映画「秋日和」を観て:本物と品性

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原節子が亡くなって一年。一周忌のイベントとして、原節子映画特集が某映画館で先週まで開催されていました。その中で、最後に観た「秋日和」、もう観たのは何回目かわかりませんが、毎回味わいが違う。

 

何というか、「品」がありますね。その理由として今回気づいたのは、背景に置かれた美術工芸品の素晴らしさです。これまでと違って、今回は注意して観ました。すると、法事の後の座敷での食事の場面や鰻屋で使っている食器が、どれも一見していいものなのです。清水焼のとっくりや漆のお椀、湯呑みも急須もどれもセンスがいい。また、会社の会議室や飲食店のお座敷には、ほとんどといっていいほど絵画がかかっています。それらも、その場面に馴染んだ一流のものとお見受けしました。小津監督は、毎回赤坂の喜多川という美術工芸品の店で、撮影用の備品を揃えさせていたそうです。道理で。

 

しかし、それらは主張し過ぎてはおらず、決して映画の邪魔にはなっていません。だから、普通に映画を観ている分には気づかないでしょう。でも、得も言われぬ本物の「品格」がスクリーンから滲み出てきて、観る私たちをいい気分にさせているに違いないのです。本物の力とは、そういうものなのです。(原節子が着る着物も、みるからにいいものです。私には評価能力がないので強くは言えませんが。)私たちが日々仕事や生活をしていくことにおいても、同じことが言えるのではないでしょうか。ニセモノはいずれ本性が現れる。地味で面倒で一見無駄であろうが、やはり本物に接し本物を目指すべきだと教えてくれます。

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ところで、「秋日和」という映画のストーリーはいたってシンプル。亡き友、三輪の七回忌に集まった大学時代の同級生、間宮(佐分利信)、田口(中村伸郎)、平山(北竜二)の三人が、未亡人の秋子(原節子)と娘のアヤ子(司葉子)二人同時に結婚相手を世話しようと画策し、最後にアヤ子のみ嫁入りするという話です。おじさん三人は、学生時代全員秋子に惚れていたのですが、三輪にさらわれてしまったという背景があります。そして、秋子の再婚相手の候補は、妻に先立たれた平山(北竜二)だったんですが・・。

 

間宮と田口は大企業の役員クラス、平山は大学教授。1960年(昭和35年)の映画ですが、高度成長期の日本企業社会が垣間見られて面白い。間宮は社用車を使って、訪ねてきたアヤ子と昼飯を食べに鰻屋へいったりします。もちろん、ビールも。岩下志麻演ずるかわいい受付嬢に、毎回お客を自分の部屋に案内させます。出かけるときは受話器をあげ、「おい、車」と随分エラソーですが、当時はそれが普通だったのでしょう。時代の余裕を感じます。

 

アヤ子に結婚を決意させるために、秋子を平山とくっつけようと画策した三人組の言動は、アヤ子を混乱させ母に対して誤解による怒りを抱かせてしまう。それを知ったアヤ子の親友百合子(岡田茉莉子)が三人に対して、「そんなことして何が楽しいの!!」と怒りをぶちまけます。知らない若い女性から突然責めたてられたおじさん三人組みの対応がいい。確かに、大人としては少々軽率な行動を取ったおじさんたちですが、いきなり怒鳴られては立つ瀬がない。しかし、間宮は丁寧に詫びつつ、言いたいことを言わせた上で、でもお互いに秋子とアヤ子の幸せを願うことでは共通だと説き、最後には怒る百合子を味方に付けてしまう。さすが大企業の重役、人の扱いに慣れている。近年キレるオヤジが増えているそうですが、やはり当時の大人は「オトナ」だ。その懐の深さに関心することしきりです。

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おじさん達の猥談すれすれの会話やアヤ子を悩ませた軽率な行動も、下品じゃないんですね。三人のキャラクターもあるのでしょうが、会話の間が良いからかもしれません。がつがつしていないのです。これも品ですかね。こういう、余裕のようなものが映画のスクリーンから、やはり浸みだすのです。

 

映画を観終わって、ふと私自身この三人の設定年齢とあまり変わらないことに気づきました。

 

「人間は、少しくらい品行は悪くてもいいが、品性は良くなければいけないよ。」

と言ったそうです。

 

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このページは、ブログ管理者が2016年10月 4日 17:57に書いたブログ記事です。

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