柳家小三治の「人生の贈り物」が面白い

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一流の人が人生を振り返ってかくものは、本当に面白い。(その反対がサラリーマン社長や世襲政治家の「私の履歴書」)小三治師匠の落語は味わいがあって大好きだが、この連載も含蓄があります。(朝日新聞朝刊連載)

 

昨日は小さん師匠に弟子入りしたばかりの頃の話。小さんのうちでは、最初に「道灌」を学ぶ。面白くない話らしい。まず師匠がやる。するとすごく面白い。でも自分がやると、全然面白くない。そのギャップをどう埋めるかが、最初のテーマ。なるほど、自らの位置を知り、ゴールも知る。そして、必死で考える。もちろん師匠は教えてくれない。素晴らしい新人導入です。

 

前座から二つ目に上がり、初めて師匠に聞いてもらったのが「長短」。自信はあったが、黙って腕組みをして俯いて聞いていた師匠が、終わったあとの第一声が、「お前の話は面白くねえな」。すっと、立ち上がり床屋へ行ってしまった。一刀両断。全身に電極を当てられビリビリってやられた感じだったそうです。その時を振り返って、小三治は言います。

 

「あとになれば小さん師匠の気持ちはよくわかります。ほんとに面白くなかったんでしょう。でも全否定されて、考え込みましたよね。面白いっていうのは、どういうことなんだろう。笑うことか?でも人情話もあるんだから、人の心を感動させることか?日常の何でもないことを何でもないこととして表現することでも、人は面白いって思ったりするんだろうか?、とか。あの一言がすべての始まりです・・・・、と今思い至ると涙が出てきますねえ。よくあの時小さんは私をそう言い表してくれた。こう言えばこいつは一人前になるぞ、なんて思ってもいないんですよ。そんな腹案、何にもない。だからこそ、重たいんですよね。」

 

どうですか?素晴らしい人材育成ですね。師匠も弟子も本気で向き合っている。

師匠にしてみれば、どの弟子に対して同じように接しているのでしょう。なだめすかして育てるなんて考えてもいない。そんなことで育てても、どうせダメな奴はダメだと割り切っている。だから本心しか言わない。弟子もそれをよくわかっている。だから、自分自身で考え抜くしかない。こういう厳しい環境の中で育ってきた噺家だけが、本当の噺家だとの合意が双方にある。部下の顔色をうかがいながら、「部下育成」しているいまどきの上司とはまったく違います。(師匠としても弟子への愛情があった上で切って捨てるのであり、師匠もつらかっただろう。後年小三治もその立場になってそれに気付いたのだと思う)

 

しかし、小三治の兄弟弟子だった談志は、いろいろあって小さんのいえを飛びだし、立川流を起こします。そこでの、弟子への対応は小さんとは全く異なるものでした。(そのあたりは、談春著「赤めだか」に詳しい)その立川流からは、談春はじめ素晴らしい弟子がたくさん育っています。やはり、時代というべきでしょうか。

赤めだか
立川 談春
4594056156

 

今日の回、「グサリと来た笑子の一言」も素晴らしい落語のような話ですが、また今度。

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このページは、ブログ管理者が2017年11月 8日 11:00に書いたブログ記事です。

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