ベンチャーとイノベーション

ライブドア、コムスン、村上ファンド・・・。数年前からベンチャー企業への旗色は悪く、近年はあまりベンチャーという言葉自体を聞かなくなりました。それを称して、日本は保守化してイノベーションが生まれなくなってしまうとのコメントも珍しくありません。

 

本当にそうなんでしょうか。そもそもベンチャー企業とは何を指すのか。リスクを取って新たに企業を興すことを指すのであれば、ずっと昔から営々と存在しています。開業率は、80年頃以降、5%あたりで推移しています。直近で見ると91年-93年の2.7%をボトムに04年-06年の5.1%までほぼ上昇を続けています。(「中小企業白書2009年版」)

 

世の中でいうベンチャーとは、それとは少し違うニュアンスで使われているように感じます。ITやサービス業などの既存大手競合が存在しないマーケットで起業し、急成長を遂げ、短期間で上場を果たし、若手起業家として名声を得るというイメージでしょうか。上場を手段ではなく、目的と考える人たちです。

 

確かに一時期、そういう起業家像がもてはやされた時期がありました。産業構造が大きく変わる時期には、いつの時代にもそういうことが起こります。それを煽る金融機関や投資家がいるからです。しかし、いずれ変化が落ち着けば、日本経済全体が、祭りの後の債務処理に追われるわけです。それが揺り戻しです。「踊る阿呆に見る阿呆」といいますが、見るだけでは済まずお金を入れるからです。

 

近年のミニバブルでは、産業構造変化の波(インターネットの進化)に加えて、マネー資本主義の世界的ブームが重なり、波が何倍にも増幅されました。それに踊らされ、一生かかっても使えないような莫大な資産を獲得することを夢見て起業する人を、ベンチャー起業家と呼ぶなら、自然な淘汰が今起きているにすぎないといえるでしょう。イノベーションとは別の次元の問題です。

 

最近では、上場などはなから目指さず、世の中への貢献を第一に事業をする社会起業家が、日本でも増えつつあります。前の世代の「踊る阿呆」の姿を見て、別の価値観で起業する人たちです。まだまだ萌芽ですが、そこにかすかな期待を感じます。しかし、それがまたファッションになってしまわないように、注意しなければなりません。

 

 

もし、日本でイノベーションを盛んにすることが目的であれば、付焼刃の起業家支援やハイリスク市場整備ではなく、大企業のスリム化を促すことに重点を置くべきと考えます。日本経済の非効率性は中小企業にではなく、何でも抱え込む習性のある大企業に温存されています。技術や人材などがそこから解き放たれて、初めてイノベーションがそこここで起こるようになるのではないでしょうか。

 

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このページは、福澤が2010年3月 9日 10:51に書いたブログ記事です。

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