組織の能力: 2010年8月アーカイブ

以前にも書きましたハーバード大学のサンデル教授の特別講義が、先週金曜夜にアカデミーヒルズにて開催され、参加してきました。会場いっぱいの参加者は著書を出版している早川書房とアカデミーヒルズからの招待者とメディア関係者という顔ぶれでした。年齢層もばらつきが大きいようでした。

 

スタイルは、NHKでも放映された「白熱教室」と同じですが、同時通訳が入っているということもあり、白熱とまでは残念ながらいきませんでした。

 

サンデル教授の講義で関心したのは、発言者の名前を確実に記憶していることです。発言者は、最初にファーストネームを言ってから発言します。彼にとって日本人の名前は大変覚えにくいでしょうが、ほぼ間違いなく覚えていました。

 

もう一つは、多少ずれた発言に対しても、しつこく問いかけを繰り返すことにより、意味のある発言を引き出す技術です。

 

普通教壇に立つ人は、自分なりの進行イメージ(ストーリー)を作成し、落とし所を決めて臨むはずです。ストーリーは一本とは限りませんが、数本でしょう。そこから大きく外れると、混乱し不快感をあらわすこともあります。極端な場合は無視します。サンデル教授は、全体そうはしません。だから、多くの受講者が発言を求めて挙手するのです。

 

彼のストーリーイメージは、数本の線ではなく、縦横に広がるメッシュのイメージでした。各は発言者をそのメッシュの特定の場所に置いておきます。決して放置しません。そして、議論の展開がそちらに向かったりすると、前の発言者に再び質問したりします。発言者をメッシュ地図上に置いておくために、発言者の名前を記号として記憶する必要があるのでしょう。

 

このように、一言でいえば大変懐が深い講義の展開なのです。そのためには入念な準備と集中力が必要です。それを文化的背景も異なる日本で、しかも一発勝負で行って成功させるのですから、やはりさすがです。

 

一方、発言者側の特徴で感じたのは、論理的説明に慣れていない人が多い点です。言葉での勝負になれば、論理性は必須です。思いは強いのだけど、うまく言葉で組み立てられないもどかしさを、何人もの発言に感じました。これは、そういう学校教育や職場での訓練を受けていなければ、仕方がないことなのかもしれません。

 

ただ、このような思考を促す対話型クラスは、講師の能力さえあれば日本人相手でも十分可能です。政治哲学ですから正解があるわけでもありません。正解を求める傾向が強い我々日本人ですが、終わったあとの参加者の様子を見る限り、うまく思考を強いられたことで大変満足していようでした。慣れていないだけに新鮮でもあったのでしょう。

 

やはり、問題は教える側の能力が全然追いついていないことでしょう。あらためてそれを痛感しました。

最近、管理職研修を見直したいとの話をよく聞きます。そもそも、管理職に研修を実施する意味はどこにあるのでしょうか?管理職への教育は、もともと工場の労働者管理から始まった経緯から、かつては部下指導や評価の方法、業績管理に関する知識など、コントロールのノウハウ伝授の色合いが濃かったように思います。

 

しかし、管理職の大部分はホワイトカラーになり、環境が一変しています。企業経営全般の視点に立てば、もはや管理職研修というくくりよりも、会社の屋台骨を支えるミドルの能力開発という切り口のほうが、近年では一般的になっていると思います。管理職研修が、ミドルに対するマネジメント研修に拡大されたのです。その中で、最低限管理職として必要な知識を伝授することもあるでしょう。あるいは、その部分だけを切り出して、管理職昇格時に実施することもあるでしょう。

 

では、今の企業のミドルにはどのような役割が求められているのでしょうか。それが明確にならなければ教育の企画も立てられません。管理職やミドルには、リーダーシップが必要だ、なのでリーダーシップ研修をやろう!という非常に短絡的な考えも見られなくはありません。

 

仮にそうだとして、どんなリーダーシップスタイルが自社には必要なのか?を突き詰めないと、なんとなく面白かった研修で終わってしまいます。そもそも、ミドルに最も必要なのは、リーダーシップなのでしょうか?今や、リーダーシップは思考停止ワードの代表格です。

 

話をミドルの役割に戻しましょう。私は今のミドルを役割を考える上で、現在に着目するか未来に着目するかと、ゼネラリストかスペシャリストかのニ軸が有用だと考えています。そのマトリクスで4つの役割が規定されます。

 

・現在Xゼネラリスト:場のかじ取り役

・現在Xスペシャリスト:実践家(その職種におけるチャンピオン)

・未来Xゼネラリスト:プロデューサー

・未来Xスペシャリスト:構想家/設計士

 

企業によって上記4役割の比重は異なります。また、ミドル個人レベルでも異なるのは当然です。我社のミドルには、こういう役割を求めており、そのために会社は全面的に教育支援をしていく、というメッセージを打ちだすことが必要だとおもいます。

 

その上で、研修という手段ではどのようなプログラムを設計するか、それが人材開発担当者の腕の見せ所だと思います。

先日、ある業界の横断機関からの依頼で、2つのセッションを行いました。ひとつは、各社の経営企画担当者向け、もう一つは人材開発担当者向けで、ちょうど1週間間隔でした。

 

先に実施した経営企画担当者向けセッションは、戦略をいかに組織や人に落とし込むかがテーマで、後の人材開発担当者向けは、人材・組織開発をいかに戦略実現にかなうものにするかがテーマでした。それぞれ別の依頼でしたが、なんのことはない、やったことは戦略と組織のリンケージを、それぞれの角度から理解し実行できるようにしようということでした。

 

経営企画担当は、組織を単なる実行ツールとみがちですし、人材開発担当はあまり戦略を意識しないようです。それゆえ、その必要性を納得して頂くことは、そう簡単ではありません。

 

 

経営企画担当者は、他のセッションでは戦略策定のノウハウなどを学んでいます。それに対して私は、「戦略は創るものではなく、組織の日常活動の中から生まれてくるものだ」なんて言うものだから、最初は???という雰囲気でした。

 

最初の半日(午後+午前の、のべ一日セッション)は、ショートケース3本を使い、戦略と組織の関係を実感してもらいます。その上で、そもそも組織って何?と考えてもらいます。「組織って、●●みたいなもの」の、●●を各自ポストイット5枚以上書いてもらい、それをグループでまとめてもらい全体ディスカッションしかす。

 

翌日の半日は、自作のケース「ヤマト運輸の戦略転換」でディスカッションです。ケースは前後編に分かれており、前半では「宅急便」事業開始までの事実が書いてあります。その情報をもとに、

・宅急便事業のKey success factorは何?

・どんな組織ならそれが実現できそう?

ということを考えてもらいました。

 

その後、後半のケースをその場で読んでもらいます。後半には、実際にヤマトが参入にあたって創った組織や人事施策などが記載してあります。そして、

・なぜ実行面でも成功したか?

・リスクは何か?

について考えてもらいました。

 

 

ヤマト運輸の宅急便事業開始は、非常に大きな戦略転換です。社長や企画スタッフが机上でそのプランを考えることは、簡単ではありませんが、可能ではあったでしょう。しかし、5千人を超える社員の意識やスキルのギャップを超えて、実現させることは並大抵のことではありません。それを実現した小倉昌男社長率いるヤマト運輸には、戦略と組織をつなげるヒントがたくさん詰まっているのです。

 

 

戦略・企画担当と、人事・人材開発担当は、なかなか日ごろ接点がないようです。しかし、両者が手を取り合って事業を企画し推進することが、今後ますます重要になってくることでしょう。今回は、それぞれ別々にセッションを行いましたが、合同で行うともっと高い効果が得られるようにも感じました。

 

 

大変ではありましたが、このような機会を頂き、大変感謝しています。

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