経営: 2009年3月アーカイブ

一昨日、「形」から入るのはいいとして、その後でどうするのか、ということを書きました。そのことを、少し角度をかけて、さらに考えてみました。

 

和魂洋才という言葉があります。それは、明治時代に、進んだ西洋の技術を取り入れるものの、日本人の精神は失わないという決意の言葉だったと解釈しています。この考え方が、現在の日本の底流にあると思います。

 

例えば、社外取締役制度。バブル崩壊後、雪崩を打ったように日本企業は採用しました。この制度の精神は、株主からすれば、社長の「部下」である内部取締役だけでは、経営のチェックが機能しない。利害関係のない社外の有能な人材が取締役となり、経営を「取り締る」べきである、ということでしょう。その精神は、理にかなっています。

 

この制度を「形」として採用した日本企業は、果たしてこの精神も採用したのでしょうか。その後の状況を見る限り、そうでもなさそうです。うがった見方かもしれませんが、

―外部の人間に、うちの会社のことがわかるはずはない

―社外取締役の得意分野に関しては、ご意見を拝聴するが、それ以外は聞き流そう

―株主重視の開かれた企業であると、アピールするために社外取締役制度を活用しよう

 

という論理が罷り通っている気がしてなりません。

 

つまり、「形」だけ取り入れ、「精神」は取り入れていない、まさに和魂洋才ではないでしょうか。数年前にはやった買防止策も同様です。

 

今、日本企業に必要なのは和魂洋才ではなく、「和才洋魂」だと思います。グローバル競争に対応するためには、そのエッセンスを取り入れることを避けことはできない。ただ、日本企業組織に導入するに際しては、日本的な適用方法を工夫すべきです。そのまま取り入れてもだめだし、もちろん形だけ取り入れてもだめです。グローバルな精神を日本組織に適合するように解釈し、形を整える、そんな努力をもっとすべきだと思います。

 

(その具体策を提案するのが、経営学者なのだと思うのですが、残念ながら洋魂wakonyousai-yoko.jpg洋才が多いように感じてしまいます。)

バブル崩壊後、株主重視経営、社外取締役制度、成果主義人事、非正規労働促進など多くの制度や仕組みがグローバリゼーションの名の下で、日本企業に導入されました。その後、10年程度経過し、その評価はどうなっているのでしょう。

 

「形」から入ることも大事です。まずは、導入してみて、それが機能するように徐々に体制を作り上げていく。だめだったら、その時点で見直せばいい。というのが、大抵導入時に使われる論法です。

 

しかし、その「形」を実りあるものにしていくためには、その背景に複雑なミニエコシステムともいえるような体系を構築しなければなりませんが、それを本気で行うことは少ないようです。

 

CFOやCLOもそんな流れの中で、話題になりました。財務部長とCFO、CLOと人事部長は何が違うのか、どれだけ理解され導入されたのか。そして、今どれだけCFOやCLOに値する機能が存在するのか。

 

あらためて、その必要性を評価し、もし本当に必要とされるのならば、どうやって日本企業でそれを導入していくのか、ミニエコシステム構築から考え直してみる時期に来ていると思います。

現在のグローバル不況が去った後、これまでの企業とは、全く異なる戦略で市場を席巻する企業群が現れる気がします。

 

戦略にもいろいろな定義がありますが、私が最もピンとくるのは、「自社が、安定的に高い収益性を実現できるような、均衡状態を構築すること」という定義です。

 

「新規参入があることにより、市場の収益性は限りなくゼロに近い水準で均衡する」というのが経済学の教えです。この自然的原理を打ち破るだけの環境を創りだすことが戦略です。もちろん、談合や規制、保護などはなしで、です。

 

これは、いま風に言えば、「自社に有利なエコシステム(生態系)を構築する」ということでしょう。関わるステークホルダーにとって快適なエコシステムを構想すること自体、大変なことですが、それを実現するのはもっと難しいことです。

 

実現するためには、Ignition point(発火点)を見つけることが肝心です。これは、ベタープレイスジャパンの藤井社長からうかがいましたが、その例で示しましょう。

 

同社は、電気自動車を普及させるためのプラットフォームを提供することを目指しています。普及のネックは、バッテリー価格です。そこで、バッテリーを自動車メーカーに無料提供し、充電施設(ガソリンスタンドの電気版のようなもの)を展開、そこでの充電量に応じて利用者から電気自動車2.jpg対価を受け取るというビジネスです。

 

 

 

もう一つネックは、ユーザーの安全性への不安です。技術的には問題ないのですが、初期の個人ユーザーは、高速道路の真ん中で火を噴いたりしないだろうか、と心配してしまうかもしれません。その結果、エコシステムは出来ても、肝心の一般個人ユーザーが電気自動車の購買に踏み切れない可能性があるのです。

 

そこで、普及のためのIgnition pointが必要になります。それが、東京のタクシーだそうです。東京のタクシーは、比較的組織化されています。タクシー会社に働きかけ、電気自動車を導入してもらいます。それだけでも相当な台数です。

 

さらに、電気自動車タクシーに乗った乗客は、その乗り心地の良さを体感できます。また、耐久性を要求されるタクシーが電気化されていることを知れば、電気自動車の耐久性に安心感を持ってもらえることでしょう。

 

このように、都内のタクシーをIgnition pointにして、市場を拡大させることを狙うそうです。

 

 

どこをIgnition pointにして、どんなエコシステムで市場を制覇する企業が現れるのか。この不況期に準備は着々と進んでいることでしょう。

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