組織の能力: 2010年9月アーカイブ

昨日、東大でのラーニング・バーに参加してきました。今回は、㈱サイバーエージェントの曽山哲人取締役人事本部長の講演「成長する仕掛けを創る -『挑戦』と『安心』のあいだで-」がメインでした。

 

ITベンチャーとして98年に創業して2000年には上場。しかしその直後にITバブルは崩壊し、3年連続で3割が退職するなど会社ががたがたになる。そこから、どう組織を立て直したか、リアルで示唆に富むお話でした。ベンチャーの創業から急成長まで経験した私にとっても、いろいろ考えさせられる講演でした。

 

私が理解した当社の組織再生のポイントは、企業内における「ソーシャル・キャピタル」構築と、それを実現した人事部の力です。ソーシャル・キャピタルは、ウィキでは以下のように説明しています。

(人々の協調行動が活発化することにより社会効率性を高めることができるという考え方のもとで、社会の信頼関係規範ネットワークといった社会組織の重要性を説く概念である。人間関係資本社交資本市民社会資本とも訳される。

 

2003年にビジョンの明文化と人事を強化することを役員合宿で決めたそうです。

ビジョンは、「21世紀を代表する会社を創る」です。採用面接で学生から、「あまりすぐれてビジョンではないですね」と言われたそうです。確かにそうです。これはビジョンというより、ビジョンと戦略の間にある「アンビション」ですね。ゆるいアンビションを提示することで、社内で議論を巻き起こしたことが、良かったのでしょう。曽山さんはそれを、「経営と現場のあいだで、ヒントを探す」と表現していました。

 

そして、「人事の強化」も卓見だと思います。当時、売上自体は伸びていました。しかし、社内の雰囲気や組織が崩れると、いずれそれが業績に反映されることを理解していたのでしょう。業績変動の最大要因は、そこにあったのです。そして05年に人事本部を設立し、人事の役割を「経営陣と現場のコミュニケーション・エンジン」としました。一般に人事は「守り」を担うと認識されているようです。しかし、本来はそうではありません。経営戦略を遂行してくためのエンジンのはずです。つまり、「攻め」の急先鋒になるべきなのです。曽山さんがそれを実行できたのは、いわゆる「人事」の経験がなったからでしょう。「人事屋」と言われるのが一番イヤだそうです。

 

その後、人事は様々な施策を試行錯誤しながらしつこく実行していきます。「守り」では失敗は許されませんが、「攻め」ではある程度の試行錯誤は許されます。大事なのは、修正しながら攻撃精度を高めることです。

 

それらの施策を一言で表せば、経営の意図にそったソーシャル・キャピタル形成です。曽山さんはそれを「共通項の多さが安心を増す」と表現しました。ソーシャル・キャピタルが盤石だからこそ、社員も経営陣も「挑戦」や「競争」が出来るのです。

 

単なるベンチャーと成長を持続できるベンチャーとの違いは、そこにあるのだと思います。

新卒社員は真白の状態で入社してもらって、後は会社が染め上げていく、というのが、永く続いている日本企業の新卒社員育成の大方針だと思います。私自身新卒で銀行に入った時にそれを痛感しました。しかし、これからもそれでいいのでしょうか?

 

 

一昨日、友人が(二代目)社長を務める中小企業の内定者研修を手伝ってきました。規模としては小さな会社ですが、友人は数年前に父親から社長を継ぎ、会社を成長させていくために、様々な取り組みをしています。新卒採用も2009年に始め(二名)、2011年にも二人の採用を決めました。

 

その内定者に研修をしてほしいと頼まれたのです。せっかくなので、09年に採用した若手社員二人も入れ、合わせて4人が受講者です。これまで、内定者を対象とした研修など関わったことがないので、友人と一緒にどうやろうか悩みました。まずは9月に土曜一日実施し、12月にまた土曜一日としました。初回は、午前中はその会社(N社)のオリジナルケース、午後はビジネスシーンでの定量分析の基礎、といった内容にしました。

 

N社オリジナルケースは、社長である友人に書き下ろしてもらいました。驚いたことに彼は、週末一回で完成させ送ってくれました。小さな会社が生き残っていくための姿が、率直に描かれています。彼曰く、ケースを書くことによって、自社の在り方が整理できたとのことです。

 

さて、私が用意した設問は、以下の3点です。

1N社はなぜ、環境が大きく変化する中で成長を続けることができたか?

2)現在、弱みがあるとすれば何か?

3)今後、さらに成長するには、何が必要か?

 

これを、内定者チームと先輩チームに分かれて、議論した上で発表してもらいました。その後、私のリードで全体ディスカッションです。後ろでは、社長と取締役の2名がオブザーブしています。まだ学生である内定者と2年目社員だけでどの程度の議論が出来るか、正直不安でしたが、蓋を開けてみると、結構できるものです。

 

まだ学生である内定者は、とても客観的に会社のことを見ています。もちろん会社の内情を知るはずもありませんが、それゆえ本質を直観的に見抜く傾向がありました。この姿勢や力を、入社してからも維持して活用すべきでしょう。それが会社の資産になるはずです。変に染めないほうが会社にとってもプラスだと思いました。一方の先輩社員は、二年目とは言え「社員」です。いろいろなことを「配慮」するようになります。それはそれで、社会人としては正しいのですが・・・。適合とは、そういうことなのでしょう。トップ二人が、オブザーブしているのですから、ちょっと不利ではありましたね。適合することと客観性をバランスさせることの意味を考えさせられました。

 

私自身初めての経験でしたが、楽しい時間を過ごすことができました。これも、社内の歴史や事情を内定者にもさらし、自由に発言させる社長の率直さと寛容さがあればこそです。内定者にも、きっと社長の思いは届いたことと思います。最後に先輩の一人が、「僕達にもこういう研修があればよかった・・」と呟いたのが印象的でした。

 

個人の卓越した能力とチームワーク、そして短期間での後進の育成、それらをリスクを最小化しながら同時に実現していく組織、それが航空自衛隊第11飛行隊、通称「ブルーインパルス」です。そのドキュメンタリ番組を観ました。ハイビジョン特集「天空のアクロバット~ブルーインパルスの男たち~」

 

ブルーインパルスには、隊長の第1号機~6号機までの6機で編成され、それぞれの機に2名が配属されます。2名とは、師匠と弟子の二人です。驚くこ ブルーインパルス.jpgとに隊員の任期は3年程度のようです。その間に、弟子が技術を修得し、師匠になり、また次の弟子を育てるのです。全員が優秀な戦闘機パイロットとは言え、戦闘機とアクロバット飛行をするブルーインパルスでは、異なる技術が求められるのです。以前、友人の元米空軍パイロットが、エアラインのパイロットはバスの運転手だが、戦闘機パイロットはレーサーだと言っていました。それで言えば、ブルーインパルスはF1レーサーなのかもしれません。

 

 

自分の弟子がなかなか技術を修得できない師匠が言います。「ここには優秀な隊員しか来ません。自分の教え方が悪いのだと責任を感じます。(中略)感覚の世界が大事です。言葉では伝えられないのです。『ここでビューンだ』と言ってもわかりませんよね」そこで、その師匠なりの手作りのマニュアルを作って、少しでも伝わるように試行錯誤しています。。創立から50年間の詳細なマニュアルが蓄積されていますが、それでは足りず、個人の暗黙知を独自の形式知に落とし、さらに一年間行動をともにすることで伝えるのです。

 

隊長の責任は、並大抵ではないようです。任期を終える隊長に、何が一番楽しかったか問います。すると、

「楽しいことはひとつもありませんでした。常に真剣ですから。楽しくなろうと努めたことはありますが

任務を解かれて寂しくないですか?との問いに、

「全く寂しくありません。すべてやりきりましたから」と、すがすがしいか顔で応えました。任務とともに、隊員の命を預かる隊長の重圧は、次元を超えているようです。

 

ラストフライトを終えた隊長に、隊員が祝福の水掛けをします。隊長の反撃し、たくさん用意されたバケツから、隊員に水を浴びせます。これが、航空自衛隊の恒例です。その後、びしょびしょになった隊長はインタビューに応えます。

「水を掛け合うことで、隊から私の色を洗い落とすような気がします。私は隊長として任務を遂行し、そのために隊を私の色に染めました。次の隊長が、今度はそれをするのです」

潔い言葉です。

 

 

ブルーインパルスは、極端に特殊な組織かもしれません。しかし、そこから私たちが学べることはたくさんあるように感じました。

先日、スマートHRD講座の受講者の同窓会(飲み会)がありました。皆さん、企業の人材開発担当者なので、自ずと仕事の話になります。異口同音におっしゃるのが、「忙しくて、本当やりたいことがなかなかできない」ということです。

 

課員は減少しているにも関わらず、コンプラや労務問題、メンタル問題など昔に比べて仕事量は増えています。社員の多様化(バックグランドも意識も)が進み、かつてのようにひとくくりでは対応できないのです。そうすると、目先の火消しに追われ、それで時間がどんどん過ぎていく。

 

ある方が嘆いていました。

「人事の醍醐味は、社員のために仕事をした結果、社員が成長しやる気を出して成果を出し、会社も良くなっていく、そこにあるはずなんだ。でも、今はそんな長期的なことを考えている余裕がない。思い切って戦略的な研修を起案したら、上司からそのROI(投資収益率)はどのくらいだと問われた。そんなこと分かるはずないのに。わからないとできないのなら、何にもできない。」

 

どこの会社も似たような状態なのではないでしょうか。多くの日本企業では、給与関連(ペイロール)や労務・メンタル対策、新人研修や採用(本来は長期ですが実態は短期)といった超短期の業務と長期的視野に立つべき戦略的人材開発業務を、同じセクションで担当しています。マンパワーの少ない現状では、目先の火消しに追われるのもやむをえないでしょう。

 

こうなると、組織構造や戦略をどう考えるかという、もう一段階も二段階も上の問題になります。「我社の資産は人」という言葉は、神棚の上に祀られているようです。

 

経営トップも、長期的視野に立つCEOと、現状の執行に責任を持つCOOに分離する会社も増えてきました。最重要資産である、「ヒト」についても、長期的視野に立つ役割と、短期的対応を担う役割に分離すべきだと思います。どちらもヒトに関わるので人事部で、という発想では、将来に禍根を残すことになってしまうかもしれません。

 

こんなことを考えながら、大いに盛り上がった夜でした。

日本企業の強さはミドルにあると言われていました。ミドルとは、単に上の意向を下したり、下の意見を上に上げるだけの、中間通過点ではありません。そこには、必ず意志を持った解釈が介在します。人間は機械ではないので、個人のスクリーニングを通った時点で、その人の意図が必ず入るのです。これも、意図的に行う場合と、そうでない場合がありますが。

 

経営陣も、ミドルからの情報に頼らざるを得ない以上、ミドルの意図が経営に間接的にしろ、反映されるのです。

 

では、過去の日本企業は、なぜミドルが強かったのでしょうか。欧米企業に比べて、短期的成果にこだわらず、長期的視野で行動できたからだと思います。それには、終身雇用の存在が大きいでしょう。また、経営陣もそういうミドルを自由に泳がせる余裕というか度量があったのでしょう。これも企業の株主構成が、現在よりも固定的だったことが大きいと思います。

 

 

これまで数百人の人材開発担当のミドルの方と接点を持たせていただきましが、彼らを大きく3種類に分類できます。①自分が会社を変えていく(良くしていく)という気概を持って、多少のリスク覚悟で取り組む方、②気持はあるのだが、リスクまでは取れないと考える方、③与えられた業務を適切に処理する方、です。

 

①のタイプが人材開発部門に多い会社ほど、長期的に業績が良い傾向がありました。また、その後一緒にお仕事させていただく機会も多くなります。かつての同僚がファンドマネジャーに転職した後、今どこの会社の研修をしているかと、尋ねてきたほどです。

 

①のミドルが人材開発にいるから、その働きによって業績が良くなるというよりも、①のタイプのミドルを人材開発部門に配属するような企業だから業績が良くなる、という因果関係ではないかと、私は見ています。それだけ、「人」を重視しているからです。

 

 

ミドルの力は大切ですが、そういう人材を生み出し、良い仕事をさせる「場」を創ることができる会社の「力」こそが、競争力の源泉だったと思います。

 

終身雇用は実質なくなり、浮動株主におびえる現在の日本企業において、どうすれば再び強いミドルを生み出すことができるのでしょうか?

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