社会: 2010年10月アーカイブ

世の中の状況をざっくり把握するのに有効なのは、タクシーの運転手さんに景気を尋ねることと、定期的に書店で本の売れ行きや売り場の様子を見ることだと思い実行しています。特に、どうしてもビジネス書に関心が向いてきます。

 

今朝の朝日新聞にビジネス書に関するオピニオン特集(一ページ)があり、とても興味深かったです。ヒットを連発している(昨年は計60万部!)小宮一慶さんは、自著を演歌のようなものと位置づけていました。つまり、迷った中小企業経営者が、時々しみじみ聴いて「やっぱりなあ~」と確認するようなもので、中身はどれも同じで構わない。同じ演歌を数十年聴き続けても、また聴きたくなるようなもの。なるほど、と思いました。新しい知識や考え方を伝えるのではなく、常に原点(演歌なら「情」、ビジネス書なら「顧客志向」や「社会への価値貢献」など)を思い出させるツールなのです。

 

また、ある女性ブロガーは、若いビジネスパーソンはビジネス書に「上司」を求めていると指摘しています。確かに、最近「○○○してはいけません」といった指示口調のタイトルが増えています。私などは、「何でそんなこと言われなくちゃならないんだ」と、手にも取りませんが、指示命令を求める若手が増えているのでしょう。上司が忙しくて、彼(女)らに、指示しないことの裏返しなのかもしれません。

 

作家・批評家の唐沢俊一さんは、ビジネス書はビジネスパーソン向けハーレクイ・ロマンスだと指摘します。ヒーローが書く本を読んでヒーローを目指すのではなく、束の間の時間ヒーローの気分を味わいたいというのです。従って、著者も手の届きそうな「なんとなく成功している人」が好ましいそうです。あこがれではなく、同一化対象。なんか、美空ひばりから天地真理(古い!)へ大衆の関心が移ったようなものでしょうか。その背景には、自分はヒーローにはなれない、なりたくないという閉塞感でしょうか。

 

もう一つの指摘は、かつて定番だった「いかに上司とつきあうか」といった人間関係に関する本から、自己啓発本へのシフトが起きているというものです。自己啓発は、潜在的に保有している才能を開花させましょう、そのためには自己改造しましょう、といった他者との関係ではなく、すべて「自分自身」に収斂していく傾向です。つながりを求めるよりも、自己の「能力」を求めるという姿勢です。自己責任論が関係性放棄の言い訳になり、そこから発する漠然とした不安を自己啓発本で癒しているという見方もできるかもしれません。しかし、その先には何が待っているのでしょうか。

 

 

三人の指摘は、どれも納得感がありました。日本のビジネス社会を映す鏡としてビジネス書を見ると、いろいろな発見が出来そうです。

尖閣問題で中国との関係が怪しくなっていますが、ニュースに出るのは、政治家/スポークスマンかデモに参加する庶民の姿ばかり。もっと別の層の人々の本音を聞きたい、そんなことを思っていたところ、友人の中島恵さんから、中央公論今月号に「中国の若者は日本をどう見ているか?というレポート記事を書いたとの連絡をいただきました。

 

インタビューされた若者は、日本をよく知るとびきりのエリートたちばかりです。冷静に日本や自分たちのことを見ているなあという印象を受けました。立体的に物事を見ることが、やはり大切ですね。

 

以下、コメントを抜粋します。

 

「日本の経済は確かに悪いと思うけれど、日本人のマイナス思考も問題。日本人は真面目すぎて、自分で自分を苦しめてしまう性格なのかもね」

 

「日本人はみんなお行儀がよく、会話では『そうですね』とか『はい』という相槌をよく打つのですが、本当に親密な関係になるには時間がかかる。最初は自分だけが距離を置かれているのかと思いましたが、日本人同士も互いに気を遣い合い、表面的な付き合いをしているように見えました」

 

「実際にこの目で見た日本は予想と少し違っていました。日本人は自然を尊重し、万物に神様が宿っていると信じている。『空師(そらし)』(高木に登り、枝下ろしや伐採をする職人)という専門職の話を聞いたときは感動しました。枝を見極めて伐採するとき、感謝の祈りを込めて塩とお酒を幹に撒くのです。この話を聞いて、日本に尊敬の念を持ちました。お祭りを大事にしたり、夏に女の子が浴衣を着て花火大会に行ったりするのもとてもいい習慣。日本はアジアの中で最も東方文化の伝統が残っている国だと思いました」


「それに引き換え、中国では文化大革命などによって文化に断層があり、街を見渡しても高層ビルが立つばかりで中国的な伝統文化は感じられません。経済発展のスピードが速すぎてじっくり本を読む時間もないのは、はたして幸せなことでしょうか。私たちが中国にいて清潔で安全な日常生活を手に入れるためには、かなりの対価を支払わなければならない。日本では当たり前だったり無料だったりすることなのに......。日本の景気が悪く日本人は暗く悲観的になっていると聞くけれど、冷静に物事を考える時間を持てるのは、よい面もあると思います」

 

「昔々、日本は中国から多くのものを学び成長しました。今、中国は日本からたくさんのものを学んでいる最中でしょう」

 

「外国人から見れば中国共産党に対してさまざまな意見もあるでしょう。でも、私の両親が幼いとき、中国は貧しくて食べるものすら十分に行き渡らなかった。今の中国はどうでしょう。中国共産党は国全体の生活水準をここまで上げることに成功しました。すばらしいことではないでしょうか。私も党員となり、国に貢献したいのです」

 

「みんなストレスまみれですよ。賃金は上がっているけれど物価も上がっているから生活は豊かじゃない。いつもイライラしている人が多い。〝拝金病〟を患うのはよいことだと信じている人もいる。昔貧しかった反動なのか、目に見えない魔物に追われるようにガツガツお金を貯め込んでいる。お金は不安に打ち勝つための『安定剤』なのかもしれません。飲み続けないと死んでしまうのです」

 

「今の日本ではチャンスの数自体が少ないし、国の成長が止まっているのですから、日本人が留学したくないという気持ちはよくわかります。だって、その先の明るい未来が想像できないんですから」


「でも、ひとつのゲームを三日間黙々とやり続けることができる日本人はすごいです。ただひたすらに、真っ直ぐ突き進んでいくのが日本人の特徴。一途だから日本人は強いし、逆にいえば、海外の文化や外国人の考え方を柔軟に受け入れられないのは一途であるがゆえ。頑固者だともいえますね。オタクという言葉は日本では悪い意味も含まれているかもしれないけど、世界では断然よい言葉。私は日本のオタク文化を研究してみたいと思っています」

 

「孫文の辛亥革命も失敗しましたが、中国の革命と比べて日本の革命はなぜ成功したのか。日本のどこがよかったのかを徹底的に学ばされました」

 

「以前、最高学府だった大学は貧しい者でも人生を一発逆転できるチャンスの場でしたが、九〇年代後半から政府が大学生数を急激に増やすよう方向転換した結果、雇用できないほどの大量の大学生を生み出し、大学が実利主義に走る結果となりました。今の中国も江戸時代同様、不満が鬱積していると思います」

 

「私はこれから『超国家』を研究テーマにしていきたいと考えていますが、日本も中国も、世界地図からは絶対に消えない国。今後、日中間にどんなことがあっても、どちらも引っ越しはできず、隣国として共存していかなくてはなりません。そのことをよく理解した上でお互いに尊重して付き合っていけたらいい。もちろん、付き合っていくのは国だけでなく、私たち、一人ひとりの人間です」

 

 

もっと複眼で隣国中国を知る必要があると同時に、日本のことをもっと客観的に理解しなければならないと実感しました。

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