組織の能力: 2011年8月アーカイブ

先週金曜夜、何気なくNHK(総合)にチャンネルを合わしたら、面白いドキュメンタリー番組をやっており、釘づけになって観ました。

 

 「こうして8人が選ばれた」

就活人気の中堅企業の最終内定まで、1000人に及ぶ学生から8名を選び抜くプロセスに完全密着~

 

中堅企業の採用活動を追ったドキュメンタリーですが、その企業がユニークなのは、社長と副社長が全ての面接を行うことです。もちろん、会社説明会でも社長が語ります。

 

面接中の学生が社長に、なぜ御社では全て社長が面接するのかと、質問します。当然の疑問です。社長の回答がよかった!

「私は、将来の社長を探しているのです。その仕事を他の誰かに任せられますか?」

こんな言葉を聞いたら、学生はイチコロでしょう。でも、至極まっとうな考え方だと感心しました。全くその通りです。我社は人が財産です、だから「人材」ではなく、「人財」と呼ぶのです、といいながら、人を大切にしていない会社が如何に多いことか。呼称なんかではなく、社長自身の行動で示さない限り、信用すべきではありません。

 

こんな会社ですから、びっくりするような優秀な学生が集まります。面接風景を観ただけでわかります。社長が誰を採りたいのかもわかります。

 

でも、悩んだ挙句内定を出したそうした学生にも、断わられます。それを聞いたときの社長の落胆、よくわかります。

 

震災の影響で大手の採用活動が、例年に比べて大幅に遅くなりました。中堅企業が内定を出しても、その後に始まる大手に取られてしまうのです。

 

内定許諾の段階になって、「私は結婚して家庭を持ちたいのです。御社の給与で家庭を持てるでしょうか」と不安を募らせる学生もいました。(彼は最終的に残りましたが)

 

学生の気持ちもわからないでもありません。でも、内定をもらい、内定者全員が役員全員と顔合わせするセレモニーの直後、社長に断りを入れる学生がいたのには驚きました。

 

結局残った内定者は、中国からの留学生や女性が目立ちました。それが現実なのでしょうか。終身雇用が崩れる現在、大手から中小、中小から大手といった双方向のキャリアの流れができないと、日本は立ちいかなくなるでしょう。

 

私自身は、新卒で大企業に入り、その後どんどん、小さな組織に移ってきました。日本の大企業でしか、若いうちに学べないことが多いのは確実です。一方、若いうちにたくさんの経験が積めるのは、間違いなく小さい組織です。そこで経験を積んで、大組織でその能力を活かすという道も、少しずつではありますができてきています。その流れは、さらに大きくなっていくと思います。そのためには、社員だけでなく、経営者の意識変革も重要です。

 

この番組に登場した社長、こんな本気の経営者がもっと増えれば、確実にその流れが大きくなっていくに違いありません。

長年、企業の人材育成のお手伝いを手掛けていると、人材育成の目的にも様々あることを実感します。企業が主体的に社員の人材育成を行う目的は、以下の三つに集約されるのではないでしょうか。

 

①「組織」を効果的にワークさせるため

いうまでもなく企業は組織で動きます。いくら個人の力が強くても、組織の力が強くなければ成果はでません。そのためには、社員のベクトルを会社のとアラインさせる必要があります。さらに、組織を適切の運営するマネジメントが必要です。それを中間で担うのがマネジャーです。ここでのマネジャーとは、必ずしも役職ではありません。マネジメントを担う人です。ではマネジメントとは何か?一人ではできないことを集団で実現することです。それがそもそも組織の目的なのですから、組織構成員は全員マネジャーといってもくらいです。そういう観点での教育を行うわけです。

 

②機能としての能力を向上させるため

組織とは機能の集まりということもできます。生産機能、販売機能、管理機能などなど。そして、その機能を担うのも社員ひとりひとりです。機能としての能力を高めるために、若手は先輩や上司といった機能面の師匠から学びます。いわゆるOJTです。しかし、現在問題があります。環境変化が激しく、必ずしも身近に師匠がいるとは限らないのです。あるいは、見かけは師匠だが実はもう使えないスキルしか持っていないのかもしれない。こういう場合は、現在必要なスキルや技術を持つ人(それは社外にしかいないかもしれません)から、日常業務とは別に学ばなければ修得できません。OJTではない、意図を持った仕掛けが不可欠になりつつあります。

 

③ビジネスパーソン(社会人)としての能力を向上させるため

自覚しているかどうかは別として、日本社会における企業は人格鍛錬の場所であったことは確かです。家庭や学校よりもはるかに仕事で人は鍛えられます。会社は一義的にはビジネスパーソンとしての鍛錬の場ですが、結果的に人間としての鍛錬の場にもなっていたことでしょう。人間的に鍛えられた社員のほうが機能要素としても、組織要素としても成果を出せることは間違いありません。ステークホルダーから助けられやすいからでもあります。だから、企業はこの面からの育成にも力を入れてきたのです。そのためにはOJTすなわち日常業務の中での教育が不可欠です。しかし、教育する側の余裕がなくなってきており、教育力の低下が問題となっています。

 

話は少しそれますが、非正規雇用の比率が高まるということは、極端に言えばこうした鍛錬の場を経ていない国民が増えるということです。教育が大切な15歳から24歳の男性労働者に占める非正規雇用の率は、1990年の20%から2011年は49.1%へと急増しています。この面での企業の教育力低下のみならず、そもそもカバレッジがこれだけ極端に下がっているのは、社会の大きな構造的問題でしょう。

このアーカイブについて

このページには、2011年8月以降に書かれたブログ記事のうち組織の能力カテゴリに属しているものが含まれています。

前のアーカイブは組織の能力: 2011年7月です。

次のアーカイブは組織の能力: 2011年9月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

ウェブページ

Powered by Movable Type 4.1