毎日楽しみにしている日経朝刊「私の履歴書」。今月は加山雄三さん執筆でしたが、本日で最終日となりました。そこに、
「多くの人々と共有した夢の世界が『若大将』で、僕の音楽はそこに誘う呪文のようなものかもしれない。」
という文章がありました。
映画は、ビジュアルで独自の世界を構築できます。そして、それを多くの人々と共有し、一種の共通体験を味わうことができます。普段は、その世界を忘れていても、付随する音楽に触れれば、いつでも夢の世界へ戻っていける。素晴らしいですね。
私で言えば「寅さん」がそうです。あの柴又の世界へ、山本直純作曲のテーマ曲を聴けば、すぐに飛んでいけます。
呪文は、音楽に限りません。デユフィの絵を見れば、温かく賑やかな南仏の街に飛んでいけますし、芭蕉の俳句を読めば自然と一体なった、江戸時代の村に飛んでいけそうな気がします。
共有できる夢のビジョンと、そこへ誘う(広い意味での)芸術。この最強タッグが、人間としての喜びの源泉の一つなのかもしれません。ただ、使い方を誤ると、第三帝国の夢とヒトラーの演説との関係のようになるリスクもありますが。
翻って、ビジネスの世界でも、ビジョンの重要性は近年さらに強調されていますが、どれだけ本当に共有できる夢があるのか、はなはだ心もとないところではあります。
ホンダの基本理念は、「買う喜び、売る喜び、創る喜び」です。ビジョンとは違いますが、社員に共有されている一種の夢には違いないでしょう。そして、そこへ誘う呪文は、本田宗一郎さんの笑顔ではないでしょうか。少なくも私は、本田さんの笑顔の写真を見ると、「三つの喜び」を連想します。ホンダはつくづく幸せな会社ですね。
イメージの世界であっても共通体験できるビジョンと、そこへ誘う呪文。この強力タッグを見つけたいものです。