社会: 2009年4月アーカイブ

1989年、私は大学院の交換留学生として、ストックホルムにいました。当時、街には老人がいっぱいでした。でも、皆さん穏やかで、品があって何だかかっこいいなあと感じたものです。また、交通機関をはじめ公共施設は、老人や小さな子供、身体障害者といった弱者のことを考えて設計されていました。

 

そして、あれから20年。今思えば、89年当時のストックホルムと同じくらい、東京では高齢者が溢れています。以前よりは、地下鉄のエスカレーターなど、弱者対応もできてはいますが、89年のストックホルムにはまだ劣っていると思います。

 

さて、現在の東京で、かっこいいと思える老人がどれほど砧.jpgおられるでしょうか。私は見つけました。能の演者や囃子方には、80歳を超える方も大勢活躍されています。彼らの姿や立居振舞は、とてもかっこいいのです。ただ、特殊な生活をしているからという気もしていました。

 

でも、それは違いました。昨日、矢来能楽堂で皐楽会大会という、観世流のお弟子さんの発表会がありました。お弟子さんといっても、先代からの方も多く、高齢のお弟子さんもたくさん出演されました。もちろん、すごく上手な方もいれば、そうでない方もおられますが、皆さんそれなりにかっこいいのです。和服で決めているということもあるでしょう。能の発声(謡)や動き(仕舞)や衣装は、日本人を最も引き立てるものなのかもしれません。少なくとも、普段街で見かける高齢者とは別人のようでした。

 

考えてみれば、日本人が洋服を着て、洋式の生活をするようになってまだ50年くらいしか経っていないのではないでしょうか。私なんぞも、中学生まで和式便所を使っていました。

 

日本の高齢者が、かつてのストックホルムの高齢者に比べて、あまりかっこよく見えないのは、インフラに限らず、そもそも慣れない「社会」で老人になってしまったからではないでしょうか。

 

元来、東洋では、経験と知恵を持つ老人は尊敬の対象でした。ところが、戦後、経済成長を基本とした「社会」が形づくられ、そこでは、成長の妨げとなる弱者は、邪魔者となったのです。少しずつ、認識は変わりつつあるとは思いますが、まだその傾向は歴然と存在します。

 

リーマンショック後、世界は大きく変わるはずです。成長一辺倒でない、成熟した社会を目指すことになるでしょう。

 

欧米に範を求めなくても、自分の足元に古くて新しいパラダイムが埋もれている気がします。昨日見た、かっこいい老人たちの姿がそう語っているようでした。

 

今朝、電車の中でばったり、久しぶりの友人と一緒になりました。彼女は、某有名国立大学でキャリア指導(就職指導?)の責任者をしており、いろいろ苦労しているそうです。

 

「今は生損保に、誰も行きたがらない。人気がないのはわかるけど、こういう時期に入ってこそ、とは誰も考えないのよね。」

(まあー、学生はそんなもんでしょう。大人以上に目先しか見えないのだから)

 

「総合商社から内定をもらった子が、どうすれば危険が多い国に駐在しないようにできるでしょうか? とまじめに相談に来るの。絶句したわ。そもそも商社を希望するのも変だけど、取るほうも変よね」

(確かに絶句・・・。面接での演技は一流なんだろうな)

 

OGの大手新聞社社会部長に、就職活動中(決して就活とはいいません!)の学生に講演に来てもらったんだけど、学生に新聞を読んでいるか問うたところ、半分以上が読んでないほうに挙手した。OGは、本気で怒っていたわ」

(ふーん、そこまで読まないんだ。大人も読まなくなっているけど・・。)

 

「講演のレポートを書かせると、講演者の名前や肩書きや会社名を間違えて書く学生がとても多い。読売新聞を毎日新聞と書いてくる子もいるの。なんで、私がそんなことを指導しなくちゃいけないの!!」

(ここの大学の学生ですら。いわんや他大学の学生をや)

 

「最近の学生は、新聞は読まない。TVもあまり見ない。車に興味はない。海外旅行にも行かない。でも、なぜか海外でのボランティアとか、NPOとかにすごく興味があるのよね。それで、平気で学校休学して、ふらーっと、援助しに海外にいっちゃうの。いいことだとは思うけど・・・、よくわからない」

(確かに、よくわからない。でも、そういう形で、外に目が向いているのは、明るい兆候かも)

 

彼女は、ひとしきりしゃべった後、「新年度最初の会議に遅れそうー」と、慌てて電車を駆け下りていきました。

 

世の中、どこも大変です。

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