切れ味鋭い学者の指摘は、もやもやした不快感への解毒剤となります。今日で終わる印南一路慶應義塾大学教授の日経朝刊「やさしい経済学 『医療の分かりにくさ』」は、そういう連載でした。こういう見識ある論を読んだとき、いくばくかの税金投入されている大学の価値を、かろうじて感じることができます。
医療問題における健康格差問題、医療崩壊問題、医療費問題を取り上げ、問題設定自体が間違っていることを指摘しています。詳細はここでは触れませんが、なぜこのような問題設定の錯誤が発生するかについての、今日の見解はなるほどをうなずくことしきりでした。真の問題設定を妨げている原因を四つあげています。
① 感情論に訴えやすく、その結果問題を単純化しがち
② 自分たちが求める問題解決を実現すべく、問題設定をするかえる結論先行型議論が起きがち
③ 真の問題解決にはほど遠くても、一見問題解決したと見せられる
④ 深刻な理念の対立を避けることができる
問題解決の先送りを合理化するための方便となるように、問題設定をすり替えるわけです。
これは、企業でも全く同じですね。たとえば、・・・・。
① 派遣労働者の活用が企業の競争力を保ち、国内での雇用も守る
→「国内正社員の雇用を守る」ことが、まだ国民の琴線に響くようです
② 成果主義の導入が、社員のモチベーションを高め、企業を強くする
→総人件費圧縮の方便として成果主義を活用したことは周知の事実です
③ 増資することにより自己資本比率を高め、株主に報いることができるようになる
→一見自己資本比率向上は、好ましいことですが、真の問題は増資した資金を有効に活用して、希釈化した既存株主の保有価値を、向上させることができるかどうかです。
④ 新卒採用停止で人件費を削減する
→真の問題は、社員の新陳代謝を適切に進められるかどうかです。新卒採用での雇用調整が、どれだけその後の企業運営に悪影響を与えたかは、企業自身が深く理解しています。雇用(給与)の保障か、企業の健全化か、避けては通れない理念の対立です。
基本右肩上がりの経済であれば、問題の先送りも意味があったことでしょう。しかし、現在は逆です。早く高度成長のパラダイムから脱却しなければ、企業も国も衰退を免れることはできないでしょう。