組織の能力: 2010年11月アーカイブ

派遣社員が当たり前のように活用されるようになり、また業務委託やアウトソースを使わない企業を探すのが困難なほどの時代になりました。こうなると、何を企業内で遂行し、何を外部に委託するかの線引きが重要になってきます。いわゆる組織の境界論です。そして、もう一つの重要になるのが、外部に委託する業務について、いかにその相手の能力を引き出し、自社のメリットを最大化するかという点です。

 

三菱重工業相談役西岡喬氏の「私の履歴書」(日経朝刊10/11/19)に、こんな記述がありました。ある事業所(名航)の所長に就任した西岡氏

西岡氏.jpg

は、バブル崩壊のあおりで、大幅なコスト削減に取り組むことになり、社内はもちろん社外の外注先にもコスト削減のお願いに廻った時のこと。

 

主だった外注先には私が直接出向いた。20社ほど回ったと思う。行ってみて実態がよくわかった。「われわれは改善したいと思っていることがいっぱいある。だけど、三菱重工の方がひとつも聞いてくれない」各社の社長からは、こんな声が一番多かった。「こうすれば、もっと安くできるのに」と、名航に提案しても、なかなか対応してくれないという。

 

組織の壁とは、企業内の組織間のコミュニケ-ション不足のことを指すのが普通でしょう。しかし、現在のように重要な業務の一部を社外に依存するようになると、自社と取引先の壁の高さにも、もっと関心が払われてしかるべきだと思います。

 

私も、外部の方に委託することも、委託されることも非常に多いですが、そういった時の仕事のしやすさとは、他社(者)の能力を最大限に引き出す力があるかどうかで決まってくるように感じます。コストを安くするということとは全く違います。コスト以前に、誰もが仕事をするからには、いい仕事をしたいと思っています。その相手の気持ちを汲んで、一緒にいいものを創り上げたいという姿勢があれば、気持ちよく仕事ができ、その結果必ずいい成果を生み出すことができるのです。

 

しかし、未だに「使う、使われる」という前世紀のパラダイムで、外部と仕事をする人もいなくはありません。ドラッカーの言う「知識社会」になればなるほど生産物は汎用品ではなく、ソフトなサービスになっていきます。そこでのアウトプットは、目に見えにくく評価は困難です。だからこそ、上記のような「能力を引き出す力」が問われてくるのです。西岡氏の文章を読んで、自分への戒めをこめて、あらためて再認識しました。

先週の水曜の夜、六本木アカデミーヒルズでの 「アダットシリーズ ケースで学ぶグローバル戦略」が無事開催できました。今回は、定員30名のところ満席でした。講師の青野仲達さんのリードも的確で、満足度も高かったと思います。

 

使用したケースは「イングヴァル・カムプラッドとイケア」という、HBS開発のケースです。イケアは、日本市場にも数年前に参入し着実に店舗を増やしています。ほとんどの受講者がイケアの店舗に行ったことがあるとのことで、身近なケースでもあったようです。

 

このケースは、イングヴァル・カムプラッドが1943年に17歳でスウェーデンの田舎で小売を始めたところから始まります。そして戦後すぐ家具販売に眼をつけ、成長を続けるストーリーです。このケースは、いくつかのテーマで議論ができます。

     (戦後の)環境変化からいかに機会を見つけるか

     既得権益集団の妨害にどう対処するか

     いかにブルーオーシャンを見つけ、成功させるか

     創業者の理念や価値観を拡大する組織にいかに浸透させるか

     拡大する組織をいかに運営するか

     文化の異なる海外事業に、企業文化を持ち込んでいいものか

     創業者がいなくなった後、どうすべきか

 

など、どれも身につまされるような経営課題が、豊富にケースから読み取れます。従って、受講者の発言も活発で、たった一回のケース・ディスカッションでも、ここまで中味の濃い討議が出来ることを証明してくれました。最後の質疑で、「ハーバードでの議論と比べて、今日の議論のレベルはどうでしたか?」との質問に、青野講師はほとんど遜色ないと答えました。そうだと私も思います。

 

これまでケース・メソッドは、「何十ケースとやって初めて効果が出る」「日本人は、自発的に発言しないので難しい」「見ず知らずの人とすぐには突っ込んだ議論はできない」など、日本での普及は難しいとの前提があったように思います。もちろん、アメリカと比べればそういう面も確かにあると思いますが、日本人の気質も変わってきていますし、また苦手だからこそやるべきとの考え方もあってしかるべきだと思います。

 

サンデル教授の『白熱教室』の人気により、ディスカッション型のクラスへの関心が日本でも高まっています。ケースという膨大な教材をもっともっと活用して、主体的に知的レベルを上げる能力開発を盛んにしていきたいと、あらためて思いました。

このアーカイブについて

このページには、2010年11月以降に書かれたブログ記事のうち組織の能力カテゴリに属しているものが含まれています。

前のアーカイブは組織の能力: 2010年9月です。

次のアーカイブは組織の能力: 2010年12月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

ウェブページ

Powered by Movable Type 4.1