ブックレビュー: 2010年1月アーカイブ

「ザ・コールデスト・ウィンター 朝鮮戦争 上・下」を読んで、「大きな物語」の重要性を再認識しました。戦闘でいかに勝つかも重要ですが、もう少し時間軸を延ばして判断・評価することはさらに重要です。(ここでの「物語」は、本の内容の意味ではありません)

 

例えば、日露戦争での勝利が太平洋戦争での敗北を導いたという見方もできるでしょう。だとすれば、日露戦争で勝ったことが日本にとって良かったことなのか。

 

先の本で言えば、朝鮮戦争への介入で新生中国は国内のみならず世界でも地位を固めたといえます。しかし、それが毛沢東の独裁を招き、その後の文化大革命などの悲劇を導いたともいえます。朝鮮戦争に介入しなかったソ連が漁夫の利を得たという見方もできますが、それがアメリカの冷戦志向を強化し、ソ連崩壊を促したともいえます。

 

ハルバースタムはそうは書いていませんが、朝鮮戦争で最も得をしたのは日本かもしれません。しかし、そこで原型が造られた経済構造に、今日本が苦しんでいるのもまた事実です。

 

また、アメリカも、朝鮮戦争からベトナム、そしてイラク、アフガニスタンへと脈々とした流れができます。結局アメリカも、大きな物語で捉えるのではなく、国内政局や特定企業の利害といった小さな物語で動いているのだと、本書は主張しているようです。

 

このように、ある事象の成否はどの時間軸で見るか次第です。そして、長い時間軸で捉えたものが「大きな物語」であり、それを描けるリーダーがいるかどうかが、国家においても企業においても、死活問題になる気がします。別の言い方をすれば、それが戦略的思考なのかもしれません。

 

残念ながら今は、「小さな物語」の中でいかに得をするか、に皆が汲々としているように思います。その際の基準は、現時点における他者との比較です。いわば空間スケールでしか判断せず、時間スケールが欠落しているのではないでしょうか。

 

 

今年のNHKの目玉「坂の上の雲」や「龍馬伝」は、それぞれの時代における「大きな物語」を描いていこうとしているのかもしれませんね。時代は、あらためて「大きな物語」を求めているような気がしないでもありません。是非、そうあってほしいです。

ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争 上
山田 耕介
4163718109
ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争 下
山田 侑平
4163718206

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