組織の能力: 2009年9月アーカイブ

組織開発という言葉は、日本では人材開発に比べ一般的な言葉にはなっていません。にもかかわらず、多くの日本企業は意識しているしていないにかかわらず、人材開発以上にさまざまな取り組みをしてきました(社員旅行、運動会、寮生活、小集団活動、組織活性化運動など)。

 

あまりに当たり前すぎて、あえて定義するまでもないことってありますよね。それかもしれません。しかし、あえて人材開発との対比で定義してみたいと思います。

 

人材開発:「個人」が本来もっている能力を顕在化させること

組織開発:「組織」の能力を最大限に高めること

 

 

では、組織の能力とは何でしょうか? 私は以下のように理解しています。

 

=∑(個人の能力) X ∑(個人と組織のアライメント) X 個人間の関係性

 

第一項に対応するのが人材開発で、第二、三項が主に組織開発の領域だと考えます。これは、組織開発の目的である、組織の成果を高めるアプローチが、人材開発とは別に二つあることを表しています。ひとつめが、個人と組織の方向性を整合させるアプローチ。ビジョンや価値観、経営理念を社員に浸透させるというものなどですね。二つ目が個人間の関係性を開発する、もう少しひらたく言えば好ましい人間関係を築くアプローチです。(「好ましい」が曲者ですが・・)

 

そして、今、個人間の関係性に問題が散見されるようになってきています。

 

 

 

自律志向の強い欧米人が、集団と組織(あるいはチーム)を全く別ものと考えるのに対して、日本人は集団と組織の区別があまりないように思います。以前触れましたが、欧米では別ものゆえチームビルディングが非常に重要な役割を果たします。ところが日本では、集団が定義された時点(メンバ-が集まった時点)で、自然とチームになっているのです。かつては、それが強みでした。

 

 

その前提は、集団の同質性です。同質メンバーであればチームになることは容易です。ところが、多様な集団となった時点で、急にチームビルディングができなくなるそうです。そして、多様性が急速に高まっているのです。

 

また、たとえ同質チームが維持できたとしても、弱点があります。なんとなくできる同質チームは、未経験で緊急性の高い状況において、迅速に対応することが苦手だそうです。不確実性に弱いのです。やはり、過去の経験が使えない状況も増えています。

 

 

つまり、日本の組織の強みだった個人間の関係性が、内部と外部から危うくなってきているということです。だから、マクロで見れば、日本型から欧米型へシフトせざるをえないとは思います。(それが、コーチング、ファシリテーション、メンター制度、りーダーシップといった手法やスキルが流行っている背景にあるのでしょう)

 

しかし、個人の自律性がまだまだ確立していない日本企業で、そのまま直輸入してうまく適合するとは思えません(そういう話は枚挙に暇がありません)。だから難しいのです。共同体としての基盤は維持しつつも、多様性や不確実性、変化に適応する組織(チーム)をいかに開発するか、単なる輸入ではなく、独自の組織開発のアプローチが必要なのではないかと考えます。

 

 

これから、多くのご意見をいただきながら、少しずつその方法を考えていきたいと思います。

最近やっとダイアローグという言葉が、一般的になってきたようです。私が最初に耳にしたのは、今を去ること14年前、ピーターセンゲの名著「The fifth discipline」の翻訳最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か」 を読んだ時です。
Peter M. Senge
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そこで、初めてディスカッション(議論)との意味の違いを知りました。ディスカッションは自己の意見を認めさせる、基本は対立構造に根差し、ダイアローグは他者の意見を取り入れ、よりよい主張をつくりあげていう協調的活動です。

 

こう書くと、欧米人はディスカッションが得意で、日本人はダイアローグが得意と思われるかもしれませんが、必ずしもそうではないようです。

 

ダイアローグは妥協や調和ではありません。あくまで他者とやりとりを通じて、自己の意見を高めることが目的です。なので、日本人には、苦手のような気がしますし、なかなか理解も難しいようです。

 

ダイヤモンド社さん/東大の 中原淳准教授との仕事の中で、企業の人事の方に「雑談」と「議論」と「対話」の違いを理解してもらうためのショートドラマを、プロの俳優に出演いただき制作したほどです。

 

 

なぜ、苦手なのでしょうか?

 

ひとつは、自己の意見へのこだわりがそれほど強くないため、諦め妥協しやすいこと。二つ目は、逆に防衛本能が働き、対立構造になってしまうこと、このどちらかになりやすいのだと思います。

 

言いかえれば、対話において欠かせない、対等な立場で違いを際立たせ、違いを認め、さらに取り入れるという一連の活動に慣れていないのではないでしょうか。これには、諦めず、更なる高みを目指す忍耐も必要です。

 

 

同質化された社会であれば対話は不要でしたが、多様化が進み、創造力が勝負の決め手になる社会になれば、ダイアローグの技術は必須といえるでしょう。ダイアローグが学びとその先にある創造性を育むのです。

 

本来は、子供のころから対話を習慣づけるべきだと思いますが、それなくして大人になってしまった我々はどうすればいいのでしょうか?謝罪会見を繰り返す経営者、的を射ない会見と質疑応答をする政治家、パネル形式を取りながらも、自分の意見しか言わない文化人・・・、を目にするたびに、その困難さを感じます。

 

でも、諦めないで、ダイアローグの技術を高める方法を考えていきましょう。

 

常にコミュニケーション能力は、組織課題の上位にあがってきます。つまり、研修の人気テーマでもあるわけです。

 

しかし、研修を企画する方に、御社のコミュニケーション上の課題は何ですか?と質問しても、的確な回答が返ってくることは、それほど多くはありません。そもそも、そこで問題としているコミュニケーションとは、何を指すのかも曖昧です。

 

仮に、コミュニケーションが問題だったとして、

  良好なコミュニケーションが図れる組織とは、具体的にどのような組織か?

        個人の能力に原因があるのか?それとも組織に原因があるのか?

        個人に原因があるとして、それはどういう集団にあるのか?例えば、若手に原因があるのか、それとも管理職にあるのか?

        個人のコミュニケーション能力が欠如しているとして、具体的に、どのような行動、または思考が欠如しているのか?(つまり、コミュニケーション能力は、どのような要素で構成されていると考えるのか?)

        組織に原因があるとして、それが起きている理由は何か?背景にあるものは?

        それらの理由のうち、手を打てることは何か?それはなぜか?

 

 

などなど、疑問はどんどん膨らみます。そういった疑問も持たないまま、何となくコミュニケーション能力開発研修を企画してしまうこともあるようです。コミュニケーション能力という、だれもが疑問を挟まなそうなBig wordが、思考を停止させるのです。

 

このように、何となく最近コミュニケーションが悪い気がする、というくらいの認識で研修を企画し実施したところで、その場は盛り上がるかもしれませんが、職場に帰れば、何事もなかったかのように研修前と同じように振舞うことでしょう。それで、研修効果を持続させるにはどうしたらいいかと、悩んでみてもせん無い話です。

 

 

企画者自身が、徹底的に「考える」ことができなければ、できあいのパッケージプログラムを販売する研修ベンダー(あるいは講師)を喜ばせるだけなのです。易きに流れず、問題の本質を徹底的に追求する癖をつけたいものです。(それを「知的強靭さ」といいます。)

 

これまで、数多くの研修現場に立ち会ってきました。成功したといえる研修を一言で表現するならば、教室という空間の中で、講師と受講者、そして受講者同士が、相互に影響を与えあい、高め合っていく場だといえるでしょう。

 

これが実現するためには、講師の力量は当然として、企画者と講師による周到な用意が欠かせません。

 

しかし、意外にその用意の価値は評価されず、実行されることも少ないように思います。費用対効果はとても高いにも関わらず。

 

 

 

ここで思い出すのが茶道における「おもてなし」です。茶道では、「おもてなし」の構成要素を、「よそおい」「しつらい」そして「ふるまい」としているそうです。

おもてなしの心.jpg 

「よそおい」...「装い」、身なりを整えたり、身を飾ったりすること。また、その装束や装飾。身なりや外観を整えること。美しく飾ること。更に、目にしたようす。おもむき。風情(ふぜい)。一生懸命になって飾り整える...これがおもてなしの第一の要素。

 

「しつらい」...「設(しつら)え」。しつらえること。用意。準備。(「室礼」「補理」とも書く)平安時代、宴・移転・女御入内などの晴れの日に、寝殿の母屋や庇(ひさし)に調度類を配置して室内の装飾としたこと。

 

「ふるまい」...振る舞うこと。挙動。また、態度。ごちそうをすること。もてなし。供応。

 

 

おもてなしとは、相互信頼に基づく濃密なコミュニケーションを促すための仕掛けともいえるのでは、ないでしょうか。そこでは、主人がお客をもてなすという片務的な関係ではなく、相互依存関係なのだとおもいます。主客一体となって、ともに「場」を創り、その「場」がそこにいる人々に好ましい影響を与える。こういう場を創ることをリードするのが主人の役割なのでしょう。

 

 

研修の場で考えてみましょう。研修では、受講者同士が初対面であることが普通です。所属企業も、別々であることも珍しいことではありません。従って、いかに迅速にチームとしての一体感を醸成するかが、最初のポイントです。また、一刻も早く、講師に対する信頼感を持ってもらうことも大切です。

 

 

「装い」の観点では、受講者にドレスコードを課すことも有効かもしれません。その研修のテーマに合致するような色を最低一点使用するなどでもいいです。それで、ぐっと距離感が狭まります。講師の服装も重要です。その場で、「こういう存在だと認識されたい」というメッセージなのですから。必ずしも、スーツにネクタイがいいわけではありません。

 

「しつらい」の観点では、教室のレイアウトは当然として、照明、音楽、花などの装飾、飲食サービスなどなど、考慮すべきことはたくさんあります。ランチをどう提供するかも、午後のセッションの効果に大きく影響します。

 

「ふるまい」の観点では、この研修の場では、どのような「ふるまい」や行動が奨励されるかを、明示し共有することかもしれません。もちろん講師が率先垂範します。研修のテーマにもよりますが、「否定ではなく、アドバイスをする」「よく聞いた上で、主語を自分にして発言する」「意見を述べたらかならず、なぜなら・・・と理由を加える」「グループ代表者の発表には、拍手で敬意を示す」など、この場での「お作法」の合意と徹底です。

 

 

こうした、おもてなしの心を研修に活かすことは、これまであまり考慮されていなかったように思います。考えていたとしても、「受講者が気持ちよく時間を過ごせるように、至れり尽くせりのサポートをする」のが、おもてなしとだと。それも大事なんですが、それでは付加価値は生みません。

 

「研修効果を決めるのは講師や教材といったコンテンツの選定であり、その他のことはおまけ、アシスタントに任せておけばいい」という暗黙の前提もどうやらあるようです。

 

コンテンツを効率的に注入する工場のような無味乾燥な研修の場では、学ぶインセンティブも、なかなか湧いてきません。費用対効果を上げるために、やれることは、まだまだたくさんあります。

 

一昨日の総選挙の際、21歳の女性が子供と間違われ、投票を拒否されたという事件が平塚市であったそうです。市職員は間違いが判明しても謝罪もせず、「戻らないと棄権になる」と促したが、女性は怒って立ち去ったとのこと。

 

これに対して、担当の選挙事務局長は、

「市民の最高の権利行使なのに申し訳ない。間違いをした時に謝罪をするのは最低限のマナーで、今後、こうしたことが二度と起こらないよう職員の研修をする」と話したそうです。

謝罪.jpg 

 

おかしな出来事ですが、今回のように職員(社員)に重大なミスが発生すると、右の写真(本件とは無関係です)のように謝罪した上で、決まって二度と起きないように「研修を(強化)する」ということになります。(なぜか、経営幹部の重大なミスでは、研修とはなりませんが)

 

また、コンプラが強化されたり、セクハラ/パワハラが話題に上ると、やはり「研修強化だ」ということになります。

 

もちろん、研修自体は必要に違いありませんが、どれだけ気持ちを入れて企画・実施しているか、甚だ疑問のことがあります。つまり、やったという事実が重要の、アリバイ研修が多いのではないでしょうか。

 

また、そういったニーズに対応するベンダーも数多くあります。持ちつ持たれつです。

 

こういうアリバイ研修が、社員の研修に対する見方を決定してしまうことがあります。すなわち、「研修は参加することに意義がある」「息抜きみたいなものだ」といったふうです。

 

攻めの研修と、守りの研修があるのは事実です。守りの研修とは、「絶対XXXはしてはいけない。また、YYYの場合は、必ずZZZとしなければならない。」というルールを躾けるものです。自動車免許の書き換え時に受ける講習が、その典型です。

 

しかし、守りの研修も、本当に躾を徹底させないと、失敗した時のダメージが、かつての数百倍、数千倍にも膨らんできています。従って、守りの研修の効果を徹底的に追求することが、経営上非常に高い優先順位となってきているのです。

 

このような時代にもかかわらず、従来型のアリバイ研修でお茶を濁そうとする企業や団体は、存続自体が危うくなることでしょう。

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