組織変革と物語

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組織変革という言葉は、既に手垢がついてしまっています。手垢がつくということは、人によってその言葉の解釈がばらばらになっている状況です。にも関わらず、キーワードとしては頻繁に使用されるため、それぞれの解釈の違いを確認することなく、何となくわかった気になって使用され、コミュニケーション齟齬をきたすことが、まま起きることになる。

 

組織変革という言葉は、組織構造を変える、組織構造を変えないで担当者や役割を変える、社員の意識を変える(意識って何?)、企業文化を変える(文化って何?)、評価方法を変える、就業に関するルールを変える、などなど、様々で使われています。もちろん正解はありません。

 

私の定義は、「組織が持続的に成果を出し続けることができるような状態になっている」ことです。持続的に成果を出すためには、環境変化にも適応できなければなりません。Aという状態をBに変えるというイベントではありません。変革をイベントと解釈することがありますが、そうではなく、常に変化し続ける状態が組織変革の理想です。

 

優雅に川に浮かぶ白鳥が、実は水面下ではすごい勢いで足を漕いでいるイメージでしょうか。一見すると安定しているが、実は常に細かく変化している。

 

こうした組織変革を可能にする能力を組織のケイパビリティとするならば、それはSkillWillに分解できます。Skillとは、どうすれば実現できるかの知識を持ち、かつそれを実行できること。Willは、一般には意欲とか動機づけとか言われますが、向かうべき方向性や従うべき規範に沿って動いてしまう心の状態だと解釈しています。つまり、戦略がこうだからこっちに向けて行動しようと意識することではなく、無意識にそう行動してしまう。インストールされている。

 

自動車に例えれば、アクセルやブレーキ、やハンドルがWillで、エンジンがSkill。スムーズに運転しているときは、足の操作やハンドルは意識することなく勝手に反応するでしょう。


SkillWillが揃って組織のケイパビリティ―といえるのです。そして、組織が置かれた環境によって、SkillWillを操作する必要があります。

 

Skillを向上させるために、上司が指導したり研修したりします。では、Willはどうやって獲得・向上させるのでしょうか?

 

その前に、Willとは何かをもう少し考えてみる必要がありそうです。組織のWillを形づくるものは何か。

 

私は、それは物語だと思います。個人的な例で恐縮ですが、私は約30年前に新卒で銀行に入行しました。就職活動中、当初私は銀行にお堅いネガティブなイメージを持っていました。しかし、リクルーターや人事部の方々と会ううちに、それは少しずつ変わっていきました。時代はまさに金融自由化元年といわれた頃。銀行は自由化、グローバル化に対応するためにこれまでとは異なる人材を必要としている、そんな言説に共感していきました。自分の中でそういう物語をつくりあげたのでしょう。

 

しかし、入行してみるとその物語は木端微塵に吹き飛びました。銀行という組織は、これまで通りの物語に従って動いていた(当たり前か!)。人事部は本当に新しい物語を信じていたのかもしれません。しかし、それは人事部や経営幹部の一部にしか共有されていない、希望的物語だったのです。そのギャップのため、二年で私を含め二割近くの同期が退職しました。(原発神話も、日本国民全体を巻き込んだ壮大な物語でした・・。)

 

物語に類した言葉に、「思い込み」や「前提」などありますが、それらはいわば点です。物語は面であり、広がってあらゆる思考や行動に影響を及ぼします。また、物語は組織を構成する人びと全体に共有され、自分だけ別の物語を生きるということは、ほぼ不可能です(私が辞めたように)。こうして組織文化ができあがります。

 

企業の環境が大きく変わる場面では、物語を編み直すことが必要になることがあります。(それをイベントとしての組織変革ということもできます)

 

まず、その組織が持つ物語をひも解いて、それを言語化し意識化することから始める必要があります。組織の内部の人間だけでは、その作業は難しいでしょう。全ての壁と天井が赤に塗られた部屋でしか暮らしたことがない人は、その部屋が赤いなんて知りようがないのですから。

 

現在の日本のあらゆる組織で、こういった作業が必要なのではないでしょうか。私は、それを組織を耕す作業としてイメージしています。

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このページは、ブログ管理者が2019年2月 8日 11:28に書いたブログ記事です。

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