ブックレビュー: 2009年6月アーカイブ

実証性を重視する経営学者である著者(テキサス大学准教授 清水勝彦氏)が、あえて「既存の経営知識で説明できる要因はたった3割」と言い切り、残り7割は、「それぞれの企業の特殊要因」と割っている潔さが、この本の魅力です。

 

また、「科学の徒であるはずの経営学者が、『直感』『勘』の大切さを説くのもどうかと思いますが、実際『直感』や『勘』は私たちの生活や様々な意思決定に大きな役割を果たしています。」とも書いています。

 

 

アンディ・グローブが言っているように、小さな出来事を、「シグナル」(きざし)と捉えるか「ノイズ」と捉えるか、そこに経営の本質があるように思います。ある企業にとってはノイズであっても、別の企業にとってはシグナルかもしれません。

 

その判断は、合理性では無理でしょう。そこには、直感が働くとしか思えません。これは、経営学の範囲外の部分です。

 

直感でAと判断したものの、「待てよ、よく考えてみるとBじゃないか」と思い直してBを選ぶとたいてい失敗します。これは私の経験からの学びです。でも、どうやらこの現象は私だけではないのだと、本書を読んでわかりました。

 

よく考える=説明できるようにする=過去の経験や常識に当てはめる

 

という思考のはたらきが、どうもあるようです。そして、得てして多くの場合は過去の常識が当てはまらないことが多く、それが致命的だったりする。

 

いわゆる専門家や、業歴の長い企業が陥りやすい罠です。ビギナーズラックは、偶然ではないのかもしれません。

 

 

オーナー企業で成功するパターンは、オーナーの直感によるものが多いようです。ユニ・チャームも、整理用品から紙おむつに参入することを決めた役員会では、創業者以外全員反対したと聞きました。創業者が、論理的に他の役員を説得できたはずはありません。創業者自身、直感としか言えなかったのですから。

 

 

では、どうやったら直感を磨けるのでしょうか。我々凡人ができることは、障害物を取り除くことくらいかもしれません。先に述べたように、経験や常識がそれです。そのためのトレーニングが、著者の言う「小さなこと」を軽んじない姿勢なのでしょう。

経営の神は細部に宿る
清水 勝彦
4569709303

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