「物の価値を生かすのが経済で、人と物の価値を最大限生かすのが政治」といったのは、田中清玄でした。
八ツ場ダムの建設中止問題。詳細は知る由もありませんが、経済と政治の対比を見るのに、これほど適した出来事はないと思います。
ご存じのとおり60年以上前に計画されたダムは、激しい建設反対闘争で知られていました。その結果、工事には延期を繰り返しましたが、今世紀に入りやっと補償問題で妥協が成立し、反対住民も移転を待つばかりとなったつい先月、民主党が政権を奪取し、前原大臣が八ツ場ダム工事中止を真っ先に発表したわけです。
60年前に計画したダムが、現在必要かどうか非常にうたがわしいと私も思います。ここは、サンクコスト、機会費用も考慮した経済合理性を基準に、徹底的に調査すべきでしょう。また、激しい建設反対運動で知られたここの住民ですから、いくら合意したとはいえ、本音では建設中止を望むはずだと考えるのも、合理的判断だったかもしれません。
ところが、現実はなかなかむずかしい。住民が、いきなり建設中止を決めた政府に噛みついたのです。これには、前原大臣らも驚いたのではないでしょうか。自分たちは、解放軍のつもりで進駐したら、帰れとなじられたようなものです。
住民は、心の底では建設中止を喜んだのかもしれません。でも、それを認めると、過去半世紀にも及ぶ住民間の対立の愚かさ、そして泣く泣く建設支持に回った自分の判断の過ち、それらすべて認めることになってしまうのです。長年の対立闘争で疲弊した住民にとって、それに耐えることはもはや無理なのかもしれません。
単純に、故郷の土地を守ることができるからと、経済(合理性)で割り切れるものではないのです。物だけではなく人も生かす、すなわち人の心にはたらきかけて、人を動かし、人が物を活かすことこそが政治なのです。だから納得感を得るためのプロセスが大事なのです。
どうやら民主党は前のめりになり過ぎているのかもしれません。経済と政治、両面を踏まえて国のマネジメントをお願いしたいものです。企業でも、同じですね。
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