組織の能力: 2012年10月アーカイブ

パスツールの言葉に、「Chance favors the prepared mind」というのがあります。あえて訳せば、「常に心を開いてスタンバイしている人にだけチャンスは訪れる」という意味でしょうか。

 

多くの企業で、「学ぶ場」づくりに関わっているとその意味が実感としてわかります。例えば、先日ある企業で、部門長クラスを対象とした変革をテーマにしたワークショップを行いました。

 

各グループに投げかけた問いは以下3点です。

1)このままでいったときの10年後の我社の姿

2)あるべき10年後の我社の姿

3)あるべき姿に到達するために、いつ、なにを、どのようにやるか

それぞれグループでまとめ、全体発表をします。それを3回繰り返すわけです。

 

メンバーは、常に自部門が成功する方法を考え続ける人たちですが、ワークショップでは全社視点と10年という長期視点を持って考えてもらいます。

 

グループワークでは、自分の常識と自部門の常識、そして自社の常識に基づいて議論がなされることが、どうしても多くなります。そこで、第三者であるため「常識」を持たないファシリテータが、素朴な疑問を投げかけたりします。

 

それに対して、こんな回答を返した方がいました。

 

「そんなことは、このグループの皆も他のグループのメンバーもわかっている。なぜ、みんながわかっていることを、素人のあなたに説明する必要があるのか。そんな時間はもったいない」

 

「その意味は、皆わかっている。あとはわかりやすい日本語に置き換えるだけだ。そんなのは、得意な人が最後にささっとやればいい」

 

「うちの業界は特殊なんだ。一般的な企業の基準でそんなことを言われても意味ない」

 

彼らは、何となく阿吽で伝わる世界で生きており、そこから抜け出て考えるという発想がありません。そんな心構えで、どれだけ議論したところで、日々の業務の中での発想を超えるアイデアは出てきませんし、何の気づきもえられないでしょう。自分はわかっていない、ということがわからない。

 

これは大変もったいないことです。チャンスがそこここに転がっていても、それには全く気づくことができません。チャンスをつかむどころか、蹴り飛ばしてしまうでしょう。

 

そんな簡単なことに気付かないのは、なぜなんでしょうか。長年の思考の習慣の結果なのでしょうが、それだけではなさそうです。これまで築いてきた高いプライドゆえ、「わかっていない」ということを認めたくない。いえ、「わかっていないかもしれない」ということに、何となく気づいているから余計それを認めたくないのかもしれません。だとしたら、それは本人にとってもすごくつらいことでしょう。

 

幸いなことに、そういう考えの人ばかりではありませんでした。ファシリテータの発言に耳をそば立てて、少しでもヒントをつかもうと、どん欲な方もいます。ただ、得てしてチャンスをつかもうとしない人は、年長で声が大きかったりします。すると、つかもうとする人は遠慮して、発言を控えたり、あるいは年長者に合わせたりします。その企業の組織の縮図をみるようでした。

 

現在多くの日本企業の上層部は、バブル時代に最前線で活躍し成果を出してきた人が占めています。そういう成功体験が大きい人ほど、「自分がわかっていないことをわかっていない」ため、the prepared mindを持っていない傾向があるようです。経営環境は大きく変わりつつあるにもかかわらず。

 

こういった「昭和の日本の会社」をどう変革するか。こういった企業の社長はほんとうに大変だと思います。

 

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