言葉の力

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昨日までの土日は、参議院選挙公示前最後の週末であったためか、いろんな所で選挙演説が行われていました。たまたま、土曜には新宿駅前で、日曜には吉祥寺駅前でそれに出くわしました。新宿は野党側、日曜は与党自民党でした。

 

野党側といっても政党主催ではなく、SEALDsなどの市民団体主催で、野党四党からの国会議員や文化人を招いたものでした。多くの方の街宣車上からのスピーチがあったのですが、政治家のスピーチが最も下手で心に響きません。ある女性議員は、原稿の棒読み。風で原稿が吹き飛ばされたらどうするのだろうと心配になったほど。

 

それに対して、Sealdsメンバーなど若い市民は、自分の言葉を一人称で熱く語り、聴衆も明らかに引き込まれていました。政治家の多くは、「我々は・・・・、正に・・・・、・・・・・しようじゃありませんか!」と、紋きり型です。やはり、人の心を動かすのは、スピーチ技術ではなく、どれだけ本気で自分自身の言葉で語れるかです。沖縄の女性のスピーチが代読されました。読んだのは、司会をしていた大学生の女子でしたが、強く心に刺さるものがありました。生声でなくても、本気の言葉は伝わるものなんです。結局「心」なんですね。途中でラップ音楽タイムのような時間もあって、結構楽しめました。

 

一方の日曜の自民党による選挙演説は、首相を筆頭に「有名人」が演説するので前日の新宿より、はるかに大勢の聴衆が集まっていました。しかし、土曜以上に政治家による紋きり型演説のオンパレード。しかも、登壇者も自民党のヒエラルキーにそった方々が順番にいろいろ出てくるので、正直退屈。「皆さん!・・・・じゃないですか?そうでしょう!!」といったパターンの連続で疲れます。どうして、こうも政治家の演説は、上っ面でしゃべっているのが見え見えなのでしょうか?心がこもっていないので、共感しようがない。

 

二日間を通して、政治家は全員「我々は、・・・」と一人称複数形で語るのに対して、市民は「私は、・・」と一人称単数計で語るのが特徴的でした。国民の代表たる代議士なので、「私」ではなく「(皆さんの想いも含めた)我々」というのでしょうが、それが白々しいのです。こちら側としては、「勝手にあなたの一人称に私も含めないでよ」と、突っ込みもいれたくなります。「私」を持つと政治家になれないのかもしれません。

 

話は変わりますが、エドワード・スノーデンを覚えていますか?2013年頃、アメリカ政府機関によるプライバシー侵害を告発した、元CIA職員です。彼に関する映画を先日観ました。昨年、アカデミー短編ドキュメンタリー賞を受賞した「シチズンフォー」です。

スノーデン.jpg

 

独占インタビューを公表したガーディアン紙記者とスノーデンが初めて会った時からの様子を、カメラが撮り続けています。スノーデンの暴露について、日本ではあまり多くは報道されなかったと思いますが、初めてその実相が理解できました。

 

彼は命を賭けて、市民の立場からアメリカ政府の間違いを正そうとしたのです。売名でも何でもなく、正義感からです。だから、彼の言葉は淡々としていますが、ものすごく説得力があります。記者も天下の大スクープを取りたい気持ちはやまやまですが、それ以上にスノーデンの命や意思を最大限尊重する姿が印象的でした。これぞプロの仕事。

 

あらゆる事態を予測した上で暴露したスノーデンですが、やはり家族の身に触手が伸びると、混乱した姿を見せます。しかし、正義感によって意思を貫く。彼は、決して自己犠牲ではないと語ります。このまま何もしないで隠し続ける自分が許せない。だから、自分のために公表するのだと。

 

私の中で、政治家の演説とスノーデンの言葉がシンクロしてしまいました。正反対に。しかし若い市民の言葉には、スノーデンと共通する個人としての決意のようなものも垣間見えました。自分のために自分自身の言葉で語る「個人」、それが社会をいい方向に動かす原動力なのでしょう。

 

 

ところで、映画の中で、「プライバシーが守られなければ、自由もない」という言葉が紹介されます。考えてみれば、今の生活から自由を取り上げるのはどんどん容易になっているのですね。怖い話です。

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このページは、ブログ管理者が2016年6月20日 16:04に書いたブログ記事です。

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