戦略系コンサルティング会社に入社した時、コンサルティングの価値について先輩に質問したことがあります。なぜクライアントは我々コンサルタントに、高いお金を払ってくれるのか、と。いくつか答えてもらったと思いますが、今でも残っているのは、「第三者性」の価値です。
いわく、「クライアント社内の問題について、内部にいる社員には内部ゆえに見えないことがある。コンサルタントは、内部にいないからこそ見えるものがあり、解決策も見つけられるのだ。」
正直、当初はピンときませんでした。コンサルタントは思考力や分析スキルが優れているからお金がもらえると思っていたのに、そういったもの以上に「外部者」という立場ゆえにお金がもらえるように聞こえてしまったからです。
それから四半世紀が経った今、その時先輩が言った意味が非常によくわかります。いろいろな形でクライアントの社内に足を踏み入れましたが、現場は千差万別。組織文化も社員のレベルも、ものの観方もそれぞれ全く異なります。でもずっと内部にいる社員自身は、何がどう違うのかよく理解できません。私は、毎回とても興味深く観察させていただいています。こういう多様な組織の現場をたくさん肌で知るからこそ問題が見え、解決策も見えてくるのです。
「サイロ・エフェクト」を読んだら、それは文化人類学者の視点と同じだと腑に落ちました。未開の社会などを観察する文化人類学のフィールドが、企業組織・社会になっただけなんです。著書のジリアン・テットは、文化人類学者を経てフィナンシャル・タイムズ紙の記者になった方です。文化人類学者の視点で、高度専門化した現代の企業組織や社会を描写しているのです。
終章で人類学の6つの方法論をまとめています。コンサルタントにも非常に有効な視点だと思いますので、要約します。
1)現場で生活を経験することを通じて、ミクロレベルのパターンを理解し、マクロ的全体像をつかもうとする。
2)オープンマインドで物事を見聞きし、社会集団やシステムの様々な構成要素がどのように相互に結び付いているかを見ようとする。
3)その社会でタブーとされている、あるいは退屈だと思われているために語られない部分に光を当てる。社会的沈黙に関心を持つ。
4)人々が自らの生活について語る事柄に熱心に耳を傾け、それと現実の行動を比較する。建前と現実のギャップが大好きだ。
5)異なるもの(社会、文化、システムなど)を比較する。比較することで異なる社会集団の基礎パターンの違いが浮かび上がる。別の世界に身を投じてみると他者について学べ、かつ自ら自身を見直すことができる。こうして、インサイダー兼アウトサイダーになる。
6)人類学は人間の正しい生き方は一つではないという立場を取る。我々が世界を整理するために使っている分類システムは、必然的なものではないことをよくわかっている。世界を整理するために使っている公式・非公式なルールを変えることもできる。
こうしてみると、戦略コンサルタントも人材・組織開発コンサルタントもクライアント企業という社会に、人類学者の視点を持って関わっていると言えそうです。特に、(現在メインとしている)人材・組織開発コンサルタントの立場は、大勢の社員を研修という場で観察することができます。まさに、人類学者の視点を大いに発揮することができる、非常に貴重な機会に常時接することができるのです。
インサイダー兼アウトサイダーとして、こういった場を通じてクライアント企業の組織の現状が手に取るように見える、これは大変な財産だと思います。
ジリアン テット 土方 奈美
