2014年11月アーカイブ

前回、ある企業の新規事業開発プロジェクトについて書きました。今回は、そもそも製品開発と新規事業開発はどう違うのか、どういうフレームワークで事業拡大を考えたらいいのかについて考えてみたいと思います。

 

事業開発と製品開発の違いとは何でしょう。製品開発とは、あるに製品によって既存市場の一定シェアを確保し収益を獲得することと言えます。ただし、市場規模やシェアには限界があるので、どれだけ持続可能かはわかりません。一方の事業開発とは、潜在顧客の抱える問題を解決する手段を提供することです。それが一つの製品かもしれませんしサービスかもしれません。市場やニーズが変化すれば、それに沿った手段を模索し続けることになります。問題が消滅しない限り、収益確保の持続可能性は高いと考えられます(自社がどれだけ取れるかは別議論ですが)。したがって、経営者の視座からは、事業開発しか視野に入っていないと言っても過言はないのです。製品のことは事業部長が考えるべきこと。

 

有名なアンゾフの「多角化マトリクス」は、市場と製品を、既存か新規で分け4象限に区分していますが、今の時代には古過ぎ、逆に思考を束縛しているように感じます。あまりこだわらないほうがいいと私は思います。製品よりも、「ビジネスシステム」に、また市場よりも「(潜在顧客の)問題」で切ることが有効に思います。

 

アンゾフの時代では、企業が開発した製品を市場に提供し、そこから対価としてキャッシュを獲得するという、シンプルなビジネスを想定していました。しかし、現代のビジネスは、もっと複雑なことのほうが多い。

市場をどう定義するかが非常に難しい。それよりある共通の問題を抱える集団として捉えたほうがわかりやすい。そして、自社はその集団に対して「製品」を提供するのではなく、ソリューションを提供する。あらゆる業界が、問題解決型になっているからです。自社は、ある問題についてあらゆる手段を使って解決を目指します。自社の製品でなくてもいいかもしれませんし、製品でなくサービスのほうがいいかもしれない。大事なのは、製品ありきではないことです。

 

その際に、自社が解決するのに得意な問題とそうでない問題があります。古い例ですが、1970年代ビックペンは安価で使い捨てのボールペンで一世を風靡しました。ご多分に漏れず多角化をめざし、他の安価な筆記具を開発しましたがさっぱり売れない。その後、使い捨てライターが大成功します。ビックが得意な問題とは、安価な筆記具でも文房具でもなく、使い捨てできる安価な日用雑貨だったのです。使い捨て剃刀でも成功しました。つまり、市場や製品ではなく、自社にとって既存の問題かどうかが重要なのです。また、自社にとって意味のある新しい問題を発見することも重要です。それを発見する切り口の一つが、メガトレンドです。

 

もう一軸は、ビジネスシステムです。ビジネスシステムとは、自社が価値をつける取引先から潜在顧客までの流れとその仕組みを指します。どういうステークホルダーと関わって、どうやって価値を提供し代価を得るかのシステムです。このシステムの多様性が非常に高まっているのはご存じのとおりで、パッケージを売っていたマイクロソフトに対して無料でソフトを提供するグーグルが現れたように、一昔前では考えられなかったビジネスシステムがたくさん出現しています。マイクロソフトがグーグルの真似をして無料でソフトを配っても、絶対勝てないでしょう。解決すべき問題と同様、得手・不得手があるのです。

 

そうはいっても、かつての多角化(新製品・新市場)のように、苦手で成功率が低いとわかっていても、やるべき時があるでしょう。あえてやるのであれば、その難しさを理解したうえで方法を考えることが重要です。

 

セブンイレブン・ジャパン(以下セブン)は、これが非常に巧みだと思います。「新問題X既存システム」(問題発見)は公共料金の取り扱い。コンビニにとって公共料金の支払い受付は、当初想定していなかった顧客の問題でしょう。でも、銀行はすぐ閉店してしまうので、払いたくても払えないというセブンにとっては新たな問題を、POSレジという既存システムで解決したのです。

 

「既存問題X既存システム」(新製品開発)は、セブンプレミアム。顧客は、手頃な値段で高品質の商品を入手したいが適当な店がないという問題を以前から抱えていました。コンビニは以前からPBを扱っていますが、PBとはそこそこの商品を安く提供するための商品であり、高品質を追及すべきでない、それはNBの役割だ、との思い込みが業界にあったようです。しかし、NB商品は顧客のコスパ要求に応えていない。そこで、セブンが高品質PBというカテゴリーを創造して成功を収めました。ビジネスシステムは既存で十分です。満たされていなかった既存の問題へ、自らが正面から取り組むことにしたのです。

 

「既存問題X新システム」(ビジネスシステム革新)は、淹れたて100円コーヒーです。もっと美味しい淹れたてコーヒーを安く手軽に飲みたいとの問題は、以前からありました。それに対してマックがマックカフェとして解決策を提示し、一定の成功を収めていました。セブンはコーヒーに関しては、缶などの物販というシステムしか持っていませんでした。しかし、コーヒー豆の商社やコーヒーメーカーの製造会社と共働で、100円で淹れたてコーヒーを提供できるシステムを新たにつくりあげたのです。

 

「新問題X新システム」(新規事業開発)はセブン銀行。コンビニにとって、客からお金はもらっても、お金を提供することは、まったく眼中になかったでしょう。客が夜中にお金をおろせないとの問題は、コンビニにとっての問題ではなかったのです。しかし、セブンは店内にCDがないから現金不足で買ってくれない客もいる、それは解決すべき問題だと問題を再定義したのかもしれません。当然既存システムでは対応できません。しかも、他行にCDを置くスペースを貸すモデルではなく、いちから銀行を新規設立する方法を選んだ。これは非常に戦略的意思決定だと思います。

 

以上のように、セブンは新しい問題に対しても、他者の力を借りるなどして新しいシステムを構築し事業を拡大し続けています。コンビニ市場は飽和だと数年前は言われていましたが、視点を変えるだけでまだまだ成長余地を発見することができるに違いありません。古いコンビニの箱に留まっている競合と差はつく一方です。


古い箱に拘泥せず、「新しい視点」を獲得できるかどうかが、企業の生存を決めるのだと思います。

 

ある方から、こんな言葉を教えてもらいました。

 

The real voyage of discovery consists not in seeking new landscapes, but in having new eyes.

Marcel Proust  (French Novelist and Author, 1871-1922)

 

「発見の旅」の本質は、新たな景観を探しもとめることにあるのではなく、新たな視点を持つことにある。 

マルセル・プルースト 

 

発見を発明や創造、イノベーションに置き換えてもいいかと思います。世の中にないものを見つけたり、創造することができれば素晴らしいですが、天才でもなければほとんど無理でしょう。でも新たな視点を持つことは、案外できるかもしれません。

 

Out of Boxという言葉があります。えてして人間は、無意識のうちによく知った一つの箱の中で発想してしまう。そういえば、豊田佐吉もこういいました。

「障子を開けてみよ、外は広い」

これは外の世界を見ることの重要性を言っているのでしょうが、自分の箱の外に出ることも示唆しているようにも思えます。しかし、自分がどんな視点なのか、どんな箱、どんな障子の中にいるのかを知ることは非常に難しい。

 

ある企業で、事業部長の精鋭10人を集めて、新規事業開発のプロジェクトを研修の形で行いました。経営者は、既存組織の枠を取り払って、もう一段階上の視座からの提案を期待しました。しかし、事業部長にとっては、もう一段階上の視座といっても、見たことがないからわからない。どうしても、新製品開発のスタンスでプロジェクトを進めてしまうのです。それでは、今やっている仕事と変わりません。事業部の扱い製品を増やして売上を稼ぐという発想ですから。好意的に解釈すれば、隣接市場に、自社の強みが活きそうな製品分野をぶつけてみて、試行錯誤を繰り返しながら学習で、新事業を育てるというアプローチなのかもしれません。でも、それは経営陣がここで期待することではありません。

 

現在自分が得意な箱の中で成果を出している精鋭だからこそ、視座を上げ視点を変えるのは難しいのかもしれません。

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