経営: 2009年7月アーカイブ

それまで優良だった企業が没落するのは、どのような理由によるのでしょうか。

 

 

今年初めに倒産した、歴史ある大会社の元COOから直接聞いた話です。

 

仮にT社としておきましょう。T社は、三代続けての社員もいる技術に優れた伝統あるシステム関連企業でした。家族的でおっとりした社風だったといいます。

 

2000年頃、ITバブルで株価が高騰したころ変化が起こります。技術面でも支援していた親会社が、T社の株を高値で売ることにしました。そろそろ独り立ちしなさい、というわけです。

 

経営者は、一般の株主を意識せざるを得なくなり、成長に舵を切りました。そして、次々とベンチャー系企業の買収を進めました。

 

しかし、おっとりしたT社と買収した企業の融合は難しく、被買収企業の経営陣は次々と会社を離れてしまいました。そして、結局それらの会社も安く手放すことになってしまいます。

 

ただ、経営陣にひとつの遺産を置いていきました。それは、もっと貪欲に成長し続けなければいけないという意識です。確かに、周囲の競合企業を見れば、以前と違って生産はアウトソーサーに委託したりなど、最新の経営システムを導入しています。それにならって、T社も当時グローバルスタンダードと言われた様々な経営手法を、次々と導入していったのです。

 

借り物の経営手法が、古い企業体質を残すT社で、活かされるはずもなく、社内は混乱します。その結果、打つ手打つ手が次々に裏目に出て、とうとう今年初めに倒産となってしまったのです。

 

 

今、元COOは、振りかえります。今でも、技術ではどんな会社にも負けない。なんで、こんなことになってしまったのかと。

以前、社外取締役制度への疑問をちらっとだけ書きました。

http://www.adat-inc.com/fukublog/2009/06/post-74.html

 

たまたま昨日の日経夕刊の十字路で、外資系弁護士事務所の方が「取締役会の役割と独立性の確保」とのコラムを書かれていたので、あらためて意見を述べておきたいと思います。

 

そのコラムでは、内輪の取締役ばかりでは職務上の上下関係が維持されるため、チェック機能は不十分であると述べた上で、

 

「例えば、不正行為に経営トップが関与しているような場合、内部者で固められた取締役会が、適切な是正措置を早期に自発的に講じていくことは実際に可能であろうか。」

 

と疑問を呈しています。一見正論のようですが、そもそも経営トップが関与しているような不正行為を、社外取締役が認識できるのでしょうか。トップが、本気で外部に対して隠ぺいしようと思えば、かなりの確率で成功するのでは。察知できなければ、是正もさせられません。

 

次に、

「他方、経営トップが大胆な経営改革を計画していても、例えば撤退予定部門の担当取締役らが部門の立場から取締役会で反対するなどして、必要な改革が適時にできず、遅延が多大な損失を生むことはないだろうか。」

 

と書いています。自らの不正を隠ぺい出来るくらい力のあるトップであれば、担当取締役の反対など、もろともしないでしょう。つまり、社外取締役がいなくても、トップさえ決断できれば実行できるのではないでしょうか。

 

もちろん、そもそもトップが決断できないのであれば、資本の論理で社外の株主、ないしはそこから送りこまれた社外取締役の力が発揮されます。(日産のケース)

 

もし問題があるとすれば、取締役に担当部門を持たせることではないでしょうか。

 

そもそもの疑問は、完全な中立な社外取締役なんて、確保できるのかという点です。株主代表訴訟を恐れ、結局なり手といえば、仲のいいトップから頼まれ断れなかったお友達だけ、なんてことになりかねません。そういう方々が、果たして独立した高度な経営判断ができるのでしょうか。

 

 

その点については、

「上場企業の取締役OBの数を考えれば、社外にも適格な人材は多数いるはずだ。」

 

と断言しています。ご指摘のように、トップの不正も正せないような取締役経験者が、たとえ指示命令系統がなくなったとしても、より困難な社外取締役の任が務まるとは思えません。

 

 

本来、やるべきなのは、システムの変更ではなく、取締役の責任と義務、そしてリスクを正しく認識することではないでしょうか。そして、トップは、その任を果たせないと判断した取締役がいたら、即退任させるくらいの覚悟で経営にあたるべきだと思います、

 

 

社外取締役制度のように、システムを変更すればうまくいくと考えるのは、それによってビジネスが増えるコンサルタントなどのプロフェッショナルサービスと、とにかく解決策を実行したとのアリバイをつくりたい一部のトップだけと言ったら言い過ぎでしょうか。

 

システム変更によって、本質的問題から目を背けることになりはしないか、冷静に見極めていきたいものです。裁判員制度が、そうでなければいいのですが。

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