昨日、東大でのラーニング・バーに参加してきました。今回は、㈱サイバーエージェントの曽山哲人取締役人事本部長の講演「成長する仕掛けを創る -『挑戦』と『安心』のあいだで-」がメインでした。
ITベンチャーとして98年に創業して2000年には上場。しかしその直後にITバブルは崩壊し、3年連続で3割が退職するなど会社ががたがたになる。そこから、どう組織を立て直したか、リアルで示唆に富むお話でした。ベンチャーの創業から急成長まで経験した私にとっても、いろいろ考えさせられる講演でした。
私が理解した当社の組織再生のポイントは、企業内における「ソーシャル・キャピタル」構築と、それを実現した人事部の力です。ソーシャル・キャピタルは、ウィキでは以下のように説明しています。
(人々の協調行動が活発化することにより社会の効率性を高めることができるという考え方のもとで、社会の信頼関係、規範、ネットワークといった社会組織の重要性を説く概念である。人間関係資本、社交資本、市民社会資本とも訳される。)
2003年にビジョンの明文化と人事を強化することを役員合宿で決めたそうです。
ビジョンは、「21世紀を代表する会社を創る」です。採用面接で学生から、「あまりすぐれてビジョンではないですね」と言われたそうです。確かにそうです。これはビジョンというより、ビジョンと戦略の間にある「アンビション」ですね。ゆるいアンビションを提示することで、社内で議論を巻き起こしたことが、良かったのでしょう。曽山さんはそれを、「経営と現場のあいだで、ヒントを探す」と表現していました。
そして、「人事の強化」も卓見だと思います。当時、売上自体は伸びていました。しかし、社内の雰囲気や組織が崩れると、いずれそれが業績に反映されることを理解していたのでしょう。業績変動の最大要因は、そこにあったのです。そして05年に人事本部を設立し、人事の役割を「経営陣と現場のコミュニケーション・エンジン」としました。一般に人事は「守り」を担うと認識されているようです。しかし、本来はそうではありません。経営戦略を遂行してくためのエンジンのはずです。つまり、「攻め」の急先鋒になるべきなのです。曽山さんがそれを実行できたのは、いわゆる「人事」の経験がなったからでしょう。「人事屋」と言われるのが一番イヤだそうです。
その後、人事は様々な施策を試行錯誤しながらしつこく実行していきます。「守り」では失敗は許されませんが、「攻め」ではある程度の試行錯誤は許されます。大事なのは、修正しながら攻撃精度を高めることです。
それらの施策を一言で表せば、経営の意図にそったソーシャル・キャピタル形成です。曽山さんはそれを「共通項の多さが安心を増す」と表現しました。ソーシャル・キャピタルが盤石だからこそ、社員も経営陣も「挑戦」や「競争」が出来るのです。
単なるベンチャーと成長を持続できるベンチャーとの違いは、そこにあるのだと思います。