文化と芸術: 2014年4月アーカイブ

「あなたを抱きしめる日まで」あらすじ

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その日、フィロミナは、50年間かくし続けてきた秘密を娘のジェーンに打ち明けた。それは1952年、アイルランド。10代で未婚のまま妊娠したフィロミナは家を追い出され、修道院に入れられる。そこでは同じ境遇の少女たちが、保護と引き換えにタダ働きさせられていた。フィロミナは男の子を出産、アンソニーと名付けるが、面会は11時間しか許されない。そして修道院は、3歳になったアンソニーを金銭と引き換えに養子に出してしまう。以来わが子のことを一瞬たりとも忘れたことのない母のために、ジェーンは元ジャーナリストのマーティンに話を持ちかける。愛する息子にひと目会いたいフィロミナと、その記事に再起をかけたマーティン、全く別の世界に住む二人の旅が始まる──。

 

●感想

本作は失業した元エリートジャーナリストであるマーティンの、心の再生物語として観ました。彼とフィロミナは正反対といっていいほど境遇が異なります。彼は当初、まじめなカソリック教徒で下層階級出身の彼女を見下していたようでした。彼女の読む大衆ロマンス小説すら蔑視していました。

 

オックスフォード卒BBC記者として出世した彼は、政治スキャンダル絡みで失職していました。プライドと皮肉癖はそれでも抜けません。そんな彼が馬鹿にしていた大衆紙の三面記事の仕事を引き受けたことから、この物語が始まりました。当初は、少しだけプライドを捨ててもお金が必要だったのでしょう。それまでの彼は、「理にかなった言動をとる」、「有名になること」、「リッチに暮らすこと」が生きる座標軸だったと思われます。

 

すべての謎が解けた後、自分の価値観やそれに従ってきたこれまでの人生を守りたいがために、かたくなにアンソニーの消息を隠し続けてきた老シスターに対して、マーティンは怒りをぶつけます。しかし、フィロミナは毅然と赦すのです。そんな彼女に、「なぜ赦すのだ」と詰め寄る彼にこう言います。「赦すのは、責めることよりも何倍も勇気がいることなのよ」 その言葉に、彼はこれまでの自分の生き方を見直すきっかけをつかんだ、まさに気づきを得たのです。

 

それまで記事発表に抵抗していた彼女をどうやって説得しようか悩んでいた彼は、一転してこの記事の発表を止めようと言います。ところが、個人的なことだからと拒否していた彼女も一転、「みんなに知って欲しい」というのです。勇気をもって赦したことで、「小さな」自分自身の生活や評判なんかよりも、重大な「歴史の恥部」を広く世界に示すことで、少しでも世の中のために役立ちたいとの「大きな」器量を得たのだと思います。

 

そんなフィロミナをマーティンは眩しく見たのではないでしょうか。人間の評価は何で決まるのか。最後のシーンでは、彼女の「(大衆小説を)読み終わったからあげようか」との無邪気な厚意に対して、「ありがとう。読んでみるよ」とうれしそうに答えます。これが彼の再生を表しています。

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