経営: 2010年3月アーカイブ

最近、モチベーションという言葉が、何かと殺し文句になっているように感じます。

「そんなことをしたら社員のモチベーションが下がってしまう。」

 

確かに、昔と比べて社員のモチベーション維持に、管理職や経営陣が苦心されているのはわかります。非定形業務が増える中、組織生産性は社員のモチベーション次第という傾向になっています。社員のロイヤリティーも昔ほど高くなく、気に入らなければ退職、というのも珍しくはありません。なので、社員のモチベーションに神経をとがらせているわけです。

 

長期的な生産性向上を期待できる施策(情報開示、複数キャリアトラックなど)の理由として、それが使われるのはいいのですが、できない理由としてモチベーションが使われることも多いように思います。「上司が部下を強く指導できないのは、部下のモチベーションに配慮しているから」といった場面です。

 

マネジメントとは、組織構成員に対して「短期の苦労を厭わず、長期的な恩恵を追求させる行為」ということができると思います。いいかえれば、短期的には苦痛が増えてやる気が低下するかもしれないが、それを克服することができるだけのビジョンを示し、勇気づけることこそがマネジメントなのです。

 

何事も短期と長期があります。最も安易なマネジメントは、将来のメリットを先食いし、今の満足度を高めるような行為です。(政府の国債発行がまさにそうですね。)こういう施策の理由として、モチベーションが頻繁に活用されている気がしてなりません。

 

だとすれば、経営者(管理職)の能力と「モチベーション」の使用回数は、逆相関にあるのかもしれません。もちろん、考えもなしの「俺についてこい」型マネジメントは論外ですが。

 

モチベーションという、なんとなく耳障りのいい「横文字」には、注意が必要です。心して使いましょう。

多少落着きを見せたトヨタのリコール問題ですが、数年後にはビジネススクールにおける重要な教材(ケース)となることは間違いないでしょう。きっと、教授やケースライターは、手ぐすね引いてウォッチしているに違いありません。

 

今回の問題は、経営上のあらゆるテーマを包含していると思います。私が思いつくのは、以下のような点です。

 

1)トラブル発覚時の広報のあり方

2)経営トップの外部コミュニケーションのあり方(平常時含め)

3)テクノロジーが大きく変化する際の対処のあり方

4)グローバル企業における意思決定メカニズム

5)技術志向と顧客志向の両立

6)ガバナンスのあり方

7)リーダー企業と国家の関係

8)成長のコントロール

 

 

以下、それぞれ簡単にコメントしてみます。

1)トラブル発覚時の広報戦略ですが、すでに82年に起きたJ&Jの「タイレノール事件」の有名なケースがあります。さんざん研究もされてきたテーマであるにも関わらず、なぜ今回トヨタは適切に対応できなかったのか(少なくとも、そう見えたのか)

 

2)上にも関わりますが、トップの役割は、内部においては最高責任者であり、また外部に対しては企業の代表としての顔であることは間違いありません。では、どういう顔としてコミュニケーションしたいのか、どういう場面であえてトップが顔となって外部にコミュニケーションすべきかの、方針を明確にする必要があると思います。

 

3)今回のリコールの一部は、電子制御に関するものです。今朝の日経によると、リコールの原因は、03年までは製造段階のミスと、設計段階のミスが半々だったのが、04年から設計段階の比率が急増し、09年度では7割にも達しているそうです。簡単に言ってしまえば、メカ中心の車づくりから、電子制御中心の車づくりへ04年から急速に変わってきているということです。その影響は、不具合の発見・対策を打ちにくくなっていることと、ある生産現場で製造された自動車に限定されていたリスクが、設計やソフトにのって世界中で生産された自動車へリスクが広がることを意味します。今、電気自動車への進化が話題ですが、実際は04年から電子化への技術革新が起きていると考えたほうがいいのかもしれません。その事実への対応が、まだ企業に出来ていなかった。

 

4)北米においてリコールの意思決定ができないことが、対応の遅れにつながったという指摘もあるようです。まさに、組織と意思決定の問題です。それが、リコール問題においてだけなのか、それともトヨタというグローバル企業の意思決定メカニズムそのものを問題にしているのは、それはよくわかりません。

 

5)技術担当副社長の会見を見ていると、技術に対するプライドが非常に高く、それがえてして顧客をないがしろにしているとの印象を与えてしまったようです。「悪いのは技術ではなく、使い方だ」と。理解はできますが、組織全体にそのような技術偏重があるとしたら、今後も問題は続くように思います。そのくらいトヨタは、多くのあらゆる顧客を抱えてしまったことを、理解すべきではないでしょうか。

 

6)日本企業の多くは、トヨタのように内部を重視するインサイダー・システム(IS)によっています。一方、アメリカはアウトサイダー・システム(OS)です。ISが、トヨタの高品質を実現したともいえます。しかし、ISではガバナンスが働きにくいのも事実です。今回の問題は、ISの弊害ともいえるかもしれません。グローバル日本企業にあったガバナンスの仕組みとはどのようなものなのでしょう。

 

7)トヨタはビッグ3の敵失もあり、世界一の自動車メーカーになりました。ビッグ3を抱えるアメリカ国民の心情はどうでしょうか。それまで、トヨタも北米で地域貢献もたくさんやってきたでしょう。半ばインサイダーとなっていると思っていたかもしれません。でも、そう単純ではないことが、今回露見したように思います。「出る杭は打たれる」のは日本だけのことではないのでしょう。

 

8)企業成長スピードのマネジメントは、古典的な経営の重要テーマです。4,5年前、急速な海外工場立ち上げに対して、トヨタの長老達が経営陣を諫めたということがありました。しかし、世界一間近のトヨタはスピードを落とすことはありませんでした。投資家など社外からの成長圧力も強かったのでしょう。アクセルを踏むのは簡単ですが、競争している時にブレーキを踏むことほど難しいことはありません。

 

 

以上、今回はトヨタが対象でしたが、他の日本企業で同じ問題が起きたとしても全く不思議ではないと思います。このトヨタケースを、十分研究する必要がありそうです。

オバマ大統領就任から一年以上経過し、ハネムーン時期は終わったようです。あの長い選挙戦からの熱狂もさめてきつつあります。ただ、アメリカという国があれだけの時間とエネルギーをかけて大統領を選ぶということには、大きな意味があるのだと思います。

オバマvs.jpg 

アメリカ大統領には、体力・気力、そしてあらゆるセグメントの人々を説得できる言葉の力が必要です。それも、付焼刃ではなく真の力です。それを証明するには、相応の時間が必要なのです。あの長い選挙キャンペーン期間は、そのテストなのであり、また訓練の場なのでしょう。

 

記憶に新しいところでは、GEのジャックウェルチCEOが後継者を選定するプロセスが、大統領選挙に似ていましたね。

 

翻って日本の社長就任プロセス。ほとんどが、前任者の指名でしょう。(近年指名委員会というのもありますが)それは、日本企業の構造や文化に合っていたのでしょう。一種の家督相続や部族長の選定プロセスに似ています。

 

トップに期待されるのは、組織の継承であり調整能力、そしてうまく神輿に担がれることでした。社長に選ばれるような人は、長い会社人生の中でそういう能力を磨き、生き残ってきたのです。期待能力は違いますが、長い選考プロセスを経てきたという意味では、アメリカ大統領と似ているとも言えなくもありません。

 

しかし、問題は日本企業のトップに求められる役割や能力が、バブル崩壊以降、特に08年のリーマンショック急速に変化していることです。経営環境変化に伴い、トップのあり方も変わってこざるを得ないでしょう。

 

 

昇格者研修というものがあります。企業内で階層を上がると、必要とされる能力や意識が大きく変わるため、昇格前後に短期間でそれらを修得させることが目的です。

 

会社組織の中で、もっとも昇格時に「世界」が変わる階層はどこでしょうか?平社員から管理職に上がるときでしょうか。いえ、違います。社長に就任する時です。特に最近、トヨタの社長会見や証言を見ていて、つくづくそう感じます。

 

トヨタはともかく、上場企業で社長就任前にどれだけの専門トレーニングが施されているのでしょうか。「就任一期目では、何もできなかった。二期、三期やって、やっと自分のやりたいことができるようになる」という社長のコメントを多く耳にしませか。そんな悠長なことで、今どき大丈夫なんでしょうか。アメリカ大統領ではありませんが、就任100日で必要な方向性を示し、基盤を固めるくらいでなければ、グローバル競争に生き残っていけないでしょう。

 

もっともトレーニングが必要なのは、社長候補(内定)者なのではないでしょうか。

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