ブックレビュー: 2010年7月アーカイブ

わたしの渡世日記〈下〉 (文春文庫)
高峰 秀子
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先日、「高峰秀子の流儀」を読んで彼女の生き方に感銘を受け、彼女のエッセーをこれから読もうと 宣言しました。最初に読んだのが、彼女の自叙伝とも言える本書。いやー、内容は言うに及ばず、文章力にも驚きました。こんなに、才人だったとは。

 

司馬遼太郎が、「いったいどういう教育を受ければ、こんな人間が出来上がるのだろう」とつぶやいたと、先日書きましたね。本書を読んで、わかったような気がします。周囲の「ホンモノ」を見極め、そんな偉大な先人達から、貪欲に学ぶ力を持っているのです。

 

世の中には、「ただ、その人が存在する」というだけで、なんとなく心強く、心の支えになる人がいる。精神的スポンサーとでもいうのだろう。私の場合も、それほど親しい間柄とはいえなくても、会えば優しい心遣いを見せてくれ、親切な言葉をかけてくれる精神的スポンサーといえる人はいる。(中略1)私は決して有名狂でもなく、肩書きをひけらかすような人間は大嫌いだが、この人たちの、積み重ねた教養と勉学にプラスされた「心の豊かさ」に、私は心を引かれる。立派できびしい仕事を持っているから心が豊かになるのか、心が豊だからきびしい仕事に耐えられるのか、頭の弱い私にはわからないけれど(中略2)。

いわゆる世間で「立派な人」「偉い人」と言われても、心に愛情のない人は、私には偉くも、立派にも見えない。そういう人はただ学問のお化けである。

 

(中略1)部分には、池田潔、扇谷正造、今日出海、池島新平、大宅壮一の名前があります。他にも、梅原龍三郎、谷崎潤一郎、川口松太郎らものすごい人たちが教師なのです

 

高峰の向学心に火を付けたのは終戦直後の山本嘉次郎監督でした。撮影の合間、退屈する若い彼女にこう言いました。

 

なんでもいいから興味を持ってごらん。なぜだろう?どうしてだろう?って考えるっていうのは、ワリと間が持つよ。そうすると世の中そんなにつまんなくもないよ。

 

下巻の解説は沢木耕太郎です。これがまたいい!解説は、本の内容を解説者が持つ刀で、すぱっと切ってみせるのが醍醐味ですが、正にそれを見せてくれます。膝を打ちたくなる文章が続きます。

 

ここに高峰秀子の文章の最大の特徴である、その底に貫かれている人生を肯定する意志の強さが明らかになる。人生を肯定する意志、というのが大袈裟ならば、人生を味わい尽そうとする意志、と言い換えてもよい。

 

高峰秀子にとって、松山善三との生活はひとつの長大な作品だったのかもしれない。だが、この作品はこれまでの作品と違い、演じることではなく、生きることで作品となった。

 

もし、高峰秀子が雌ライオンであるとするなら、この雌ライオンの最大の願望は、人生において常に潔くありたいということであるに違いない。

 

 

川口松太郎が推薦文で書いたように、本書は「人生の指導書」に違いありません。

 

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