組織の能力: 2010年5月アーカイブ

歌舞伎囃子方で指導者でもある田中佐太郎さん(女性です)が、弟子の教育について、こんなことを話しています。

田中佐太郎.jpg 

うるさく言うのは姿勢や目線など舞台での行儀。技は回数を重ねればできるが、行儀は仕込まなければ身につかない。

 

技術は教えなくても、場数を踏んだり真似ることによって修得可能。つまり、みずから学ぶことができる。しかし、行儀はそうはいかない。適切な師匠による仕込み、すなわち手取り足取りの教育が必要だということなのでしょう。その違いは何でしょうか。

 

 

小津安二郎に、こんな言葉があります。

「品行は直るが、品性が直らない」

 

田中さんの言葉は、これに通じるものがあるように思います。

 

品行は心がけ次第で時間をかけて直すことができる。また知性も努力次第でなんとか獲得できる。しかし、品性はそうはいかない。人生のある特定の時期に、師匠とも言うべき人から集中してすり込まれなければ、一生に身に付かないものなのでしょう。(残念ながら・・・)

 

そして、品性を身に付ける上で、もっとも効果的なのが行儀なのかもしれません。(耳が痛い・・・)美しい行儀が基本にある品性は、あらゆる芸に現れます。口で説明するのは難しいのですが、品のある芸は確実にあるのです。

 

 

これは、ビジネスの世界でも同じだと思います。どんなに儲ける技術に長けていても、品性に欠けていれば長期的には成功できないのではないでしょうか。特に日本のような、長期的関係を大事にする社会ではそうでしょう。

 

では、企業でどのように行儀を仕込むことできるのか。それは家庭でしかできないことなのか。企業の人材育成の中には、行儀の要素も入っているはずです。それは、マナーというレベルではありません。企業の価値観をすり込むことが、その企業における行儀仕込みなのでしょう。では、どんな価値観を?

 

品のない組織には、品のない個人しかいないものです。芸に品性が出るように、個人だけでなく、企業の行動にも品性が現れます。それを、今一度確認してみる必要があると思います。

鳩山政権への信頼感も失墜し、政治も経済も閉塞状態に陥っています。またも諦めムードがまん延する元気のない日本です。

 

そんな時、哲学者久野収さんのこんな言葉を見つけました。

 

 

確率や法則に従うとすると、正に現在はにっちもさっちもいかない閉塞状 久野2.jpg況だ。でも、私は人間を信頼している。特異点がどこかにはるはずだ。大きな雪崩も、ほんの小さな石が崩れることから引き起こされる、そんな特異な点がある。確率や過去からの法則に従って考えればとても起きるとは考えられないことが起きるのだ。人間はそんな営みを続けてきた。だから悲観はしない。

 

 

これは、現在の言葉ではなく、86年になされた瀬戸内寂聴さんとの対談での発言です。それからもう、24年も経っています。

  

その話を聞きながら、多くの企業が変わりたいと考えているにも関わらず、変わらない現実について、思いを巡らせました。確率論でいったら、経営危機にでも陥らない限り、組織を中から変えることは困難です。そうなる前に、どうやって変えるのか。組織の中の特異点を探すことが、ひとつの突破口になるかもしれないと思ったのです。

 

かつて暴力の街だったニューヨーク市が安全な街に変わったのは、ジュリアーノ前市長が警察署長(たしか)だった時に、地下鉄の落書きを徹底的に消し続けたことからだったそうです。地下鉄の落書きが特異点だったのかもしれません。

 

それと同じように、企業組織の中の特異点を見つけ、そこを何があっても愚直に刺激し続けることが決め手になるような気がします。もしかしたら、今、名もない誰かがその営みを、一人で始めているかもしれません。そういう活動を見つけ出し、スポットライトをあててみましょう。

 

「変革は辺境から」という言葉もあります。特異点は、辺境にこっそりあるのかもしれません。久野さんは99年に亡くなりましたが、人間への信頼は引き継いでいきたいものです。

 

 

注:特異点とは、数学と物理の用語で、ある基準の下でその基準が適用できない点のこと。

昨晩、日本CHO協会主催セミナーで「日本企業における組織開発の意味とHRD部門の役割」という題で講演をさせていただきました(資料は近日中にHPにアップします)。組織開発は、ずっと以前から持ち越してきた宿題のようなテーマです。その思いが強すぎたのか、限られた時間の中でいろいろ言いたいことを詰め込み過ぎてしまい、やや消化不良になってしまったように感じ反省しきりです。これを体験学習し、また進化させていきたいと思います。

 

そのようなもやもや感を抱え、帰りの道すがら地元の焼鳥屋の暖簾をくぐりました。向こうの席では、妙齢の女性(おばさん?)二人が異性問題で盛り上がっています。カウンタ席の隣では、こざっぱりスーツを着た若いビジネスマンが二人で飲んでいました。入社2年目と4年目くらいでしょうか。聞くとはなしに聞いていると、二人は銀行員で、先輩が後輩の相談に乗っているという構図のようです。「わからなことがあったら、勝手に判断しないで相談しろよ。」「そうは思ったんですけど、いつまでも聞いてばかりいるわけにはいかないですし・・。」「そりゃあ、そうだよ。でも・・・。」という感じの会話です。かつての自分ともダブりました。

 

仕事が終わってからも飲みながら、こうして職場の話題で対話を続けているのが伝統的な日本企業の社員なのです。そこで、後輩は先輩からいろいろ学ぶことでしょう。また、先輩は話しながら自分のこれまでの経験を整理し、自らも学んでいるはずです。そんなことが、至る所で延々と繰り返されてきたのです。「自己組織化」なんて難しい言葉を使わないでも、りっぱな組織開発が自発的に行われているのです。たいしたもんです。こういう雰囲気を、絶対失ってはいけないでしょう。(かつて若手の頃は避けていた自分が言うのもなんですが・・)

 

そういう飲みが最近減ってきているという話も聞きますが、そんな懐かしい光景を目の当たりして、少し元気が出てきました。

 

 

そして帰宅すると、一枚の見慣れない方からの葉書が届いていました。それは、先月観た一人芝居を演じた女優さん(加藤忍さん)からの手書きの礼状でした。彼女は、私が好きな加藤健一事務所の養成塾出身で、加藤健一事務所の公演にも何度も主演級で出演しています。数ヶ月前の加藤健一事務所の公演のとき、劇場入り口で彼女がチラシを配っていました。ぎこちない配り方です。そのチラシは、彼女が初めて自分でプロデュースし主演する一人芝居(「花いちもんめ」)のチラシでした。その後、すっかり忘れていたのですが、偶然オフィスのすぐ近くの小劇場で、その一人芝居が公演されることを知り、観にいったのです。

加藤忍.jpg 

正直言って、想像以上の出来でした。普段アンケートはあまり書かないのですが、その日は正直な感想を書きました。それらを見て、彼女はひとりひとりに手書きでお礼状を書いているのでしょう。初めて自分の力で自分の公演をプロデュースし、成功を収めた。それは並大抵のことではなかったでしょう。苦労が大きかっただけに、喜びも大きく、そして感謝の気持ちも抑えがたく、お礼状を出さざるを得なくなったのでしょう。決して、次回公演のための営業活動とは感じませんでした。別に私だけに書いているはずもありませんが、小さな幸せをもらったような感じです。たまには雨の夜もいいものですね。

 

 

おまけ:上の写真は加藤忍さんのブログから転載しました。赤提灯にやきとり「戎」とあります。この店、実は私が時々行く店です。昨晩は別の店でしたが。なんという偶然!!

 

 

 

このアーカイブについて

このページには、2010年5月以降に書かれたブログ記事のうち組織の能力カテゴリに属しているものが含まれています。

前のアーカイブは組織の能力: 2010年4月です。

次のアーカイブは組織の能力: 2010年6月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

ウェブページ

Powered by Movable Type 4.1