文化と芸術: 2010年4月アーカイブ

井上ひさしさんに次いで、免疫学者で能作家でもある多田富雄さんが、昨日お亡くなりになりました。

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私は多田さんを「免疫の意味論」(大仏次郎賞)で最初に知ったのですが、免疫学者としての学識は言うまでもありませんが、その文章の巧みさと教養の深さに感銘を受けたものです。

4791752430免疫の意味論
青土社 1993-04

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その後いくつかのエッセーも読むようになり、多田さんは小鼓の名手で能への造詣にも並々ならぬものがあることを知りました。数点の新作能の作者でもあります。しかも、2001年に脳梗塞で倒れて半身麻痺になってから、ほとんど創られたと思います。国立能楽堂でも、何度か車いす姿の多田さんをお見かけしました。

 

また、口がきけなくなってしまったにも関わらず、創作の一方で、自らの体験にも基づき政府の医療政策へ猛烈な批判の論陣を張っていました。また、そうした自らの姿と心を「寡黙なる巨人」(小林秀雄賞) 寡黙なる巨人
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という本で主観的かつ客観的に表現されました。傑作でした。ちまたに「知識人」と呼ばれる人はあまたいますが、多田さんのような方こそ真の「知識人」だと思います。

 

倒れて以降の多田さんに、本当に大きな強い人間の姿を見るような気がしていました。

 

また巨人が逝ってしまいました。心からご冥福をお祈りいたします。

先週の日曜の午後、府中美術館に「国芳展」を観にいってきました。久しぶりに暖かい休日の午後、思った以上に盛況でちょっとびっくりしました。休日ということもあり、若いカップルが多く、高齢化を反映した昨今の美術展に慣れた身としては、新鮮です。通して見てみると、カップルが笑って語り合いながら観るには最適な展示内容でした。(私はそうでありませんでしたが)

 

市立美術館にしては(?)なかなか凝っており、展示やちょっとしたコーナーなどにセンスを感じさせます。作品もすべて一人のコレクターのもので、二千数百点の中から、前後期合わせ230点ほどを展示するそうです。保存状態もよく、雲母がきらきら光って見える作品もあります。こういう所有者や企画者の思いに溢れた展覧会は、それだけで心地よいです。 

 

 

さて、国芳は北斎や広重と同世代の浮世絵師です。彼らに比べてちょっとキワモノ扱いを受けてきたようですが、ここにきて人気が国芳.jpg高まってきました。国芳の面白さは、派手さとお上への反逆精神、そして滑稽さでしょうか。カタカナで言えば、スペクタル、ゴージャス、エスプリ、ユーモア、カウンターといった単語が浮かびます。猫マンガを彷彿とさせる猫を主役にした作品群は、現代人にも普通に受けると思います。

 

一方で、絵師としての技術も超一流です。構図にしろ色使いにしろ、大胆でかつ繊細です。それでいて、どこか庶民的。時代によってスタイルを変えていますが、どれも一級品です。常に新しいものを貪欲に求めて、それを取り入れていく、好奇心は生涯尽きることはなかったようです。きっと、晩年も人を驚かせたり笑わせたりすることが大好きな粋なお爺さんだったのでしょう。

 

 

国芳という浮世絵師の実力と、江戸庶民のセンスを堪能できる展覧会でした。今日から後期が始まり5/9までです。ぜひ、また行こうと思います。

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