集団の統合原理

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昨日、マンションの管理組合を例に、コミュニティーの難しさについて書きました。そもそも私の問題意識は、ある集団の中でそれぞれが大事にしている様々な価値を、他者とどう認め合い、必然的に生まれる対立に折り合いをつけて統合した組織や社会、コミュニティーにしてゆけばいいのか、にあります。

 

営利目的の企業体であれば、経済的価値だけで押し通せそうですが、私たちが属するのはそうではない集団(マンションの住民から、日本国民、人類レベルまで)のほうが圧倒的に多いはずです。

 

集団を結びつける統合の原理は3つあるとポランニーは指摘しています。それぞれの集団のパターンに従って相互に扶助する「互酬」、集団の中で貨幣や財を一手に集めたうえで、それを法や慣習、権力者の決定によって構成員に配分する「再分配」、市場のもとでの可逆的な個人間・集団間での財・サービスの移動である「交換」、これら三つの統合形態を組み合わせながら社会を形成しているのです。

 

イメージするかつての日本社会は、そのバランスが取れていたのでしょう。交換を原理としている「会社」ではたらきながら、家に帰れば地域コミュニティーの一員としての役割(道路の草刈り、消防団、お祭りでの役務など)を果たす。また、古くから「無尽」と呼ばれる金融面での相互扶助の仕組みがあり、実質的には「再分配」の役割を果たしていたそうです。また、村の篤志家が貧しいが賢い子どもを援助して、学校に通わせたという話もたくさんありました。これも再分配です。

 

こういったバランスのいい統合ができていたのは、個人間の信頼がベースにあったからです。そして、信頼の源泉は、お互い顔を知っており、しかも長期的に離れがたい状況にあることでしょう。長期持続的関係になるので、個人の利害と集団の利害は一致する余地が大きい。地域の環境がよければ、そこに住み続ける自分にとっても嬉しい。

 

考えてみれば、「交換」を基盤にした「会社」も、かつては社会の相似形だったともいえそうです。自分の仕事だけをやればいいのではなく、困っている社員がいれば、できる社員が面倒をみるのは当たり前でした。そこには、自分に何かあれば助けてもらえるという「お互いさま」の精神があります。

 

また、日本企業の賃金カーブは、右肩上がりの角度が他国に比べ急と言われます。つまり、若いうちは生産価値より少なめの給料をもらい、年を取るにつれて生産価値を超えた給料をもらうようになるということです。

 

一見不公平な仕組みのようですが、「生活給」という概念で捉えれば理に適っています。家庭を持ち子供が大きくなるに従って生活費は増えます。それに合わせて給料も増やしていく。「能力給」とはまったく異なるのです。これは、相対的若手から高齢者への「再分配」です。(年金や健康保険も基本的には同じ構造です。)これが成り立つのは、長期持続的関係、すなわち終身雇用的な考え方に社員も経営者も価値をおいている場合です。かつては、能力給より生活給のほうが納得感が大きかった。

 

つまり、日本企業は、一見「交換」原理だけで成り立っている組織を、コミュニティーと同じように三つの統合原理のバランスを重視してきた。社会の相似形ともいえる組織をつくってきたのです。

 

しかし、状況は大きく変わりつつあります。会社は社会やコミュニティーではなく、労働力と賃金を交換する場のよう。さらに、本来は三原理で統合されるべき地域コミュニティーも、「交換」が幅を利かせるようになっています。(お金を払うことで消防団入りを拒否できる等)

 

マンションの住民は、そもそもコミュニティーとの意識すら抱いていないかもしれません(賃借住民が混じっていることもそれを促している)。資産価値の維持向上という交換価値のみで統合しているように見えなくもありません。

 

企業も含め社会が「交換」偏重になっていくなかで、それの歯止めになるのは「公共精神」であり、それを仕組みとして実現させるのは政治のはず。そもそも、すべての基盤にあるべきなのは相互の「信頼」。しかし、それを政治が壊しているのが、現実に起きていることなのかもしれません。

 

以下は、「経済時代の終焉」からの引用です。たまたま、マンション管理組合総会と本書を読んでいる時期が重なり刺激を受けました。

 

経済のゆたかさを「目的」から「結果」へと置き換える、そういう発想の転換が必要だ。経済は経済的な現象だけで成り立っているのではない。経済のゆたかさは、私たちが生きるに値する「善い社会」を構築する過程で派生してくる、ひとつの結果なのである。



経済の時代の終焉 (シリーズ 現代経済の展望)
井手 英策
4000287311

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このページは、ブログ管理者が2016年3月 4日 11:16に書いたブログ記事です。

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