分断の時代

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24日のイギリス国民投票でのEU離脱決定は、予想外の結果でした。あの実利的なイギリス人が、経済合理性に抗って精神的、感情的理由から独立を決めたのですから。二年前のスコットランド独立の国民投票も、最終的には英国に残る経済的メリットが、「独立」という精神的、感情的メリットに打ち勝ったのですから、尚更驚きです。

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スコットランドや北アイルランドでは、残留派が大勢でした。イングランドでは、ロンドンのみが残留を支持、他の地域は分離派の勝利。また、若年層ほど、高学歴ほど残留を支持しています。地域においても世代においても、驚くほど分断が進んでいるのです。

 

他のEU諸国でも、分離派が力を増しているようです。総選挙中のスペイン、オランダ、フランス、そしてドイツにまでその力は広がっています。アメリカのトランプ現象も同様です。

 

自国第一主義という面で、日本も似たようなことが起きていると思います。アベノミクスとは近隣窮乏策ともいえます。国債の実質的日銀引き受けという劇薬を使ってまで輸出企業支援のため円安に誘導しました。さらに年金資金を株式投資にまでまわし、株価を引き上げてきました。非常にざっくりいうと、他国と未来の日本国民からの富の収奪です。

 

しかし、これらはグローバリズムの必然的な結果だと言えそうです。資金と人と企業が自由に国境を超えるのがグローバリズム。世界規模で、儲かるところに資源は集中する。当然、儲からないとこにはまわらず、ますます貧しくなっていく。貧富の差の拡大は必然。それを、「同じ国民なんだから助け合おう」として妨げてきたのが「国民国家」だったわけです。EUは、国民国家を超えた疑似国家です。

 

今、起きているのは、世界中で国民国家としての統合力が低下していること。「分配」による統合が難しくなると何で補うか、そう「ナショナリズム」による統合です。「国家」による分配機能低下によって貧しくなった人々が、「国家」を絶対視していくこの矛盾。

 

ナショナリズムによる、国家間の分断が始まっています。日本でも、ヘイトスピーチや嫌中、嫌韓言論がその典型でしょう。さらに、世代による分断、そして貧富の格差による分断も同時進行しています。それが、今回のイギリス国民投票でも明らかになりました。さらには宗教による分断もあります。こういった複数の分断が絡み合っているのが、現在の世界なのです。

 

思想の観点では、世界は統合の時代と分断の時代が交互に現れると解釈されるそうです。ナポレオン戦争後にウィーン会議が開催され、19世紀初めヨーロッパは統合の時代となります。しかし、19世紀末には民族主義、帝国主義のもと国民国家による国家紛争、つまり分断の時代に突入し、やがて血みどろの第一次世界大戦となります。終戦後、再び統合を標ぼうし国際連盟設立。しかし、世界恐慌に端を発したナショナリズムの高まりから、第二次世界大戦へ。暗く重い、分断の時代。1945年、日本の降伏により終結。国際連合を設立し、再び統合の時代へ。1990年にはソ連崩壊によって東西分断もなくなり、やがてドイツ統一。1993年、総仕上げとしてのEU統合により、統合の思想は今後もずっと広く世界中に広まっていくだろうと、多くの人は思ったことでしょう。

 

統合の力が強くなればなるほど、分断のエネルギーが溜まっていくのかもしれません。過去の歴史を振り返れば、戦争→統合→分断→戦争→統合、この繰り返しなのです。なんと人類は進歩しないものなんでしょうか。

 

残念ながら、今の時代の空気は分断とその結果としての自陣営の利益追求です。その自陣営も、さらに細かく分解していく。EUから分離するイギリスからスコットランドが分離していくように。西洋がその精神の基盤としてきた理性主義は、もはやその力を持たないのか。本当は、こんな時代だからこそ、日本が世界に対して東洋の中庸の思想を広め、この分断の時代に終止符を打たせるべきなのでしょうが、残念ながら似非西洋化してしまった日本には、その力は望むべくもありません。

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このページは、ブログ管理者が2016年6月27日 11:11に書いたブログ記事です。

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