日本化?

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秋もだいぶ深まり、リオ・オリンピックの記憶も少しずつ薄れてきています。とはいえ、今年の夏の大イベント、オリンピックでは日本人選手の活躍で盛り上り、表彰式で流れる「君が代」は何度聴いてもいいものでした。

 

近年のオリンピックでは、メダル獲得競争の傾向が高まり、新聞は毎日ランキングを掲載します。日本は、金メダルは何個で第何位か

パレード.jpg

、メダル総数は何個で第何位か、その競争を煽っているようです。かつてのオリンピックでもそうだったでしょうか?メダリストのパレードなんてかつてなかったし、やったとしてもあれほど盛り上がらなかったでしょう。

 

私個人としては、日本人選手の活躍は期待しますし、メダリストには敬意を表しますが、体操の団体戦じゃあるま

いし、日本選手団のメダル獲得数にはほとんど興味がありません。日本人以外の選手の卓越したパフォーマンスをもっと見てみたかったのですが、TV報道は日本人選手の活躍と感動秘話ばかりで、そういった報道は回を追うごとに減っていっているように感じます。

 

オリンピックを世界中のアスリートの祭典と見る視点が薄れ、各国の選手団に所属するアスリートの祭典となりつつあるように思えてしまいます。

 

オリンピック後にはノーベル賞も発表され、今年も日本人(大隅教授)が受賞しました。これも、嬉しいことではありますが、日本人以外の受賞者の報道は非常に限定的です。(ボブ・ディランを除けば。)でも、当り前ですが受賞対象となった大隅教授の実績は過去のもので、これまで高く評価されてきたものです。ノーベル賞を受賞しようがしまいが、その優れた実績に変わりはありません。単に、また新たなラベルが加わっただけです。そこまで熱狂するほどのことなのでしょうか?ノーベル賞事務局からの連絡に応じないボブ・ディランの姿の方が、自然に見えなくもない。

 

先日、プロ野球パ・リーグのクライマックス・シリーズ最終戦で、大谷投手が日本人選手最速の165kmを記録と、アナウンサーが叫んでいました。素晴らしいことだとは思いますが、100m走で10秒を切ったという記録とはわけが違います。陸上選手は、スピードそのもので勝負していますが、ピッチャーはスピードだけで勝負しているわけではありません。でも、目につく165kmという数字に注目します。

 

これらはとても日本的だと思います。より小集団への執着、定量化された数値でしか価値を認められない、自分自身で判断するのではなく「権威」に判断を委ねる、この三つの傾向です。

 

小集団への執着は、中根千枝「タテ社会の力学」で日本人の特性だと分析されています。ちょっと長いですが引用します。

 

小集団の個人は、そのより大きい集団の成員でもあるわけであるが、重要なことは、日本では、この大集団参加は常に小集団単位の参加であって個人参加ではないうということである。言い換えれば、小集団の凝集性が高いというか枠が強く、大集団に合流しても決してその枠がなくならないということである。

タテ社会の力学 (講談社学術文庫)
中根 千枝
4062919567

 

かつては出身大学で差を感じていたのが、最近は出身高校の差に着目する風潮があります。これらもより小集団執着化の現れでしょうか。進歩とは普遍化に向かう現象だと思いますが、今は逆に個別化に向かっている。


でも、よく考えてみると、これは日本だけの現象ではなく、もしかしたら世界全体で同時に起きていることなのではとの予感がします。例えば、英国のEU離脱、アメリカの大統領選挙の醜態、ロシアや中国の拡張政策、フィリピンのドゥテルテ大統領の言動などなど。

 

ランキングという序列にこだわるのも、権威にこだわるのも、自分自身の絶対的判断基準が曖昧になっているからかもしれません。特に、小集団が強く個が弱い日本人はその傾向がありました。世界全体を見渡しても、誰もが認める価値観や既存権威が揺らいでおり、個人の軸をどこに置いたらいいのかわからない人々が、逆説的ではありますが、見えやすく合意が得やすい既存の権威や数字にすり寄らざるを得なくなっているのかもしれません。世界で格差が広がってきていることも、それを助長しているようです。イスラム絶対のISや安倍政権の高い支持率などもその結果かもしれません。

 

日本でますます進む「日本化」が、世界にも広がりつつある。これは決して嬉しいことではありません。

 

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このページは、ブログ管理者が2016年10月18日 10:56に書いたブログ記事です。

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