OJTの連鎖

先日の日経夕刊「さらりーまん生態学(いきざまがく)」に、作家の江波戸哲夫さんがこんなことを書いていました。要約すると、

 

人事部門に異動し社員教育を担当している友人に会った。新入社員教育について聞くと、OJTが重要との答え。まったくそうだと思いながらさらに聞く。OJTを担当する中間管理職には、指導する力量はあるのかと。すると、それがないので今中間管理職の教育をしているという。しかも、OJTではなく教室で・・。

 

ずっこけた江波戸氏は考える。誰が管理職にOJTの方法をOJTで教えるのか?中間管理職の主たる職責=リーダーシップは、人それぞれであるべきだ。いかに辣腕の上司でもそのままOJTの見本とはならない。そこで、友人が言う。「一番の正道は、企業がきちんと目指すべき方向を向いていることだ。そうなれば中間管理職も、それぞれにふさわしいリーダーシップの取り方が分かってくる。うちはそれが混乱しているので、中間管理職の研修なんてやっているんだ」そう言って苦笑いを浮かべた。

 

さすが作家、 多くの会社でありがちな話を、的確に切り取って示してくれています。中間管理職に問題があるとの話を、私も多くの企業で聞きます。そこには、様々な構造的な問題もあるでしょう。彼らは日本型雇用形態を肌で知る最後の世代です。バブル時代含め、成功体験も少なからず持っています。つまり、最後の日本的経営世代、年金含め逃げ切りぎりぎり可能世代といえるかもしれません。しかし、それ以降の世代は閉塞が当たり前になっている世代です。現在や未来の環境をビビッドに感じるのは、20代、30代社員のはずであり、そこでの世代間ギャップは想像以上に大きいと思います。

 

そういう中間管理職の意識を変えさせるのは、さらにその上の世代の責任でしょう。しかし、基本的な価値観に大きな相違がない中で、そのようなOJT(明示的でないとしても)などできるでしょうか。江波戸氏がいうように、自分で考えるしかないのです。また、考える能力を持っているから管理職になっているはずです。ただ、考えるための方向性を示す必要はあるでしょう。それが、「企業がきちんと目指すべき方向を向いていること」なのです。それをするのが、上の世代、つまりトップ・マネジメント層の責任です。

 

「さらりーまん」は基本的には、上を見て自分の動き方を決めていく性質を持っています。下の層の教育も大事ですが、たとえそれをうまくできても上が否定した言動を取っていれば全く無意味になります。やはり、本質論に目をそむけず、企業としての価値や戦略を明確に打ち出し、それを体現した行動をトップ・マネジメント自ら取っていくことが、もっとも早道なのではないでしょうか。そういう勇気のある企業しか、生き残れないような気がします。

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このページは、福澤が2010年12月22日 12:14に書いたブログ記事です。

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