他者から学ぶ

| | コメント(0) | トラックバック(0)

学びとは、入力情報に対応し自分が変化することと、いうことができると思います。そして、学びの入力情報には二種類があります。知識やノウハウといったコンテンツ情報と、体験や物語といったコンテクスト情報です。また、入ってくる情報の発信元は、つきつめれば自分自身か他者の2つです。

 

自分自身から発せられた知識とは、「記憶」された知識であり、それは認知のもとになりますが、学びとはいえませんので除外します。こうして三つの学びは浮かび上がってきます。

 ・知識(ノウハウ)x 他者

いわゆる「教育」ですね。先生から正解を教わること。読書やEラーニングでもそれは可能です。しかし、正解のない世界ではなかなか通用しませんね。そこで、近年着目されているのが、

 ・経験X自分

そう、「経験学習」です。自分の経験を内省し、マイセオリーを抽出(概念化)し、それを実験し行動するというサイクルをまわしていくことです。体験というコンテクストから、自ら知識をつくりあげることともいえます。実際に仕事を覚えるということは、このプロセスを経ます。上司が教えればわかるというものでもない。自分で苦労して掴み取る。重要ですね。しかし、自分の経験からだけで十分でしょうか?

 ・経験X他者

他者の経験から学ぶ必要がでてきます。自分の経験であれば体感しているのでわかりやすいのですが、身体が異なる他者の経験を自分なりに解釈して概念化することは、容易ではありません。しかし、学びの材料が最も豊富なのは他者の経験であることは間違いない。学習能力の高い人とは、学校の勉強ができる人ではなく、他者の経験から学ぶ能力の高い人だと言えそうです。

 

他者の経験から学ぶには、他者と身体性を伴うインタラクションがあると有利でしょう。情報量が圧倒的に増えるからです。物理的な「場」の共有が不可欠です。また、他者の経験のバリエーションとして、他者の学びから学ぶこともあると思います。同じもの、同じ現象に触れたとしても、それをどう感じ、解釈し、そこから何を学ぶかは人それぞれです。しかし、なかなか他者がそこから何を学んだかを知る機会は少ない。対話して初めてシェアできます。シェアすれば、なるほどそういう観方もあるのだなと気づき、そういう考え方を取り入れることも可能になります。しかし、これも「場」が不可欠です。

もうひとつ。例えば同じ職場の仲間うちでも「他者から学ぶ」ことはできますが、いかんせん同じ世界で同じものばかりに触れているため、魅力的な他者性がどうしても低い。また、先入観や前提、常識が学びを妨げます。それで、出来るだけ自分と遠い世界の他者と触れることが必要になります。しかし、そういう機会はなかなか自分だけで作ることは難しい。

 

昨晩、六本木アカデミーヒルズで「"能"から学びとるビジネス感度」と銘打った講座を実施しました。「能を学ぶ」ではなく「能から学ぶ」です。もう少し丁寧に書けば、「能という世界最古の舞台芸術と、それを担う能楽師の経験から、ビジネスパーソンとしての学びを見つけ出す」講座です。かなりチャレンジなテーマにも関わらず26名の方に参加いただきました。

 

2時間半の前半で、生身の能楽師(観世流シテ方宮内美樹さん)の話を聞き質疑応答し、後半でグループに分かれて以下の「問い」について討議し、発表してもらいました。

 

1:現存する世界最古の舞台芸術といわれる能は、なぜ約650年もの間、日本人に支持され続けてきたのでしょうか?

グローバル化が進む現代において、今後さらに活性化するには何が必要でしょうか?また、そこから企業や組織は何が学べると思いますか?

2

能を鑑賞したり稽古することで、どのような能力がつく、あるいは呼び覚まされると思いますか?それはビジネスの世界でどのような意味を持つでしょうか?

 

なぜ宮内さんにご登場願ったかといえば、能楽界の内部にいながら、客観的に能を捉えることができる稀有な方だからです。

 ・8年間の社会人経験(キャリア官僚)の後、8年間の内弟子修行を経て独立

 ・男性社会における女性

 ・外国人に対しても指導(英語・フランス語)

 

グループ討議がどこまで深まるかが最も心配でしたが、ふたを開けてみると我々が予想していたより、はるかに深い議論をされ、またそれを全体でシェアすることで、さらに深い学びができたのではと思います。今回の受講者のレベルが皆さん高かったためです。能楽師という遠くの他者を提示し、対話の場をつくったことで、「他者の経験」から深い学びができることの手応えを掴むことができました。

 

さらに嬉しかったのは、能楽師の宮内さんもすごく学びになったとおっしゃったことです。こうした試みを続けていきたいと思います。

トラックバック(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: 他者から学ぶ

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.adat-inc.com/cgi-bin/mt-tb.cgi/745

コメントする

このブログ記事について

このページは、ブログ管理者が2018年6月 8日 16:39に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「他者との対話を通じで学ぶ:カンヌ映画祭から」です。

次のブログ記事は「思い込みを揺さぶる:「万引き家族」を観て」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

月別 アーカイブ

ウェブページ

Powered by Movable Type 4.1