組織の能力: 2011年6月アーカイブ

ある企業の人材開発担当の方によると、その企業の研修ではどんなプログラムをやっても最後は「コミュニケーションが大事だ」という結論になるそうです。それはそうでしょうが、それでは人間は生きていくためには水が必要だと結論するに等しいでしょう。そこで思考がストップしてしまいかねせん。

 

そもそも自社におけるコミュニケーションとは何を指し、何をコミュニケートしたいのか、なぜそれができないのか、そもそもなぜそれがないとどう困るのか、などなど掘り下げるべき課題はたくさんあります。それらを徹底的に掘り下げたうえで、自社にふさわしい施策をつくり上げるべきでしょう。

 

しかし、えてして「コミュニケーション研修」を売りにしている研修会社などのトークになびいてしまうことも多いのではないでしょうか。研修会社を「使っている」ようで「使われている」ことはないでしょうか?

 

ところで、そこまで大切なコミュニケーション。言うまでもありませんが研修で問題が解決するはずもありません。慶應ビジネススクールの清水勝彦教授の近著「戦略と実行」にこんなフレーズがありました。

 

こうして考えてみると、実行を妨げる様々な要因の底辺に横たわるのは、そもそもの戦略の実行に関する「誤った前提」と、「社内のコミュニケーションの不足」からなる誤解、納得感の欠如という、言われてみれば当たり前、しかしながら、組織のどこにも責任者がいるわけでも、できているかどうかを誰が見ているわけでもない状況です。「戦略の実行」を考えたときに、組織全体を見渡してコミュニケーションがどうあるべきかについての視点を経営者や部門長が持たなければ、「木を見て森を見ず」「すごい素振りをするサッカー選手」になってしまうのです。コミュニケーションが制度と人間をつなぎ合わせえるのです。

 

「コミュニケーションが制度と人間をつなぎ合わせる」のであれば、はやり人事、人材開発が全社的なコミュニケーションのあり方や現状、その効果性向上に責任を負うべきではないでしょうか。少なくとも、その任を負うのにもっとも有利なポジションにいると思います。


もしそうだとして、そこで大事なのは、個人のコミュニケーション・スキルといった議論に矮小化しないことです。追求すべきは個人ではなく組織のコミュニケーション能力です。では組織におけるコミュニケーションとは何か?清水教授はこういいます。

 

組織におけるコミュニケーションとは、単に論理的なメッセージや結論を伝えるだけでなく、感情、気持ち、あるいは人間性までを伝え、共有、共感を作り出す力なのです。

 

そう考えるとやるべきことも見えてきます。個人と組織、また制度やプロセスといったハードとスキルや意識といったソフト、など包括的な視点を持って推進する主体が必要です。それを人材開発部門が担うという覚悟を持っているかどうかによって、最初にあげた「コミュニケーションが大事」だという結論に対して真摯に向かい合うことができるのではないでしょうか。 

4822248453戦略と実行―組織的コミュニケーションとは何か
清水 勝彦
日経BP社 2011-03-24

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