組織の能力: 2010年6月アーカイブ

どんな会社を訪れても、そこの職場特有の「におい」を感じることができます。それは私固有の能力ではなく、皆さんそうだと思いますが、あまりそのテーマで話しあったことはありません。

 

最初にそれを感じたのは、新卒で入った銀行でのできごとでした。新入行員研修の一貫として、取引先を訪れて、そこの社員に対してクレジットカードやカードローンといった個人向け商品の営業を行いました。ある再建途上の会社を訪れたとき、ドアくぐると同時に暗い、湿った空気を感じたのです。節電のため、蛍光灯を間引いていたのかもしれませんが・・。社員の方の表情も暗く、時間の流れ方が、その中だけ違うように感じました。

 

 

その後、コンサルティング会社時代(もう15年以上前のことなので記憶違いは勘弁ください)、当時大型スーパーの覇権を争っていたIY社とD社を同じ日に訪れたことがあります。IY社本社に入ったとたん、張り詰める緊張感を感じました。ただ、決していやな緊張感ではありません。社員は全員真っ白のシャツ(ストライプもなし)で、髪も短く刈っていました。机は全員同じ方向(お客さんが通る側)を向いていました。しかも、机上には電話以外何も置いていません。「整然」のにおいです。集中することから生まれる、心地よさのようなものを感じました。

 

次に、D社本社を訪れました。驚いたことに、さっき行ったIY社と全てが正反対です。服装も髪型も、動き方もばらばらでした。でも、共通なのは皆エネルギーレベルがすごく高いことです。こちらも、いやな感じどころか、元気をもらったような気がしたものです。

 

両社の「におい」は、経営スタイルそのものでした。組織って面白いなあと思いました。その後、初めて訪れる会社にいくと、まず「におい」を探してしまうようになってしまいました。

 

 

「におい」は経営の結果生じるものでしょう。「におい」を誘導することはできるのでしょうか。つまり、結果ではなく原因にする。人間は「型」や環境に適応するものです。それゆえ、もし好ましい「におい」が発生するような仕掛けをつくることができれば、おのずと職場も会社も変えることができるかもしれません。

 

あなたの「職場のにおい」はどんな感じですか?

ハードからソフトへ、統制から自律へ、普遍から個別へ、マクロで見ればあらゆる物事がこの変化の途上にあるように感じます。これは、世界が豊かになることの必然なのでしょうか。

 

一般に企業を強くするための支援サービスと言えば、戦略策定を支援する戦略コンサル、人事制度構築を支援する人事コンサル、情報システム構築を支援するシステムコンサルなどが思い浮かびます。いずれも、普遍解があることを前提に、ハード面から統制を効果的に行うことをサポートするサービスといえるでしょう。これは、経営者の関心がそれらに向いていることの裏返しとも言えます。

 

しかし、大きな時代の変化の中で、このアプローチだけでは足りないとも感じているのではないでしょうか。マネジメント開発、すなわち強い組織を作ろうとすれば、組織構造や評価制度や業務プロセスを変えるだけでは足りない。人々の関係性や意識、能力、熱意といったソフト面の充実があって、はじめて実行力が生まれる。構造や制度は、それらに間接的に働きかける手段の一つしかすぎません。いわば梃子です。でも、他になかなか方法が見つからないので、そういったハード面のアプローチに頼るのかもしれません。でも、本丸はソフトなのです。

 

 

では、ソフト面の開発などできるのでしょうか。当然のことながら、これは時間がかかるし難易度も高い。ソフトは会社運営のプロセス全体に織り込まれており、計測が難しい、すなわち管理も難しいものです。いわば結果としての企業文化をコントロールできるのでしょうか。

 

企業文化とは、価値観や非公式な規範、習慣化した手順、意思決定のやり方などの積み重ねによって時間をかけて形成されるものです。その形成プロセスに適宜入り込んで刺激しなければ、企業文化に影響を与えられません。つまり、介入が必要です。具体的には、問題解決や意思決定、コミュニケーションの場面での介入でしょうか。そのとき、介入者はその組織の文化に染まっていては、影響を与えづらいでしょう。「社内の常識は社外の非常識」だと知らしめなければならないのですから。

 

細かいことで言えば会議の進め方一つとっても、それが企業文化に反映されています。それらひとつずつに、疑問を呈していく必要があります。

 

そして、介入の対象としてもっとも重要なのはトップです。トップが言行不一致であれば、社員に何も期待できないでしょう。でも、社内にはトップに対し介入できる人間はほとんどいないと思っておいたほうがいい。もちろん、社外取締役に期待したい部分ではありますが・・。

 

なにより、プロセスへの介入を通じて企業文化ひいては組織能力を好ましいものに変えていくには、一貫性が欠かせません。ある局面と別の局面では異なる基準で意思決定などされれば、混乱しか生みません。そのためには、明文化した規範やルールも必要かもしれません。

 

このように、ソフト・自律・個別の時代には、ハード・統制・普遍の時代とは異なる経営が必要なはずです。まず、その認識を共有したいと考えます。

今月の日経「私の履歴書」は、オービック創業者の野田順弘氏です。創業者の立ち上げ期の話は、やはり深い説得力を持ちます。

 

創業間もない頃、若い社員の勘違いで、三菱電機のオフコンを頼まれるまま20台発注してしまった会社は大変な危機に見舞われます。その20台を売り切らなければ倒産どころか、役員全員自己破産。当時のオフコンは超高級品で、そう簡単に売れない代物でした。

 

そこから先の粘りと集中力、団結力がすごい!営業部隊は毎朝7時半に出社して、進捗と情報を共有、ブレストを行う。すると、戦略と戦術の中身が見えてきたそうです。そして、本当に期限内に20台を売り切った。

 

収穫は別のところにあった。不可能と思えた「20台完売」を達成するために考え出した戦術が、今日のオービックが得意とするソリューションビジネスの原形になったことだ。

 溺れる者がむやみに体を動かしているうちに、誰も知らない泳法を身につけたようなものだ。

 

 

この話は非常に面白いです。同社の中核的戦略である「ソリューションビジネス」が、天才や戦略家のひらめきや分析で生まれたのではなく、もがき苦しむうちに、あたかも自然に生まれてきたことです。強いプレッシャー受けて、何とかしなければならならないとの覚悟が生みだしたとも言えるでしょう。私は、これが本当の戦略創造だと思います。かっこいいものではないのです。

 

そして、それを可能にしたのが対話です。毎朝の営業会議では、本気の意見のやり取りがあったことでしょう。そして、即実行した。営業マンたちの経験は浅く、知識もそれほどなかったことと思います。でも、全員が20台売り切りという目標達成に向けて本気だったのです。それが、戦略を創造し、また強い組織をも生み出したと言えるでしょう。

 

 

組織とは構造や指示命令系統ではなく、戦略的対話すなわちインタラクティブ性を基盤としたコミュニティーといえます。戦略的対話とは、認識、仮説構築、行動からなり組織進化を促す学習プロセスです。そして、戦略とは天才がひらめくものではなく、組織の進化を促す一貫性のある行動パターンのことなのです。

 

このことを、野田氏の話は如実に語ってくれます。では、どうすれば戦略的対話が実現できるのか?これが最大の問題です。戦略的対話が生まれるには、そうなるべき「場」ができていることでしょう。では、その「場」とは?

それを考え続けていかなければなりません。

日本企業が海外、特にアジアで優秀な現地人社員を確保、リテインできないとの話をしばしば聞きます。数年前までは、アジアの拠点は主に生産拠点でした。ところが、特にリーマンショック以降は、国内や欧米のシュリンクに伴い、相対的に販売や開発拠点としての位置づけが強化されているようです。

 

人材の面から見れば、これまではブルーカラーの採用とリテインを考えていればよかった。そこでのポイントは給料でしょう。中国の工場でホンダが苦しんでいるのもそれです。

 

一方、これからはホワイトカラーの採用とリテインが重要になります。そこでのポイントは、能力開発と公平性だと考えます。もちろん給料は高いに越したことはありませんが、その重要性はブルーカラーに比べれば低いでしょう。それ以上に大切なのは、日本人社員(在日本含め)と同等の扱いを受けられ、成長できるかどうかです。扱いとは、突き詰めれば昇進でしょうが、その前段階としての教育機会に着目すべきと考えます。

 

アジア諸国では、幸い?まだ日本企業のステータスは高いそうです。優秀な若者には、日本語を学び日本留学する人がまだまだたくさんいます。そういう人々をいち早く獲得し育成することが、日本企業のグローバル戦略の基盤になるのではないでしょうか。

 

でも、急がないと、「日本」の神通力もいつまで持つかわかりません。韓国のサムソンが、20年以上前から若手社員を世界中の国々(貧困国含め)に駐在させ続けていることが、現在の地位に貢献していることは明らかです。

 

日本人を海外に出すこととともに、優秀なローカルスタッフの日本化も大切だと思います。日本的経営、日本的人材開発のエッセンスを、正々堂々と海外で啓蒙していくべきです。もちろん、変えるべきところは変える必要があります。

 

かつて、アメリカ型経営が、グローバルスタンダードだと思われたように、アジアにおいては日本的経営がアジアスタンダードになってもおかしくはないでしょう。さもなくば、中国型経営がその地位を占めるかもしれません。

 

いずれにしろ、内弁慶にならず、自信をもってアジア諸国に関与すべきです。時間は、もうあまりありません。

本田のシュートが決まった瞬間、深夜にも関わらず、大きく拍手してしまいました。それほど、待望の一点でした。

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直前の強化試合4連敗で迎えた緒戦。対カメルーン戦を、1-0で守り抜き勝ったのです。不安が大きかっただけに、日本中が歓喜したことでしょう。

 

この試合は、「個」のカメルーンと「組織」の日本の戦いといわれてきました。たしかに、カメルーン選手の体力は超人的です。日本は、個では勝てないので組織力で勝負するしかありません。サッカーに限らず、日本の宿命のようです。

 

しかし、最近の試合では韓国にすら2連敗。その程度の組織力で、ワールドカップの強豪に太刀打ちできるのか。それが、不安の根本だった。

 

昨日の試合では、これまでとの違いを見せてくれました。それは、組織力は活かしつつ、前線では個の力も活かすというハイブリッド型です。松井、本田、大久保のFW三人は、これまでのように来たパスを回すことばかりに拘泥するのではなく、個人でできるだけキープし、隙を見つけて個人突破することを徹底していました。そうして、溜めを作ることで数的優位を築き、前線での有利な展開を実現したのです。ただし、守備はチーム一丸となって組織で守りきりました。

 

中村俊輔に代表されるような、パスを中心に組織で攻めるパターンとは大きく異なりました。組織力だけでは、アジア予選では通用してもワールドカップでは通用しないのです。それが歴然となりました。

 

そこで岡田監督が選んだのが、松井であり本田だったのです。二人とも競争の激しい欧州での経験を積んでおり、他選手に比べて個の力が、そして個性が強いことが特徴です。これまでの組織力重視のチームでは、脇に追いやられていた選手です。彼ら活躍なくして、カメルーン戦勝利はなかったでしょう。直前合宿でその選択をした岡田監督の判断力も大したものです。

 

 

さて、この一連の動きは、日本企業の戦い方の縮図とも言えそうです。国内市場が中途半端に大きいため、得意の組織での戦い方でも十分勝ってこられました。しかし、国内市場が縮小する中で否応なく海外市場に打って出る必要があります。そこでは、従来の組織力だけは通用しないはずです。かといって、いきなり「個」で勝負するシステムに転換し、しかも勝てるはずもありません。

やはり、強みである組織力をベースにして、そこに強い個の力をも活かすハイブリッド型の組織体にならなければ、世界では勝てないのです。

 

個の力と組織の力の融合。これができるのは、世界広しといえども日本だけかもしれません。小さな光明を見た、初勝利でした。

一昨日、スマートHRD養成講座(第二期)がスタートしました。日本CHO協会主催の、全夜4回の講座です。あらゆる業種の企業からの主に人材開発部門の方々18名が今期のメンバーです。

 

同じような問題意識を持つ異業種からの参加者同士が、積極的に学びあう「場」の力を、あらためて感じました。

 

一応私が講師なのですが、ほとんど必要ないかのようです。最初に2つの「問い」を投げかけ、グループディスカッションしていただきました。

 

「企業が生き残っていくために人材開発は不可欠なのでしょうか?」

「御社の人材開発部門のミッションは何ですか?」

 

この問いだけで、規定の2時間半は終わってしまいそうな勢いでした。面白いのは、自社と全く異なる視点や考え方を、他社の方から学べる点です。もちろん、そのまま取り入れえることは難しいでしょうが、新たな視点をもらうことによって、今後の選択の可能性は確実に広がります。社内での議論では、ほとんど不可能でしょう。

 

ある外資系企業の方は、こう発言されました。

 

「同業他社から多くの即戦力を採用したが、ほとんどが成果を出せないで去っていった。ウチのやり方には合わないんです。結局、時間がかかっても、若手を内部で育てることにしました。」

 

全ての会社がそうであるはずもありませんが、ここには一つの事実があります。この事実を、どう捉えるべきなのか、それは現場で日々人材開発に取り組まれる方には、とても重要な問いかけです。

 

これは一例に過ぎませんが、こういう現場からの問いかけに、私も非常に勉強させていただいています。

 

あと三回が、とても楽しみです。

組織能力を開発する

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組織開発を部署名に付けた日本企業は多くはないと思います。一方、外資系企業では珍しくありません。その差は何なんでしょうか?

 

日本企業では、組織とは開発するものではなく、構成員をアサインし役割を規定すれば出来上がるものでした。したがって、開発すべきは組織ではなく人材でした。組織能力についても、あまり意識してこなかったと思います。意識しなくても、創業社長の個性や哲学が、何となく組織に浸透して、それが組織能力となっていたのです。

 

最近、私がそれを痛感したのは、日本電産です。当社は、リーマンショック直後の20091月、社員5%、幹部10%の賃金カットを発表しましたが、見事20103月期には好決算を記録し、賃金カット分に1%の金利を上乗せして全部返済しています。一般の会社では、これだけ迅速かつ徹底できないでしょう。日本電産の組織能力は、その「結果責任」の徹底にあるのではと思います。

 

組織能力は、ある程度長い時間をかけないと形成できないでしょう。それは、戦略との一貫性が必要です。これまで多くの日本企業は、大きな戦略転換を必要としてこなかったため、組織能力をあまり意識する必要がなかったと考えられます。したがって、じっくり形成することができた。

 

しかし状況は変わりつつあります。社員の多様性も高まり、またM&Aを含む戦略の大胆な転換にも迫られています。それに合わせるようにして、組織能力の開発あるいは転換も必要になっています。

 

ところで、個人の能力開発(人材開発)と組織の能力開発を峻別する必要はあまりないのではと思います。人材開発を検討する際にも、その組織に対する効果を十分吟味する必要があります。また、組織開発を検討する際にも、それが個人の能力発揮にどのような影響を及ぼすかを想定すべきでしょう。つまり、コインの裏表の関係なのです。

 

戦略を実現するために、個人や組織にどのような働きかけをすべきなのかを、長期的企業経営の観点から検討するのです。日本企業においても、このような企画と実施を人材開発部門が担うことになっていくと思います。今日、人材開発部門ほど、戦略的に重要な部門はないのだと考えるべきでしょう。

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