「同一労働同一賃金」を考える

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同じ労働をして同じ成果を出したのなら、正社員であろうとアルバイトであろうと、同じ賃金を支払うべきである、これが「同一労働同一賃金」の意味です。一見するとその通りだと思いますね。でも、本当にそうでしょうか?

 

そもそも企業が支払う賃金は何の対価なのか、切り出したある一つの労働の対価なのでしょうか。もしそうなら、何もできない新卒を採用する企業などないでしょう。短期的に労働の成果を出せないのですから。

 

アルバイトや派遣社員は、原則企業側が育成することなく成果を出せる人たちです。短期の労働市場で調達可能な業務を、担当していただく人たちです。また、外部の専門家や機関にアウトソースすることも可能です。そういう業務は、原則正社員はする必要はありません。他の理由がなければですが。

 

そう考えると、企業が労働者に期待することは、ふたつありそうです。「職務」と「コミットメント」です。職務とは、先に書いた「同一労働同一賃金」が理にかなうような「仕事」です。企業が欲しいのは、目の前の「成果物」です。

 

もうひとつは、「コミットメント」ではないでしょうか。労働者に期待するコミットメントを定義するのは難しいですが、こんなことだと思います。

 ・長期的な関係性を望む

 ・自己の成長と組織の成長を同一のものと考える

 ・組織の維持、成長のためには自己の利益を一次的に失うことも厭わない(もちろん、長期的には報われるという信頼感に基づきます)

 ・個人の評価と同じかそれ以上にチームの評価を気にする

 

 

では、労働者の側の企業への期待はなんでしょうか?以下の三つが考えられます。

1)短期的賃金(自由度)

2)安定的な賃金(リスク回避)

3)自己の成長の場

 

1)短期的賃金は、アルバイトや派遣社員が期待するものでしょう。時間の使い方の自由度を安定よりも重視します。2)安定的賃金とは、生活を安定させるため、リスクを最小限にするために長期的な賃金を期待するものです。1)のような自由度は重視しません。3)は、労働の目的として賃金以上に自己の成長ややりがい、達成感などを重視します。マズローの欲求五段階説で言えば、承認欲求や自己実現欲求を満たすことを重要視します。

 

 

企業は、成長意欲とコミットメントが高い労働者を正社員としたいはずです。ただ、コミットメントはなかなか測定できないので、「時間」や「異動」の制約の有無で判断せざるをえません。会社の指示で、残業や休日出勤できるか、異動や転勤に従えるかという判断軸です。そうなると、先に書いたコミットメントの定義には合致するものの、家庭の事情で制限のかかる労働者は、正社員になれず、パートや契約社員となってしまいます。一方、制約はないものの、安定的賃金を稼ぐことだけを目的にした正社員も生まれることになります。いわゆる「ぶら下がり社員」です。これは、企業にとって好ましいことではありません。

 

では、安定的な賃金を期待し、コミットメントも高い労働者は正社員とすべきでしょうか?この層は、必ずしも職務内容によって賃金はぶれることを望みません。それよりも安定を重視します。終身雇用、年功賃金がもっともフィットする人たちです。この層がこれまでの日本企業を支えてきたわけですし、今後もそうだと思います。中核の正社員と言えるでしょう。安定がこの層の社員の能力を最大限発揮させます。逆に言えば、職務給や成果給は生産性を低下させかねません。

 

こう考えてくると、正社員とそれ以外の整理と、アクションが見えてきます。

正社員とはコミットメントが高い人。それよりも「職務」を期待する仕事には、正社員ではなく、非正社員を当てる。ただし、非正社員であっても、ある一定年数を勤務してコミットメントが認められれば、正社員への転換を促す。中途採用は、原則非正社員として採用し、転換を促す。(これが真の試用期間です)

 

また、正社員であっても、コミットメントが下がった場合は、非正社員への転換もある。

 

なお、賃金のレベルですが、職務給をベースにして、正社員はプレミアムを付けるのがフェアだと思います。また、正社員の中でも、安定賃金を重視する「中核層」と、成長を重視する「キャリア層」の二種類に分けて、報酬制度は変えるべきです。中核層は年功重視、キャリア層は能力重視でいくべきでしょう。なお、制限付きの社員はその程度に応じて、賃金をディスカウントすべきです。

大事なのは、会社の期待と個人の期待をすり合わせることと、変更の自由度を担保することです。あと、正社員と非正社員の違いは、能力によるものではなく、労働者が自らの「生き方」の違いによって選ぶべきもの、とういうふうになるべきだと思います。職務を提供したいのか、コミットメントを提供したいのか、それは人それぞれでしょう。

 

「同一労働同一賃金」をベースにするものの、それ以外の要素をその上に重ねて納得感のある制度とすることが求められています。今は、正社員の既得権益があまりに大きく、非正社員との格差が理不尽なほど大きい。労働への期待と報酬を透明にして、また移動の自由度も高めることで、日本の労働生産性はまだまだ向上できるでしょう。

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このページは、ブログ管理者が2016年4月26日 12:21に書いたブログ記事です。

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