組織の能力: 2010年12月アーカイブ

先日の日経夕刊「さらりーまん生態学(いきざまがく)」に、作家の江波戸哲夫さんがこんなことを書いていました。要約すると、

 

人事部門に異動し社員教育を担当している友人に会った。新入社員教育について聞くと、OJTが重要との答え。まったくそうだと思いながらさらに聞く。OJTを担当する中間管理職には、指導する力量はあるのかと。すると、それがないので今中間管理職の教育をしているという。しかも、OJTではなく教室で・・。

 

ずっこけた江波戸氏は考える。誰が管理職にOJTの方法をOJTで教えるのか?中間管理職の主たる職責=リーダーシップは、人それぞれであるべきだ。いかに辣腕の上司でもそのままOJTの見本とはならない。そこで、友人が言う。「一番の正道は、企業がきちんと目指すべき方向を向いていることだ。そうなれば中間管理職も、それぞれにふさわしいリーダーシップの取り方が分かってくる。うちはそれが混乱しているので、中間管理職の研修なんてやっているんだ」そう言って苦笑いを浮かべた。

 

さすが作家、 多くの会社でありがちな話を、的確に切り取って示してくれています。中間管理職に問題があるとの話を、私も多くの企業で聞きます。そこには、様々な構造的な問題もあるでしょう。彼らは日本型雇用形態を肌で知る最後の世代です。バブル時代含め、成功体験も少なからず持っています。つまり、最後の日本的経営世代、年金含め逃げ切りぎりぎり可能世代といえるかもしれません。しかし、それ以降の世代は閉塞が当たり前になっている世代です。現在や未来の環境をビビッドに感じるのは、20代、30代社員のはずであり、そこでの世代間ギャップは想像以上に大きいと思います。

 

そういう中間管理職の意識を変えさせるのは、さらにその上の世代の責任でしょう。しかし、基本的な価値観に大きな相違がない中で、そのようなOJT(明示的でないとしても)などできるでしょうか。江波戸氏がいうように、自分で考えるしかないのです。また、考える能力を持っているから管理職になっているはずです。ただ、考えるための方向性を示す必要はあるでしょう。それが、「企業がきちんと目指すべき方向を向いていること」なのです。それをするのが、上の世代、つまりトップ・マネジメント層の責任です。

 

「さらりーまん」は基本的には、上を見て自分の動き方を決めていく性質を持っています。下の層の教育も大事ですが、たとえそれをうまくできても上が否定した言動を取っていれば全く無意味になります。やはり、本質論に目をそむけず、企業としての価値や戦略を明確に打ち出し、それを体現した行動をトップ・マネジメント自ら取っていくことが、もっとも早道なのではないでしょうか。そういう勇気のある企業しか、生き残れないような気がします。

最近ビジネス界においても、デザインの重要性が急速に高まっているように感じます。アップルの飛躍の多くの部分は、デザインに負っていると思います。ただし、ここでいうデザインとは、目に見える装飾のことを言っているのではありません。もっと、広い概念です。

 

グラフィック・デザイナーの原研哉は、デザインをアートとの対比において以下のように述べています。

 

アートは個人が社会に向き合う個人的な意思表明であって、その発生の根源はとても個的なものだ。(中略)一方、デザインは基本的には個人の自己表出が動機ではなく、その発端は社会の側にある。社会の多くの人々と共有できる問題を発見し、それを解決していくプロセスにデザインの本質がある。問題の発端を社会の側に置いているのでその計画やプロセスは誰もがそれを理解し、デザイナーと同じ視点でそれを辿ることができる。そのプロセスの中に、人類が共感できる価値観や精神性が生み出され、それを共有する中に感動が発生するというのがデザインの魅力なのだ。 

『デザインのデザイン』

 

 

また、クリエイティブ・ディレクターの佐藤可士和はこう書いています。

 

デザインとは、問題を解決するために思考や情報を整理して、コンセプトやビジョンを導き出し、最適な形にして分かりやすくその価値を伝えていく行為です。「デザイン=表層的な形や美しさを作ること」と思われがちですが、デザインを"ソリューション"として捉えるべきだと思います。

『佐藤可士和のクリエイティブシンキング』

 

 

さらに、スティーブ・ジョブズはこう語っています。

 

デザインというのは面白い言葉だ。外観のことだと思う人もいる。本当は、もっと深いもの、その製品がどのようにはたらくかということなんだ。いいデザインをしようと思えば、まず『真に理解する』必要がある。それが何なのか、心でつかむ必要があるんだ。(中略)何かを真に理解するためには、全身全霊で打ち込む必要がある・・・・そこまでのことをする人はめったにない。

『スティーブ・ジョブズ 偶像復活』

 

 

 

三人が言っていることは少しずつ違いますが、ひとつの共通のことを言っています。デザインとは、社会にある「問題」を解決することだということです。

 

そのために、社会の多くの人々と共有できる問題を発見し、思考や情報を整理して、コンセプトやビジョンを導き出し、その解決策がどのようにはたらくか真に理解した上で、最適な形にして分かりやすくその価値を伝えていくのです。

 

これは、まさに経営そのものと言えます。そう、経営者とは「良きデザイナー」であるべきなのです!ジョブズのように、本当に自ら「デザイン」をできる人も稀にいますが、多くはそこまでできません。では、どうするか?「人」をデザインするのです。つまり、人材を発掘し育成し適材適所するのです。日露戦争時の海軍大臣山本権兵衛が、まさにそうだったそうです。

 

このように考えると、不確実性が高まる変革期である今日、デザインが注目されるのも、至極当然なのでしょう。

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