組織の能力: 2009年4月アーカイブ

昨日、キリンホールディングスの三宅副社長のお話しを伺う機会がありました。三宅さんは、3/25迄キリンビール㈱の社長でした。

 

キリンは、2001年にビール首位の座を、アサヒに明け渡しましたが、そこからどう対処したのかなどについて、大変刺激的なお話しでした。

 

    高度成長時代は、家庭で瓶ビールをケースで配達してもらう買い方が主流だった。そこで、酒販店チャネルを押えていたキリンが40%以上のシェアを16年間維持できた(選択肢は不要)

    80年代に入り、核家族が進展、共働きも増え、家庭でケース購入の習慣が薄れていった。代わりに、仕事帰りにコンビニで、缶ビールを買って帰ることが多くなった。店舗は、多くのブランドを並べたがり、顧客も気分で別ブランドを試しに買うようになった

    86年アサヒがドライビールで旋風を起こす。それまでは、各者独自ブランドで棲み分けていたが、旋風に巻き込まれ各社がドライビールを発売。結果として、ドライ市場拡大に貢献しアサヒの独り勝ちとなった。(商品戦略大失敗)

    「一番搾り」のヒットもあったが、01年首位転落。ここで、「価格」から「価値」に大きく舵を切る。

-それまでは、競合ばかり気にして、顧客を見ていなかったと反省

    募集して集まった社員111人による「ダーウィンフォーラム」で、新たなビジョン・バリューを議論し、「酒類事業の誓い」を策定。

    同時に、公正取引委員会指導の取引正常化に本気で取り組む。その結果、流通の反発を買い、さらにシェア低下

    部門を超えた5060人単位で、社長自ら社員との対話集会(丸一日)キリン のどごし.jpgを実施。これを機会に、部門連携の機運が高まる

    06年「のどごし」が、大ヒット。成功体験を思いだす。

    0913月期、ビール首位奪取!

 

50分間、企業変革のケースを読んでいる気分でした。やはり、自ら主導してきた方が話すと、説得力がまるで違います。場の力を感じました。お話しを聞きながら、早くビールが飲みたいと真剣に思った次第です。

 

なお、おもにビール事業のお話しでしたが、全社戦略についても、少しお話いただけました。それも、すごく面白かったのですが、日をあらためて。

将来のゴールを設定し、現在とのギャップを埋めるべく行動することが戦略だという考え方は、広く浸透しています。また、個人のキャリアを考える際も、ビジョンやゴールからブレークダウンすべきだという論調も多いでしょう。

 

でも、それほど将来のことを読めるのでしょうか。果たして、一年前に現在の経済状況を予測できた人がいるでしょうか。

 

経営戦略論は、大きくはポジション重視派と資源重視派に分かれます。ポジション重視は、将来有利になるポジションを読んで、そこに向かっていこうと考えます。資源重視派は、先どうなるかわからないが、どうなってもいいだけの経営資源を蓄えておこうと考えます。最初に述べたのは、ポジション重視派の考えに基づいています。

 

週間東洋経済の今週号(2009/4/25号)に、任天堂の岩田社長のインタビューが載っています。

 

「(前略)任天堂が革新的なコントローラーを生み出したから(成功した)と言って下さる方がいます。(中略)もし、大画面の薄型テレビが普及していくタイミングと合わなかったら、これほどWiiは遊んでいただけたでしょうか。(中略)薄型テレビが居間に入った。すごくいい視聴環境ができたので、家族みんながそこに集まるようになった。しかも、商品が薄くなったので、テレビの前でリモコンを振るスペースができたのですね。

 では、それを読みきってWiiを作ったかというと、そんなことはないのですよ。『大画面テレビが普及するから、これからのゲームは高精細だ』という予測はあった。ただ、絵がきれいになっただけでゲームから離れたユーザーが戻ってくるとは思えないので、任天堂はあえてその路線を行かずに別の方向に動いた。ここは理屈です。けれども、薄型テレビの普及がWiiリモコンへの支持を高めると予測できたかというと、そうではないのですよね。」

 

「企業文化の持つ意味も大きく、考え続けている人たちに囲まれていると、新人もそのDNAに自然に染まるという循環がある。任天堂はその中で動いているのではないかと思います。」

 

「(前略)努力には際限がない。一方で、結果がでるかどうかは天の時に恵まれるかどうか次第。だから、結果が出たら幸運に感謝しましょう、結果が出なかったら自分達に何が足りなかったか考えましょう。それが任天堂にこめられた意味ではないですか」

 

 

任天堂では、将来が読めるという驕った考えは持たず、ひたすら最重要な経営資源たるヒトにこだわってきたようです。謙虚に足下を見続け、ひたすら考え続けることが最大の戦略なのでしょう。 Wii.jpg

企業内研修の事業にかかわって早16年、近年質・両とも大きく変化しています。

 

研修のニーズは年々増えていますし、今後も増え続けるでしょう。それは、企業において変化が常態化していること、そして社員が急速にナレッジワーカー化しているからだと考えられます。経験が通用しない変化の下では、常に学習し、新しい知識を身につけ、使いこなさなければなりません。また、付加価値の源泉は、機械などの資産からヒトの知恵に急速に移りつつあります。

 

次に、研修が従来の講義型からインタラクティブ型に、急速にシフトしています。研修の目的が、外からの知識の獲得だけであれば、講義型で問題なかったのですが、現在は、もらった知識ではなく、自ら生み出した知識を身につけなければなりません。経験を踏まえて自分で生みだした知識(マイセオリー)でなければ、現場で使いこなせないからです。そのためには、他者とのインタラクションが欠かせません。

 

最後は、上記を踏まえた総コスト圧縮と費用対効果の追求です。研修の必要性が高まることは、研修対象者が増大することを意味します。そうなると、一人当たり費用を低減させねばなりません。しかし、一方でインタラクティブ型は、少人数での研修でなければ実現できません。つまり、一人当たり費用が増加してしまうのです。そのため、効果を下げずに、いかに総コストを圧縮するかという問題になりますが、これはなかなか難しい問題です。

 

定型的知識習得は、eラーニングやウェブでの映像配信に置き換えていくことでしょう。これにより、コンテンツ費用と移動関連費用の両面で削減を図ることができます。

 

しかし、インタラクティブ性を必要とするコアとなる研修はどうするのでしょうか。バーチャルな空間でインタラクティブな研修が実現できたらと思います。

セカンドライフというバーチャル空間での活動が話題になったことがありましたが、そのイメージでしょうか。受講者は、物理的には各地に散らばっているのですが、ネット上では一か所に集まって、講師も交えインタラクティブな対話ができる。技術的には、もうすぐそこに来ていると思うのですが・・・。 セカンドライフ.jpg

春です。新年度に入ったことですし、社会人教育について、経済性の面から少し考えてみましょう。

  

社会人教育といった場合は、大きくインハウスの社内研修とオープンセミナー(公開講座)に分かれます。

 

前者は、特定企業が独自に企画実施するものです。したがって、受講者も普通、業務の一環として参加します。もちろん会社にとっても必要経費です。オープンセミナーとは、社会人なら企業を問わず誰でも申し込み受講できる公開講座です。

 

では、まず社内研修から考えてみましょう。必要な経費は、もっともシンプルに考えれば外部講師への支払いのみです。かなり大胆ですが、以下を前提とします。

 ・外部講師を起用

    会場は社内会議室を使用

    受講者の交通費等は受講者の負担

    研修企画担当者の人件費や、受講者の機会費用は考慮せず

    企業は利益を出しており、税率は40

 

仮に、一人一日の研修で得られる研修効果を3万円とします。20人の受講者で計60万円です。損金になることを考慮すれば、企業としては、100万円までの支出が正当化されます。

 60万円/(140%)=100万円

 

つまり、外部講師などに100万円までなら支払うことが合理的なのです。(もちろん、外部講師を研修会社経由で依頼する場合は、研修会社への支払いとなります。)

 

一方、オープンセミナーのコストを考えてみましょう。

上記と同様の成果が期待できるプログラムだとすれば、受講料売上は、

 3万円X20人=60万円

 

これに、教室代とマーケティングコストがかかります。

    教室代 7時間で7万円(時間単価1万円として)

    マーケティング費用 6万円(標準売上の10%として)

    運営の人件費はなしとする

 ・オープン講座の受講者は、個人で費用負担する

 

 

あと、集客リスクを加味する必要があります。一クラスあたり適正人数が、20名だからといって、20名いつも集客できるわけではありません。また、人気講座だからといって、30名で実施することもできません。そこで、リスクを加味した上で、平均の集客数が、17名としましょう。

    集客リスク 3X3万円=9万円

 

そうすると、残りの金額はわずか38万円です

  60万円-(7万円+6万円+9万円)=38万円

 

全額講師料としてしまえば、オープンセミナー会社は存続できません。ここから、いくらかの利益を残さねばなりません。

 

このように見てくると、20人に対して60万円相当の同じサービスを提供する

としても、社内研修とオープンセミナーでは、そのコンテンツ(講師と教材)に充当できる金額が大きく異なることがわかります。(オープンセミナーはコンテンツが劣ると言っているわけではありません。誤解なきよう)

 

非常に極端な例ではありますが、同じ社会人教育といっても、その、エコノミクスは様々なのです。教育を提供する側も、受ける側も、こういったエコノミクスを考慮したうえで、判断していきましょう。

花筏.jpg

このアーカイブについて

このページには、2009年4月以降に書かれたブログ記事のうち組織の能力カテゴリに属しているものが含まれています。

前のアーカイブは組織の能力: 2009年3月です。

次のアーカイブは組織の能力: 2009年5月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

ウェブページ

Powered by Movable Type 4.1