2018年2月アーカイブ

本当の教育

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たまたま、東北大学 川島隆太 加齢医学研究所所長による、こんな文章を見つけました。http://www2.he.tohoku.ac.jp/center/syokou/pdf/syoko41.pdf

どれも、心に刺さります。

 

 

●戦後の教育システムは、物言わぬ羊をつくることを目的とした

十数年前、名は伏すが、偶然、一人の旧帝国大学名誉教授と懇談する機会を得た。その方は、戦後、GHQと共に日本の新しい教育システムを構築することに携わってきたと言っていた。そして、「私たちが目指した我が国の教育の目標は、90%の国民が物言わぬ羊となることである。それが治安の観点からは安定性に優れ、経済の観点からは最も効率の良い社会を作ることに繋がる。見たまえ、私たちの壮大な社会実験は見事に成功を収めた。」と、我が耳を疑う言葉を吐いた。これらが妄言か戯言か、今では確かめるすべはない。

 

●グローバル化とは、自分の居場所を全ての場所につくることができること

グローバル化とは、外国語という道具を持つことではなく、己が何者であるかを熟知し、それを他者に表現する言葉を持つことである。正確に己を知ることによってのみ、外国人を含む全ての他者を理解することが可能となり、己の姿を表現し他者に伝えることによってのみ、自分の居場所を全ての場所に作ることができる。

 

己の姿を表す主体的な座標は誰もが知覚している。しかし、それだけでは己を正確に知ることになはならない。異なった座標を持つ他者の集合体である社会が形成する統合的な座標の中で、己の相対的な位置を知覚することが、己の真の姿を知ることに他ならない。均質な集団によって形成される小さな閉ざされた社会しか知らなければ、その小さな空間の中にしか己を表現できない。

 

 

●おっちょこちょいの、新しものずき

新しい技術が開発されると、その効果も見極めぬまま、我先に導入したがる性癖が特に強い日本人は、インタネットを駆使した教育システムの導入を、初等教育から高等教育の現場まで推し進めようとしている。しかし、我々の脳機能計測実験は、インタネット空間での知的活動と、実空間での同等の知的活動では、結果観察されるヒトの脳活動は等価ではないことを示している。コミュニケーション活動に関しても同様である。一昨年報道された韓国での特区を利用した初等・中等教育のIT化の失敗は、我々の脳計測実験結果からは当然のことに思える。

インタネット空間を利用した教育では、運よく知識を得られたとしても、教員の魂を食らい、己の魂を成長させることはできない。

日経ビジネスに連載されているときから熟読していた野地秩嘉著「トヨタ物語」の単行本を、読みました。力作です。著書はトヨタ公認のもと7年間に渡って取材を続けたそうです。OBや作業者の声がたくさん盛り込まれており、非常にリアリティがあります。

 

トヨタ生産方式の本質、どのように出来上がったのか、なぜ可能だったのか、がよく理解できます。


ケンタッキー工場(トヨタ初の海外単独工場)立上げ当初、ラインを15時間止めた米国人現場リーダーは、翌朝張工場長のところに出向くよう指示されます。クビになると思い一睡もできなかった。翌朝張さんのオフィスへ。(ここから引用)

 

「ラインが止まったこと、私がした処置について、いろいろ聞かれました。

話が終わり、いよいよ解雇を宣告されるのだなと思った瞬間、彼は私の手を強く握って、そうして、頭を下げるのです。

『ポールさん、うちの工場はできたばかりで大変な時期です。15時間、つらかったでしょうね。おかげさまで復旧しました。ありがとう。これからもあなたたちにはずっと助けてもらわなくてはなりません』

私は思わず泣いてしまいました。」(中略)

「トヨタ生産方式とは考える人間を作るシステムです。」と付け足した。

「考えることを楽しいと思う作業者には向いている。現場でカイゼンできることはアメリカの作業者にはなかった経験だからだ。ただし、時間を切り売りするだけの作業者には適応できないだろう。これまでの生産方式は、人間に考えなくてもいい、手や身体を動かしておけばいいというシステムでした。しかし、オーノさんは考えて仕事をしろと言ったわけです。それがこのシステムの特徴です」

 

プロローグに書かれた、このアメリカ人作業者(1988年のケンタッキー工場操業開始時から働き続けている定年間近の60歳)の発言に、本質が語られていると思います。

 

トヨタは、戦後アメリカのビッグ3が日本市場に本格参入したら潰れると本気で危機感を抱いていました。だから、ビッグ3に対して極小のトヨタが生き残るために、必死で様々な工夫をしてきました。そのひとつが、このトヨタ生産方式。物量でも資金力でも規模でも圧倒的に劣るトヨタが生き残るには、人の知恵を最大限引き出すしかないと考えたのです。

 

そうして一定の成功を収めたトヨタですが、そのやり方を果たして本場であるアメリカや他の国々に移植できるか、大きな賭けだったことでしょう。経営学の理論でいえば、現地のやり方に適応するほうが賢明だったかもしれません。しかし。トヨタ生産方式の本質にある人間観は、世界共通だと考えたのでしょう。あえて適応しない道を選びました。NUMMI最初のトップだった池渕氏はこう語っています。

「人間は自由度を与えると、仕事をしたくなるんですよ。トヨタ生産方式は強制ではなく、自由を与えるものです。だから生産性が向上したんですよ。」

 

トヨタ生産方式は革命だと言われますが、本当にそうだと思います。トヨタ以外に、世界に通用するモデルを築いた日本企業はあるでしょうか。他にはセブンイレブンくらいしか思い浮かびません。オリジナルなやり方で国内で成功を収めても、海外では現地に適応してしまうケースが多いのではないでしょうか。経営陣のリーダーシップの問題なのかもしれません。トヨタやセブンに続く日本発の真の改革者が登場することを期待します。


トヨタ物語
野地秩嘉
B0797PKLQF

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