組織の能力: 2011年9月アーカイブ

前回、映画「綴方教室」について書きましたが、その映画で戦前の職人の不安定なくらしと勤め人との違いがよく理解できました。

 

映画の終盤、貧しさゆえ芸者に売られそうになった主人子正子ですが、フリーのブリキ職人である父は工場の常雇いの職工となり給料をもらう身分になったことから、その危機を脱します。また小学校を卒業した正子も、女工として給料をもらえる身分となり明るい未来が開けていく、そんなエンディングでした。

 

当時会社の社員となることは、貧乏を脱して生活を安定させるための特効薬だったのです。さらに終戦後の労働争議、高度成長を経て、終身雇用は日本的経営の中核と言われるようになりました。

 

しかし、バブル崩壊後は終身雇用崩壊も引き起こしました。リストラの嵐が吹き荒れ、大企業の正社員であっても退職を迫られるような事態となったのです。それを促すかのように、終身雇用は日本企業のグローバル競争の足かせとなるとの論調が強まり、それを理由にトヨタの社債が格下げされるほどでした。

 

ところが、多くの大企業は終身雇用の看板を下ろすことはしませんでした。代わりに終身雇用をなんとか守るため、正社員の採用を絞り込み、非正規労働者の比率をどんどん高めていきます。もともと終身雇用を維持していたのは大企業の男性社員だけで、全労働人口の8.8%に過ぎないとのデータもありますが、さらに狭き門となったのです。

 

その結果、終身雇用で守られるであろう大企業の少ない正社員の椅子を目指して、新卒学生の悲惨な「就活」が繰り広げられることになりました。それは、リーマンショック、震災を経て、ますます過激になっているようです。(まるで正子の時代に戻ったかのごとく)

 

ここで素朴な問いです。現在及び将来において、大企業はやはり終身雇用の看板を外さないほうがメリットは大きいのか?終身雇用ではグローバル競争に勝っていけないのか?正社員を絞ることは競争上得策なのか?新卒社員は、新卒で大企業に就職したほうが長期的にもメリットが大きいのか?

 

私の個人的経験からは、会社にとって終身雇用のメリットは依然大きいと感じています。その会社の価値観を共有したり、社内のネットワークを構築し、それによって効率的かつ効果的な仕事をするには、絶対終身雇用のほうが有利です。日本企業がボトムアップ力に優れているのは、終身雇用と深く関係しているでしょう。

 

もちろん多く議論されているように弊害も大きい。環境変化に弱い、イノベーションが生まれにくいなどなど。しかしそれらは、トップダウンの弱さ、もう少し言えば経営層の質の低さにあると思います。つまり上記弊害は終身雇用故ではなく、経営層の質の問題だと考えます。もちろん、終身雇用ゆえ神輿に乗る調整能力に長けた経営者がいいのだとの意見もあるでしょう。でも果たして本当にそうでしょうか?

 

トップダウンと終身雇用は併存できないのでしょうか?会社組織の問題は、どうしても扱いやすいテーマ(採用絞り込み、組織再編など)や制度論に行きがちです。でも、本丸は経営層の意識や能力の問題ではないでしょうか。とはいえ誰も手をつけられない。結局そこに手がつけられるのは日産やJALのように破綻に直面した場合だけになりがち・・。

 

そろそろ新しい日本的経営のモデルを見つけなければならないでしょう。もうお手本となるモデルはありません。試行錯誤を繰り返してでも自ら見つけなければなりません。企業も政府も同じ、もう残された時間はあまり残っていない気がします。

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