経営: 2009年10月アーカイブ

 

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大手企業X社は、将来の経営を担う人材の育成を目的として、非常にハイレベルのトレーニングプログラムを開発しました。そして、受講者の視野を広げさせるため、異業種他社からの参加も呼びかけることにしたのです。ただし、同じレベルで議論できるように、声をかける企業は、やはり大手企業に絞りました。

 

X社人事部の本企画責任者は、候補企業の人事部・人材開発部にコンタクトを取り、説明に回りましたが、反応はあまりよくありません。どうやら、人事部は全社員の底上げを目的とした階層別研修に手一杯で、一部の社員を対象としたプログラムにまで手が回らないようなのです。

 

しかし、噂を聞きつけた企業の「事業部門」から、直接X社にコンタクトがあり、「是非当社の当部からも参加させてほしい。こういうプログラムをずっと探していたのです。」といった申込みが、複数きたのです。

 

 

これは、実際にあった話に基づいて書いています。最近、このような現場の人材開発に関するニーズに、人事部門が柔軟に対応できていないという話を、よく耳にします。特殊な現場のニーズは、現場で対応してほしいというのが本音なのかもしれません。

 

事業部門の方に、「人事部門に話しても、すごく時間がかかる。スピード感が違う。」という話を伺ったこともあります。

 

一方で、事業部門では、様々な人材開発の新しいニーズが生まれてきています。それを、人事部門で受けてもらえないのであれば、自分で探すしかありません。本ケースのように、情報をキャッチできればよいのですが、ほとんどの企業の事業部門には、外部の人材開発に関する情報はなかなか入ってきません。また、そのための人材を揃えておくこともできません。

 

これは大手企業の話ではありますが、人材開発について、ニーズとサプライの間にギャップが発生しており、それが少しずつ大きくなっているのかもしれません。

 

従来の枠組みの中で人材開発を捉えていると、環境変化に対応できなくなってしまうかもしれないことを認識しておいたほうがいいでしょう。

企業は成長を追及すべきという考え方は、もはや常識かもしれません。成長を期待して株式を購入する投資家に依存する公開企業にとって、成長は義務です。いっぽう、公開していない企業では、必ずしも成長は義務ではありません。ただ、成長を経営目標に掲げる非公開企業は、決して珍しいものではありません。というより、多くはそうかかもしれません。

 

それは、なぜなんでしょうか。いわく、成長によって社員の雇用を維持できる、成長が社員の求心力となる、社会へ貢献するためには規模が必要、成長を止めたら競争に負けて倒れる、などいろいろあるでしょう。ひとことで表せば、ステークホルダーにとって成長が必要であるというロジックです。成長のひとことで求心力にも指針にもなるのですから、経営者にとって便利な言葉です。

 

でも、もしかしたらステークホルダーにとってという言い方をしながら、実は経営者にとって成長が必要なのかもしれません。M&Aを繰り返す企業では、経営者の「少しでも規模の大きな企業を経営したい」という欲求が、M&Aの真のドライバーであるとの研究を読んだことがあります。(アメリカでの研究だったと思いますが)

 

久しぶりに、そんなことを思い出したのは、日経ビジネス921日号の「六花亭製菓 成長より『愛』の異色経営」という記事を読んだからです。

 

「マルセイバター」を、北海道みやげでもらったことのある方は多いのバターサンド.jpgではないでしょうか。それを製造販売している北海道の会社です。入社希望者への会社説明会では、「当社はもう成長しません。」と宣言しています。それは、成長できないのではなく、成長を目的としないとの意味です。成長を目的とした時点で、思うような経営ができなくなるのを恐れるのでしょう。では、成長という求心力を放棄し、何を指針としているのか。それが「愛される会社」です。

 

そのために、まず経営者が社員を愛する必要があります。そして従業員から愛される力を高めた企業は、顧客から愛される力を高めることになり、結果として製品のブランド力も高まるのです。

 

お題目だけのESCSではなく、それを事業の根幹に据えています。経営資源配分のためにキーとする指標は、ROAでもROEでもなく「有給休暇取得率」なんだそうです。詳細は書きませんが、その他ESCSの仕組みが、これでもかと作りこまれています。

 

市場至上主義(ここでの市場とは、株式市場です)の限界があらわになった現在、新しいパラダイムは、身近なところにあるかもしれません。

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