「問い」を発する能力

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企業研修の講師にとって、最も重要な能力は何だと思いますか?

私は「問い」を発する能力だと思っています。

 

一昔前であれば、講師は先生であり、受講者が知るべき知識を与える者という位置づけだったかもしれません。でも、今はそういう知識はいくらでも一人で学ぶことができます。eLでも本でも動画でも。一人では獲得が難しいからこそ、わざわざ忙しい中皆が集まって行うのが、集合研修なのです。

 

では、一人では難しいこととは何でしょうか?それは「思考」すなわち「考えること」と「自分を客観視」することだと思います。

 

一人でも考えているという方もいるでしょうが、哲学者でもなければ、深い思考を一人で巡らせるのはなかなか困難です。人は基本的には怠惰な動物なので、一人だとどこかで安易に妥協してしまうからです。私もよくあります。考えて続けるものの、「まあ、いっか」で終わり。

 

相手(他者)がいると、そうもいきません。相手から発せられた問いに対しては、考えて答えなければならない。だから、深く考えるきっかけになる。

 

この問いを発するのが講師であり、講師は問いによって受講者の思考を適切に起動させるのです。だから、最も重要な能力なのです。

 

ただ、この「適切に」が難しい。何でもかんでも、「なぜ?」、「So what?」を繰り返せばいいのではありません。

 

問いによって、講師が意図する方向に、受講者の思考を起動させる必要があるのであり、そこにはストーリーが必要です。あるストーリーを想定した上で、その流れに導くような問いが良い問いです。但し、誘導ではだめです。受講者が自らの意思で、その流れに沿って思考を進めていると感じさせなければなりません。水飲み場に連れてこられたのではなく、点々と落ちている餌を少しずつ食べながら歩んでいたら、そこに水飲み場があった。だから飲もう。というイメージです。「水を飲む」とは「気づき」を得ることの比喩です。

 

こういう問いを、臨機応変に発するのは非常に難しい。しかし、問いにはいくつかのパターンがあることに最近気づきました。ある研修を後ろでオズザーブしているときに、書き出したのが以下です。

 

・具体的な事例を挙げさせる

・理由を考えさせる

・ある事象が起きたときに、それに付随して起こる「結果」を推測させる

・(上と近いですが)ある現象が起きるメカニズムを類推させ、それに適用してアウトプットを求めさせる

・自分なりの評価を、理由とともに説明させる

・多くの現象を抽象化することで、共通項を見つける

 

ある知識を前提として、それを活用して上記のような問いを発することで、受講者の思考を起動させる。そして、その結果自らの力でなんらかの気づきを得る。

 

こういったプロセスがとても大切なのです。講師とは、その口火を切る役目です。あまり良くないのは、講師と受講者が一対一の関係で、Q&Aを繰りかえすような状況です。他の受講者を巻き込むことが必要です。

 

講師が発した問いに受講者Aが思考し答える。その答えに対し、受講者が新たな問いを発する。それに対して、受講者Cが答える。受講者はそれぞれの見方を持っているので、それらを交差させる。こうした連鎖こそが、集団で集まって研修を実施することの価値なのだと思います。理想は最初の問いすら、受講者が発することです。

 

こうなると、講師の役割はどんどん薄れていき、勝手にクラスが回っていく。この場をうまくマネージするだけで、何も教えたりはしない。ときおり、問いを発するだけ。クラスから講師の存在が消えることが理想です。そうなったとしても、受講者は講師に満足し、感謝することでしょう。「今日はとても勉強になったし、何より楽しかった。ありがとうございます」、と。

 

以上、企業研修における講師の能力として述べましたが、これは一般企業のマネジャーにとっても同様に重要な能力です。人を育てる、あるいは人に動いてもらうとは、適切な問いを発することなのですから。

 

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このページは、ブログ管理者が2018年11月28日 15:43に書いたブログ記事です。

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