経営: 2012年5月アーカイブ

経営者がぶれないことは、強い企業のもっとも大きな条件だと思います。経営者がぶれないということは、辛抱強い経営ができるということです。その典型はジョブズのアップルとベソスのアマゾンが双璧でしょう。ジョブズ亡きあとベソスに注目せざるをえません。

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利益が出るまで辛抱強く投資を続けるのは、創業期からの遺伝子のように見えます。ベソスが辛抱強いのは、競合には目もくれずひたすら顧客を起点にしているからだと考えられます。一般に、顧客ではなく競合を意識した経営では、経営環境のわずかな変化に対応して素早く動こうとする競合に遅れまいと、さらに迅速に行動しようとつとめます。こうした動きの連鎖の結果、企業行動の振幅はどんどん大きくなっていきます。IT業界ならなおさらです。しかし、その結果膨れあがる在庫の山に埋もれるようなことになってしまいます。横並び意識の強い日本企業では、もう何十年もその繰り返し。

 

一方、顧客起点で、顧客からの高い評価を獲得すべく新事業を構築するには、長い時間が必要です。もちろん先行企業の後追いであれば、それほど時間は必要としません。ただもしそうなら、顧客を見ずに競合を見る経営ということになります。つまり、顧客中心主義とイノベーション(先駆者)と辛抱強さはつながっているのです。

 

でも辛抱はそう簡単ではありません。つい早めに諦めたくもなります。撤退の意思決定を迅速にすることも時には必要ですが、顧客のことをどれだけ考えて経営しているのかと疑問に思うことがあります。 

ベソスは、こう述べています。(「日経ビジネス」12/4/30号より)

 

新事業を始める際には、私たちは経験が不足しています。その費用を顧客に払わせるようなことをしてはならない。初めて何かする時には、必ず授業料を払わねばならないのです。未経験でわからないことがあるから我々は学習する。学習期間は投資期間です。うまくできるようになったら、投下資本利益が向上し、その投資は利益を生むものに化けます。

 

これは、日本企業の経営者の言葉のように思えませんか。短期志向の株主の多いアメリカで、ひたすら学習する期間を持ち続けることは、容易ではありません。長期的視野による経営は、日本企業の代名詞だったのですが、今やそうではないようです。

 

 

もうひとつ、辛抱強い経営ができるのは、自らの判断、洞察力に自信があるからでしょう。ベソスは、電子書籍に関連して以下のようにコメントしています。

 

私が言えるのは、常に読者と著者に協調すべきだということです。これは書籍ビジネスに携わる全ての人へのアドバイスでもあります。(中略)なぜなら、立場が保証されているのは、この両者だけだからです。この単純な事実を出版業界の人たちが忘れているのではないかという気がします。アマゾンを含め、他の全員は中間業者。そして、我々は中間にいる権利を勝ち取らなければなりません。

 

(広い意味での)業界構造をこのようにシンプルに捉えて、本質に真正面から向かい合い構想することのできるベソスは、やはり卓越した経営者だと思います。この思考はジョブズに似ています。

 

自信がない経営者は、顧客よりも競合に目がいき、辛抱強さよりも目先の対応に終始し、「君子豹変す」を都合よく使う。ベソスやジョブズは、その対極にいます。

 

かつての日本企業は、経営者の力というよりもシステムによって辛抱強さが担保されていたように思います。そのシステムが崩れつつある現在、経営者の力量でそれを保つことが必要になっています。ベソスやジョブズにはなれなくても、彼らから学ぶことは大きいと思います。

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