組織の能力: 2009年7月アーカイブ

毎日楽しみにしている日経朝刊「私の履歴書」。今月は加山雄三さん執筆でしたが、本日で最終日となりました。そこに、

 

「多くの人々と共有した夢の世界が『若大将』で、僕の音楽はそこに誘う呪文のようなものかもしれない。」

 

という文章がありました。

 

映画は、ビジュアルで独自の世界を構築できます。そして、それを多くの人々と共有し、一種の共通体験を味わうことができます。普段は、その世界を忘れていても、付随する音楽に触れれば、いつでも夢の世界へ戻っていける。素晴らしいですね。

 

私で言えば「寅さん」がそうです。あの柴又の世界へ、山本直純作曲のテーマ曲を聴けば、すぐに飛んでいけます。

 

 

呪文は、音楽に限りません。デユフィの絵を見れば、温かく賑やかな南仏の街に飛んでいけますし、芭蕉の俳句を読めば自然と一体なった、江戸時代の村に飛んでいけそうな気がします。

 

共有できる夢のビジョンと、そこへ誘う(広い意味での)芸術。この最強タッグが、人間としての喜びの源泉の一つなのかもしれません。ただ、使い方を誤ると、第三帝国の夢とヒトラーの演説との関係のようになるリスクもありますが。

 

 

翻って、ビジネスの世界でも、ビジョンの重要性は近年さらに強調されていますが、どれだけ本当に共有できる夢があるのか、はなはだ心もとないところではあります。

 

ホンダの基本理念は、「買う喜び、売る喜び、創る喜び」です。ビジョンhonda.jpgとは違いますが、社員に共有されている一種の夢には違いないでしょう。そして、そこへ誘う呪文は、本田宗一郎さんの笑顔ではないでしょうか。少なくも私は、本田さんの笑顔の写真を見ると、「三つの喜び」を連想します。ホンダはつくづく幸せな会社ですね。

 

 

イメージの世界であっても共通体験できるビジョンと、そこへ誘う呪文。この強力タッグを見つけたいものです。

 

「水を与えるより、井戸の掘り方を教える」という言葉があります。

一般にコンサルタントは、ある特定分野における水を授けることを生業とします。いわば情報格差の価値です。

 

でも、永遠に水をもらい続けなければなりません。だから、与えるほうのうまみは絶大です。

 

私がかつていた戦略コンサルの世界も同じです。情報と加工ノウハウで、アウトプット(コンテンツ)を創り授けるのです。決して、情報収集と加工のノウハウは伝授しません。

 

コンテンツを重視する時代は、それで十分でした。多少、高いお金を払ってもコンテンツそのものに価値があったのです。

 

 

時代は変わり、今はコンテンツそのものより、コンテンツを創りだす能力が競争力の源泉になりつつあります。コンテンツは、陳腐化しますが、能力はうまく使えば陳腐化どころか向上します。つまり、井戸の掘り方の価値に気付いたのです。

 

私も約15年前、戦略コンサルタントから、社員が戦略を策定する能力を高めることを支援する役割に変えました。その後世間でも、戦略策定(思考)ノウハウをコンサルタント自身が伝授する書籍が、たくさん書かれ、読まれるようになりました。ネタばらしと言えなくもありません。

 

 

先ほどお会いしたグローバル人事のコンサルタントに伺ったのですが、人事制度構築も同じ世界に突入しつつあるようです。人事制度はまさに目に見えるコンテンツです。それを構築する能力を高め、社員自らが構築することを支援するようなサービスが現れているそうです。コンサルタントに構築してもらうより、はるかに安価ですし、かつ社員に構築能力を移転できます。

 

企業のコアスキルに付随する付加価値の高い外部サービスの多くは、このように内製化に向かうはずです。(一方で、非コアスキルのアウトソースはさらに進むでしょう。)

 

 

ある井戸の掘り方自体は、専門スキルかもしれませんが、掘り方を学ぶ能力は汎用スキルです。つまり、汎用スキルとしての学習能力の重要性が飛躍的に高まっているわけです。

 

逆に言えば、「学習を促進させるスキルや仕掛けを組織に埋め込むこと」が裏側の競争力の源泉なのです。私は、それをラーニング・エンジニアリングと呼んでいます。

 

組織のコアスキルは事業環境によって変化します。何が現在の組織のコアスキルであり、それをどう学習し高めるか、そこに着目することが必要なのではないでしょうか。

 

先日、「リーダーシップなんてない。ただリーダーがいるだけ」</a>と書きました。

 

では、リーダーの要件とは何なのか?ずっと考えていましたが、昨日一つのヒントをもらいました。アカデミーヒルズでの、アダットシリーズ 藤井清孝氏が直伝する『グローバル・マインド』実践講座シリーズ」での藤井さんの言葉です。

 

「りーダーとはリスペクトされなければならない」

 

人心掌握することで組織をまとめあげ、ある方向にリードするのがリーダーです。では、どうすれば人心掌握できるのか。

 

フォロワーは、リスペクトできない人にはついていきません。では、どういう人がリスペクトされるのか。

 

リスペクトの要因は、組織によって全く異なります。例えば、外資系証券会社の営業チームであれば、とにかく最も稼がなければリスペクトされません。ところが、日本企業の営業チームでは、最も稼ぐ人がリスペクトされるとは限りません。自分より他のメンバーが稼ぐことを支援することに長けた人が、リスペクトされるかもしれません。

 

かつての日本企業では、社歴が長い人がリスペクトされていたのかもしれません。

すなわちトップは長老。

 

このように、リスペクトの要因は、組織によって異なるのです。従って、リーダーが組織を創るのではなく、組織がリーダーを創るといってもいいかもしれません。

 

どのような人をリスペクトするのか?それを聞いてみれば、その会社のあるべきリーダー像も組織文化も見えてきます。

 

こういった議論なしに、「これからのりーダシップとは●●である」といった、不毛な議論は止めにしましょう。

 

多くの企業には、決して触れてはいけない聖域があるのではないでしょうか。

 

例えば、オーナー企業であれば、世間を知らない新参者が尋ねても、「それは言っても無駄だよ。うちは●●さんの会社なんだから」でお仕舞い。二度とその話題はでなない。

 

あるいは、ある領域に立ち入ったら感情的な反撃がなされたことがあり、それ以来誰も、その話題には触れなくなってしまう。

 

こういう会社に限って、社外に対しては「うちの会社はオープンなんだ」なんて言ったりすることもあります。

 

ひとつの組織の中に長くいると、自組織を相対化することができなくなってしまいます。そして聖域が空気のような存在になって、違和感を覚えなくなってしまうのです。

 

企業変革をしなければならない、と叫ぶ企業はたくさんあります。でも、本気でそれを実行するところは、それほど多くはありません。本気かどうかのバロメーターは、経営陣や社員が、聖域に立ち向かうかどうかではないでしょうか。

 

 

あなたの会社の聖域とは、何ですか?

脱サラならぬ脱刑事作家がいることを、今朝の朝日新聞で初めて知りました。飯田裕久さんは、25年の刑事勤めを07年に辞め、現在刑事もの小説を書いているそうです。

 

警視庁捜査一課刑事
飯田 裕久
4022505079

 

飯田さんによると刑事や警察官の質も、バブル前後で大きく変わったそうです。

 

 

まず、バブル期までは人材獲得難の時代で、高校の後輩を説得して採用されたら表彰までされたそうです。バブル期には、それまで8人部屋だった警察学校の寮が、採用を増やすため個室にしたそうです。

 

飯田さんと私は同じ年です。私も銀行の独身寮にいましたが、相部屋個室というドアが一つで、開けると正面に壁があり、その左右に小部屋があるという環境にいました。そして、バブル華やかな頃、個室に変わりました。

 

飯田さんも書いていますが、プライバシーゼロの世界では、人にもまれる中で、否応なく人の気持ちを察するようになります。思い返してみても、相部屋でよかったと思います。

 

 

バブル崩壊とともに一転、警察官は人気職種となります。いうまでもなく、安定志向です。バブル崩壊後の警察官は、点数稼ぎの傾向が強く、自転車への職務質問が急に増えた。自転車泥棒を見つければ、「職務質問による検挙」という点数が簡単に稼げるから。本来自転車への職質は、自転車泥棒を捕まえるためではなく、質問への受け答えや挙動の不自然さから、より大きな犯罪の糸口をつかむことが目的です。人間を見る眼が要求されます。それが、人間は見ないで、自転車を見るようになってしまった。

 

 

飯田さんの時代は、先輩に毎晩のように飲みに連れられ、説教や怒られながら多くのことを学んだそうです。ところが、バブル崩壊後「先輩が後輩を酒席に誘うこと禁止」のお達しが出た。それからは、後輩を酒に誘っても平気で断られるようになったとのこと。

 

一方で、OBを呼んでわざわざ経験談を若手に聞かせることも内部で実施しているそうです。でも若手は、「年寄りが昔の手柄話をしている」としか聞かない。

 

そんな若手の得意技は、ITを駆使すること。昔は、ベテラン刑事が何日もかけて集めた情報が、一瞬で取りだせる。過去の犯罪情報がデータベース化されているのです。

 

昔の刑事ドラマや映画で、ベテラン刑事が所轄を超えた警察署に出向き、嫌がらせを受けながらも人間関係を深め、なんとか情報を分けてもらうという場面がよくありました。

 

今は、そんな必要はないのです。データベースの情報と、ベテラン刑事が、担当刑事から聞きだした情報と比べて、どちらが情報として有益か、いわずもがなでしょう。コンテンツは伝わっても、コンテクストは伝わらない。

 

 

結局、一番身近な先輩が、現場で手取り足取り教えていくしかないというのが、飯田さんの結論です。バブル前を知る今の40代が、鍵を握っているというのは、警察の世界も企業の世界も(もしかして任侠の世界も)同じなんですね。

 

それほど、バブルとその崩壊は、日本社会に大きな影響を及ぼしているのです。そして、再び・・・。

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