社会: 2009年10月アーカイブ

「物の価値を生かすのが経済で、人と物の価値を最大限生かすのが政治」といったのは、田中清玄でした。

 

八ツ場ダムの建設中止問題。詳細は知る由もありませんが、経済と政治の対比を見るのに、これほど適した出来事はないと思います。

 

ご存じのとおり60年以上前に計画されたダムは、激しい建設反対闘ダム.jpg争で知られていました。その結果、工事には延期を繰り返しましたが、今世紀に入りやっと補償問題で妥協が成立し、反対住民も移転を待つばかりとなったつい先月、民主党が政権を奪取し、前原大臣が八ツ場ダム工事中止を真っ先に発表したわけです。

 

60年前に計画したダムが、現在必要かどうか非常にうたがわしいと私も思います。ここは、サンクコスト、機会費用も考慮した経済合理性を基準に、徹底的に調査すべきでしょう。また、激しい建設反対運動で知られたここの住民ですから、いくら合意したとはいえ、本音では建設中止を望むはずだと考えるのも、合理的判断だったかもしれません。

 

ところが、現実はなかなかむずかしい。住民が、いきなり建設中止を決めた政府に噛みついたのです。これには、前原大臣らも驚いたのではないでしょうか。自分たちは、解放軍のつもりで進駐したら、帰れとなじられたようなものです。

 

住民は、心の底では建設中止を喜んだのかもしれません。でも、それを認めると、過去半世紀にも及ぶ住民間の対立の愚かさ、そして泣く泣く建設支持に回った自分の判断の過ち、それらすべて認めることになってしまうのです。長年の対立闘争で疲弊した住民にとって、それに耐えることはもはや無理なのかもしれません。

 

単純に、故郷の土地を守ることができるからと、経済(合理性)で割り切れるものではないのです。物だけではなく人も生かす、すなわち人の心にはたらきかけて、人を動かし、人が物を活かすことこそが政治なのです。だから納得感を得るためのプロセスが大事なのです。

 

どうやら民主党は前のめりになり過ぎているのかもしれません。経済と政治、両面を踏まえて国のマネジメントをお願いしたいものです。企業でも、同じですね。

先日、NHKニュースで面白い実験映像を見ました。隣接した二つの檻に一匹ずつチンパンジーを入れます。檻の間、肩の高さの位置に、手が入れられる程度の大きさの隙間が空いています。また、片方の檻だけ、外側の面の下のほうには、やはり手だけ出せる程度の隙間があいています。こちらチンパンジ利他.jpgーを太郎としましょう。もう片方は花子です。

 

太郎の檻の外側に果物ジュースのカップが置かれました。杖でもあれば、隙間から杖を使って檻の中に入れて飲むことができます。そこに、花子の檻の中に杖が投げいれられます。ただ、花子にとって杖は何の意味も持ちません。

 

それを見た太郎は、おもむろに間に隙間から手を花子のほうに差し入れます。「杖をくれ」と言っているのでしょう。すると、花子はどうするでしょうか?杖を渡したとことで、花子には何のメリットもありません。この実験を、チンパンジーを代えて繰り返したのです。

 

結果は、ほぼ6割のケースでは、花子は杖を太郎に渡しました。両者が親子の場合は、ほぼ9割が渡したそうです。これは驚くべき結果です。チンパンジーは、自分の得にならなくても(ご褒美なし)、他者のための行動をするということです。つまり利他行動です。人間固有の特性だと考えられていた利他行動を、チンパンジーも取ることがわかったのです。

 

ひるがえって人間は、人間たらしめると考えられていた利他行動から少しずつ離れ、利己的行動に重心が移っているのかもしれません。

 

そもそも経済学では、人間は利己的な行動をとると仮定しています。ほおっておくと自分勝手な行動を取るので、それを抑えるのが国家・政府の役割だという位置づけです。

 

もう一つの概念に、公共性があります。本来公共心が強かった日本人は、国家という共同体を絶対視し、戦争に突入しました。そして、今度はその反動で、戦後はコミュニティーとか公共とか自己犠牲、利他行動などにアレルギーを持ったとも考えられます。(利益追求機関である企業に唯一共同体を求めてきたのが皮肉ですが)

 

そこに、冷戦終結後のアメリカ絶対主義が、政治と経済の両面で日本に押し寄せました。そして、ぬるま湯を許さなくなったバブル崩壊。このトリプルパンチが、近年の日本の社会を形づくっているといえるかもしれません。

 

しかし、昨年のリーマンショック以来、流れが変わりつつあるようです。これから、どっちの方向へ向かっていくのでしょうか。チンパンジーの行動に驚き、あらためて自分と自分が属する社会のことを考えてしまいました。

 

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