文化と芸術: 2009年8月アーカイブ

 

昨日、サイトウ・キネン・フェスティバル松本にて、小澤征爾指揮「戦争レクイエム」を聴きました。ブリテンによる、第二次世界大戦への鎮魂歌です。

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オーケーストラも大編成の合唱もソプラノも大変素晴らしく、大満足でした。その中でも、演奏終了後最も大きな拍手を受けたのは、ソプラノのクリスティン・ゴーキーでも小澤さんでもなく、地元松本の児童合唱団の子供たちだと感じました。

 

この曲では、一般の合唱は教会の音楽を表し、児童合唱は天使の声を表します。児童合唱団は、地元松本の子供から、オーディションで選ばれた子供たちで編成されているそうです。

 

たぶん児童合唱団は、二階席か三階席から歌っていたのでしょう。私たちは、一階席後方に座っていたので、天使の声のパートの際、天から聞こえてくるようで、よくわからず何度も天井を見上げました。

 

演奏終了後、子供たちが一階舞台脇に降りてきて、初めて気づきました。そして、万籟の拍手。子供たちの、緊張がほぐれて、そして達成感に満ちたはればれとした顔、顔、顔。彼らは、一生この瞬間を忘れないだろうなあ、とこちらも感動しました。

 

このような機会を提供するサイトウ・キネン・フェスティバルは、本当に素晴らしいプロジェクトです。松本に赴任している友人の話によると、小学校の合唱部は練習がハードで、土日も休みなしで練習とのこと。きっと、このフェスティバルが確実に、地元に文化の土壌を根付かせているのでしょう。フェスティバルの運営は、多くの地元ボランティアによって支えられているそうです。

 

数年前、終演後、地元の馬刺しのおいしい店に出かけたところ、さっき演奏していた若手の演奏家たちが、楽しげに打ち上げをしていました。本当に松本の街に溶け込んでいるようすでした。

 

 

芸術家と地元の幸せな関係。これは先日の越後妻有「大地の芸術祭」も同様でした。箱モノではなく、本当に地元住民が誇りにでき、しかもそれに参加できるソフトは、ますます成熟化が進む日本の救世主となるのではないでしょうか。

 

そんな、兆しを感じた夜でした。

先週金曜から昨日までの三日間、以前も書いた 「越後妻有トリエンナーレ2009 大地の芸術祭」に行ってきました。

 

多くの作品に刺激を受けましたが、作品とは別にも様々なことを考えさせられました。その一つが「コミュニティーの核としての学校」についてです。

 

 

約20年前になりますが、北欧のフィヨルドを船でゆっくり数日かけてめぐったことがあります。急峻な傾斜地が、フィヨルドに落ち込むほんのわずかなスペースに、集落が点在していました。へばりつくように建ついくつかの建物の中には、かならず小さな教会があります。それが集落の中では最も立派な建物であり、小さな集落の核であることは、船から見てもわかりました。人々の教会に対する親愛と尊敬の念が感じられました。

 

日本の山村では明治以降、それが学校でした。(江戸時代まではお寺だったのでしょう)美術作品を巡り、越後妻有の山村に入り込むと、それが良くわかります。

 

村の住民は、何代にもわたって、その学校の卒業生ばかりです。学校の建物自体が、人々の記憶集積なのです。

 

 

しかし、近年子供の数が減り、次々と廃校になっています。それにとどめを刺したのが平成の市町村大合併です。今回も、いくつもの廃校を利用したアート作品を観ましたが、2,3年前まで使用されていた小学校がいくつかありました。まだ、生きている感じがするほどですが、合併を機に中心地にある大きめの学校に統合したのでしょう。

 

確かに、その方が効率的です。しかし、廃校となった村からは、人々の記憶が剥ぎ取られてしまったかのような印象を受けました。

 

フィヨルドの村々で、人口が減ったからと言って教会を壊し、町の大きな教会に統合することをするでしょうか。コミュニティーには、記憶集積としての核が絶対に必要です。

 

 

こういう社会に風穴を開けるべく、コミュニティーの核であった学校の建物を活用し、アートの力で新たな核として蘇生させるプロジェクトが、大地の芸術祭のもとでいくつも立ち上がってきているのです。

 

学校を自分たちの記憶の集積として愛着を持ち続ける住民と、彼らと協力して学校建物を生き返らせようとするアーティストの、一見すると不似合いですが、実は強力なコラボレーションの一端を垣間見ることができました。

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成長が止まった日本の方向性を暗示するような、素敵な場面に遭遇することができた三日間でした。是非、実際に現地に足を運び、体感することをお勧めします。

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