ブックレビュー: 2013年3月アーカイブ

商店街はなぜ滅びるのか 社会・政治・経済史から探る再生の道 (光文社新書)
新 雅史
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原発事故によってほとんどの人が、原子力ムラの存在やその意味を知ったのだと思います。もちろん私もその一人です。そういうことは、他にもあるんではないかと漠然と思っていましたが、やっぱりありました。本書によって、商店街衰退の理由や意味を知って腑に落ちたことがたくさんあります。

 

地方のシャッター通りは、時代の流れで仕方ないことだと思っていました。しかし、それはいくつかの思い込みから成り立っているのでした。

 

・商店街の起源は古い(江戸時代?)

・商店は古くから街に住む地元民によって自然発生的に始まった

・商店街は弱い存在だから規制(大店法や許可制など)によって長く守られてきた

・零細事業者は保護され、サラリーマン世帯は虐げられてきた

・その規制が廃止されて、消費者は恩恵を被った

・手厚い保護を受けてきたにもかかわらず、家族経営の生業から進化できず衰退していった

・バブル崩壊後、商店街に対する政府の金銭的補助が減少したため衰退した

・子供が継がない店が廃業してシャッターを閉めるのは仕方ない

・コンビニに業態転換できたので、何とか商店街にも古くからの店が残れている

・モータリゼーションによって、郊外大型店舗ができたので、商店街の存在意義はなくなった

・地方の商店街が衰退したのは、東京一極集中化のため住民が減少したためだ

 

これらはすべて本書で否定されます。その時代時代の政府の政策によって、商店街というコンセプトが創造され、保護し拡張させ、そして崩壊していったのです。政治に翻弄されたといえます。

 

もちろん、全てを政治のせいにはできません。著者は、商店街自身の責任として二つ挙げています。ひとつは、「商店街が恥知らずの圧力集団」になったこと。もうひとつは、権益の私物化により専門性を磨かなかったことです。

 

先の思い込みの反例のひとつとして、バブル後の金銭補助があります。圧力集団として自民党と野党たる社会党に取り入ることに成功し、バブル崩壊後の景気対策として膨大な資金が商店街をはじめとした零細事業者に流れ込みました。その背景にはアメリカの自由化要求に沿った大店法廃止があります。その代償の意味もあったのです。そういった補助金が麻薬化し商店街の崩壊を速めたのです。

 

カネという麻薬によって、自らを滅ぼす例は商店街だけではなく、原発自治体や農業など、枚挙にいとまがありません。もうそろそろその麻薬性に気付くべきでしょう。ところが、アベノミクでは再び麻薬を打つことを狙っています。やれやれ・・・。

 

我々が当たり前だと思い、なんの疑問も持っていないことの裏では、実はある動機によって複雑な構造が構築されており動いている。「知らしむべからず、由らしむべし」といいますが、知らないことがまだまだたくさんあります。もっともっと、批判的見方を心掛けていかねばなりません。

 

 

ところで、著者の実家は北九州で酒屋を営んでいましたが、今はコンビニ経営に転換したそうです。子供の頃、酒屋の倅がいやでいやでたまらなかったことが、本書執筆の動機になっていると告白した「あとがき」は、ちょっと泣かせます。

 

この著者のように比較的若い学者が、それまでの権威者とは異なる新鮮な切り口で分析した著作が、このところ増えているような気がします。さらに頑張ってほしいですね。

 

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