主役のアニメじゃないですよ。リノ・バンチュラとアラン・ドロンが主役のフランス映画です。名曲「レティシアのテーマ」とともに、鮮明に記憶に残っています。なぜ、それほど印象深かったのか、今でもよくわかりません。

 

それと、803月放送の向田邦子脚本NHKドラマ「あ・うん」です。これは今でも非常に有名な作品ですが、彼女が描く微妙な感じに、強くひかれます。81年に向田邦子が飛行機事故で亡くなったので、余計に強烈に残っているのかもしれません。それと、81年から放送された早坂暁脚本の「夢千代日記」。挿入歌のあがた森魚「赤色エレジー」も鮮烈でした。

 

 

なぜ急にこんな昔のことを思い出したかというと、実は先週の金曜日21時から、やはり昔好きだった作品がある映画館で上映されると知り楽しみにしていたのですが、満席で入れなかった、ということがあったからです。それは、1978年NHKで放送された佐々木昭一郎演出「四季・ユートピアノ」です。

 

佐々木の演出は独特です。ドキュメンタリーと芝居の中間といった感じです。また、使われる音楽が非常に効果的に繰り返され、映像と一体となるようです。

私もこの作品を観てから、マーラーの交響曲第四番が好きになりました。

 

今回上映されたのも、「佐々木昭一郎というジャンル」というタイトルで1週間だけ彼の4作品が公開されたのです。こんなニッチな作品、しかも21時からということで安心していましたら、なんと前売りで完売だったのです。やっぱり、私以上の熱狂的ファンがたくさんいるのですね。

 

しかし、本当に魅力的で不思議な作品です。その魅力を言葉で表現するのは困難です。20年くらい前に、横浜にあるNHK放送ライブラリーまで観に行ったほどです。

 

「冒険者たち」はともかく、他のドラマはそれも私が中学生から高校生の頃に観た作品です。その影響で、一時はNHKのプロデューサーになりたいと思いました。ちょうどその時代にすぐれた作品が多かったのか、それとも私の感性がその頃鋭敏だったからなのか、理由はよくわかりません。

 

いずれにしろ、それらの作品に大きな影響を受けたことだけは確かでしょう。

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